「切らない豊胸」の注入に注意:学会の診療指針は、非吸収性の充填剤の注入を「行わないことを強く推奨」。しこり・感染・体内での移動、乳がん検診への影響も。米国FDAはヒアルロン酸でも豊胸を認めていない
日本皮膚科学会・日本形成外科学会・日本美容外科学会など5学会の「美容医療診療指針」(2020年)は、豊胸を希望する人に、非吸収性の充填剤(フィラー)の注入は勧められない(行わないことを強く推奨)としています。しこり・痛み・変形・感染などの合併症が相次ぎ、いったん起きると乳房の切除と再建が必要になることも。吸収されるヒアルロン酸でも、大量注入による硬さやしこり、乳がん検診への影響が指摘され、米国FDAは豊胸への充填剤の使用を認めていません。脂肪注入との違いもまとめました。

メル美友だちが「注射だけでバストアップできる、切らないから安心」っていう広告を見て、迷ってるんだって。

プレ男切らないなら、手術より安全そうに聞こえるけど…。実際はどうなんだろう。
こんにちは、Dr. Taro です。 「美容医療」から、今回は注入による豊胸(乳房増大)の話です。日本皮膚科学会・日本形成外科学会・日本美容皮膚科学会・日本美容外科学会(JSAPS・JSAS)の5学会による「美容医療診療指針」(令和元年度厚生労働科学特別研究事業、2020年)の「第3章 乳房増大」をもとにまとめ、改訂版(令和3年度厚生労働科学研究補助金)の内容も確認しました。
非吸収性の充填剤:「行わないことを強く推奨」
- 指針は、豊胸を希望する人に、体に吸収されない充填剤(非吸収性フィラー)の注入は勧められないとし、推奨度は「行わないことを強く推奨する」です
- 理由は、過去にくり返されてきた健康被害です。安全性は「保障できない」、承認状況は「未承認」とされています
くり返されてきた歴史
- 豊胸への注入は、1900年前後のヨーロッパのワセリンやパラフィンに始まり、1950年代には日本でゲル状のシリコンが使われましたが、どれもさまざまな合併症で使われなくなりました
- 1990年代後半に開発されたポリアクリルアミドハイドロジェル(PAAG)も、のちにしこり、痛み、変形などの報告が相次ぎ、安全なものではないとわかりました
- 最近も、別の注入剤で、体の中で移動する(migration)、感染といった、治療の難しい合併症の報告が相次いでいるとされています。指針には、こうした注入剤の一部が名前を変えて扱われていることについての注釈もあります

メル美何度も「新しくて安全」と言われては、合併症で使われなくなってきたんだ…。
合併症が起きると
- 豊胸のあとの感染は、全身の感染症や重い副作用を起こすことも多く、治療が難しくなります
- PAAGの豊胸のあと、授乳をきっかけに感染し、その後授乳ができなくなったという報告もあります
- いったん合併症が起きると、治すには注入したものを手術で完全に取り除く必要があり、そのために乳房の切除と再建が必要になることも多く、大きな苦痛をともないます
学会などの共同声明
- 日本形成外科学会、日本美容外科学会(JSAPS)、日本美容外科学会(JSAS)、日本美容医療協会の4団体は、2019年に「非吸収性充填剤注入による豊胸術に関する共同声明」を出し、「安全性が証明されるまで非吸収性充填剤を豊胸目的に注入することは実施するべきではない」と警告しています(指針より)
吸収されるヒアルロン酸なら安全?
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胸への注入では、顔への注入で問題になる失明や脳梗塞のような血管の詰まりの報告は見当たらず、吸収されるヒアルロン酸は、より安全に思えるかもしれません
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しかし指針は、吸収される充填剤でも、
- 大量に注入するための硬さ(被膜拘縮)やしこり(結節)
- 乳がん検診への影響
- くり返し注入することによる長く続く炎症が、乳がんのリスクを高める可能性
も考えなければならないとしています
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実際に、米国FDA(食品医薬品局)は、豊胸に非吸収性だけでなく、吸収性の充填剤を使うことも許可していないことを忘れてはならない、としています
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改訂版(令和3年度)では、ヒアルロン酸による豊胸についての項目が加わり、「行わないことを強く推奨する」とされました。硬さ(被膜拘縮)や乳がん検診の妨げになる可能性、米国FDAが許可していないこと、ヨーロッパで使われていた豊胸用のヒアルロン酸製剤も認証(CEマーク)が撤回されたことなど、世界的にも承認品がないことが理由です
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ヒアルロン酸で豊胸をした人は、マンモグラフィだけでなく、超音波検査やMRIなどが必要になる場合がある(「行うことを弱く推奨」)とされています
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顔へのヒアルロン酸などの注入のリスクはヒアルロン酸などの「注入(フィラー)」の記事もどうぞ

学会の診療指針は、豊胸のための非吸収性の充填剤の注入を「行わないことを強く推奨」しています。「切らないから安全」とは限らないので、注入するものと合併症について、医師から説明を受けて慎重に考えましょう。
脂肪注入は?
- 自分の脂肪を吸引して胸に注入する方法について、指針は「治療を希望する患者には、行うことを強く推奨」としています。ただし、適切な患者選択、手術前の評価、経験のある医師による丁寧な手術、手術後のフォローアップを着実に行うことが条件です
- 研究のまとめでは、全体の合併症率は17.2%で、内訳はしこり33.3%、痛み25%、血腫16.4%など。マンモグラフィーで微小な石灰化が9%、粗大な石灰化が7%に見られました。死亡などの重い合併症は報告されていませんでした
- 脂肪が壊死してできるしこりや石灰化は、画像で乳がんとの見分けが問題になることがあります。指針は、手術後の画像検査によるフォローアップを「行うことを強く推奨」しています
- 脂肪注入による豊胸は、乳がんの遺伝子変異(BRCA1/2)がなく、乳がんの家族歴のない人が望ましいとされています
受ける前に、受けたあとに
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何を注入するのか(吸収されるか、承認されているか)を、医師から説明を受けて確かめましょう
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乳がん検診を受けるときは、豊胸の手術や注入を受けたことを必ず伝えましょう
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胸にしこり、痛み、赤み、はれ、熱などが出たら、早めに医療機関へ
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受ける前のチェックは美容医療を受ける前の4つのチェック、医師でないスタッフが治療法を決めるなどの違法な例は美容クリニックの「カウンセラー」と違法な例の記事もどうぞ
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乳がん検診そのものについては乳がんと乳がん検診の記事もどうぞ

メル美友だちに、学会の指針のことを伝えてみる。決める前に、何を入れるのかちゃんと聞いてほしいな。
まとめ
- 5学会の診療指針は、豊胸への非吸収性充填剤の注入を「行わないことを強く推奨」
- ワセリン、パラフィン、シリコン、PAAG…と、合併症で使われなくなる歴史がくり返されてきた
- 合併症が起きると、乳房の切除と再建が必要になることも
- ヒアルロン酸による豊胸も、改訂版(令和3年度)で「行わないことを強く推奨」。乳がん検診への影響などが指摘され、米国FDAは豊胸への充填剤の使用を認めていない
- 脂肪注入は条件つきで「強く推奨」。手術後の画像検査によるフォローアップを
参考文献
- 日本皮膚科学会, 日本形成外科学会, 日本美容皮膚科学会, 日本美容外科学会(JSAPS), 日本美容外科学会(JSAS). 美容医療診療指針(令和元年度厚生労働科学特別研究事業). 日本美容外科学会会報 42(特別号), 2020. 第3章 乳房増大(CQ3-1、CQ3-2-1、CQ3-2-2). https://www.dermatol.or.jp/dermatol/wp-content/uploads/xoops/files/guideline/biyosinryo.pdf (閲覧日:2026年10月4日)
- 日本皮膚科学会, 日本形成外科学会, 日本美容皮膚科学会, 日本美容外科学会(JSAPS), 日本美容外科学会(JSAS). 美容医療診療指針(令和3年度厚生労働科学研究補助金). 日本美容外科学会会報 44(特別号). https://www.dermatol.or.jp/dermatol/wp-content/uploads/xoops/files/guideline/biyo2v.pdf (閲覧日:2026年10月5日)(第3章。ヒアルロン酸による乳房増大は改訂版で追加)
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診断・治療に代わるものではありません。 気になる症状や不安がある場合は、医療機関にご相談ください。