【テクノロジー解説】iPS細胞の治療はいまどこまで来た?目の病気で始まった移植は、パーキンソン病や心臓病の臨床試験へ。他人のiPS細胞からつくった細胞を移植し、2年間で重い副作用やがん化は見られなかった【Nature 2025】
2006年に生まれたiPS細胞を使う治療の研究が進んでいます。最初は、患者さん本人の皮膚からつくったiPS細胞を目の病気(加齢黄斑変性)の人に移植した報告でした(2017年)。その後、他人のiPS細胞からあらかじめつくった細胞を使う方法に広がり、京都大学病院のパーキンソン病の臨床試験(第I/II相、7人)では、2年間で重い有害事象はなく、移植した細胞は生き残ってドパミンをつくり、腫瘍もできませんでした(Nature 2025)。大阪大学の心筋シートの臨床試験でも、最初の3人で移植した細胞による有害事象はありませんでした。ただし、まだ少人数の研究で、効果をはっきりさせるにはさらに研究が必要です。
目次

プレ男iPS細胞って、ノーベル賞から10年以上たったよね。もう病気の治療に使われてるの?

メル美パーキンソン病の研究のニュースを見たことがあるよ。
こんにちは、Dr. Taro です。 「テクノロジー解説」、今回はiPS細胞を使った治療の最新の進歩です。おもに査読のある論文(Nature、New England Journal of Medicine など)の要旨をもとにまとめました。iPS細胞そのものとノーベル賞の話はiPS細胞ってなに?へ。
最初の移植:本人の細胞で、目の病気に
- 2017年に報告された研究では、目の病気(滲出型の加齢黄斑変性)の患者さん本人の皮膚の細胞から iPS 細胞をつくり、網膜の細胞(網膜色素上皮)のシートにして、1人に移植しました
- 移植の1年後、シートはそのまま残っていました。視力はよくも悪くもなっていませんでした
- この研究は、iPS 細胞からつくった細胞を人に移植できるかどうかを確かめるためのものでした
「他人のiPS細胞」から、あらかじめつくる方法へ
- その後、他人の iPS 細胞からあらかじめつくっておいた細胞を移植する方法(他家移植)の研究が進んでいます。下の2つの臨床試験も、他人の iPS 細胞を使っています
パーキンソン病:京都大学の臨床試験(Nature 2025)
- パーキンソン病は、脳でドパミンという物質をつくる神経細胞が減って、体が動かしにくくなる病気です
- 京都大学病院の第I/II相臨床試験では、50〜69歳の7人に、iPS 細胞からつくったドパミン神経のもとになる細胞を、脳の両側に移植しました
- 24か月の観察で、
- 重い有害事象はありませんでした(軽い〜中くらいの有害事象は73件。薬をそのまま続けたことによる、体が勝手に動く症状〔ジスキネジア〕がふえた人もいました)
- MRI で、移植した細胞が大きくなりすぎる(腫瘍のような)変化は見られませんでした
- 効果を評価した6人のうち4人で、薬が切れたときの運動症状の点数がよくなり、5人で薬が効いているときの点数がよくなりました
- 脳でドパミンがつくられているかを調べる検査の値は、平均で44.7%上がりました
- 論文は、他人の iPS 細胞からつくった細胞が生き残り、ドパミンをつくり、腫瘍をつくらなかったことから、安全性と、効果の可能性が示されたとしています

プレ男移植した細胞が、脳の中でちゃんとドパミンをつくってたんだ!
心臓:大阪大学の心筋シート
- 大阪大学のチームは、他人の iPS 細胞からつくった心臓の筋肉の細胞のシートを、重い心不全(虚血性心筋症)の人に移植する臨床試験をしています
- 最初の3人の報告(2023年)では、1年間で移植した細胞による有害事象はなく、心不全の症状はよくなりました。3人のうち2人で、心臓の動きや血流もよくなりました
- 一方で、3人とも、免疫をおさえる薬をやめたあとに移植した細胞に対する抗体がふえていて、効果と免疫の反応の関係は、さらに人数をふやして調べる必要があるとしています

iPS細胞の治療は、本人の細胞を使った目の病気の移植から始まり、他人のiPS細胞からつくった細胞をパーキンソン病や心臓病の人に移植する臨床試験へと進んでいます。ただし、どれもまだ少人数の研究です。
いまの段階を正しく知る
- ここで紹介したのは、少ない人数で、まず安全かどうかを確かめる段階の研究です
- がん化の心配については、パーキンソン病の総説も、ES 細胞や iPS 細胞を使う治療のいちばん重大な心配は、未分化の細胞が残ってふえ、腫瘍ができることだとしています。そのため、目的の細胞だけを選び出す工夫がされています
つながる技術
- 遺伝子を書きかえる:CRISPR-Cas9ってなに?
- 細胞にタンパク質のつくり方を届ける:mRNAワクチンってなに?

プレ男「夢の治療」が、少しずつ「確かめられた治療」に近づいてるんだね。

メル美まだ少人数の研究っていうのも、ちゃんと覚えておこう。
まとめ
- 最初の報告(2017年)は、本人の iPS 細胞からつくった網膜の細胞を目の病気の1人に移植。1年後もシートは残った
- いまは、他人の iPS 細胞からあらかじめつくった細胞を使う研究が進んでいる
- パーキンソン病(京都大学、7人、Nature 2025):2年間で重い有害事象なし、細胞は生き残ってドパミンをつくり、腫瘍なし
- 心臓(大阪大学、最初の3人):1年間で移植細胞による有害事象なし、症状は改善
- どれも少人数の研究。効果をはっきりさせるには、さらに研究が必要
参考文献
- Mandai M, Watanabe A, Kurimoto Y, et al. Autologous Induced Stem-Cell-Derived Retinal Cells for Macular Degeneration. N Engl J Med. 2017;376(11):1038-1046. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28296613/ (閲覧日:2026年10月7日)
- Sawamoto N, Doi D, Nakanishi E, et al. Phase I/II trial of iPS-cell-derived dopaminergic cells for Parkinson’s disease. Nature. 2025. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40240591/ (閲覧日:2026年10月7日)
- Takahashi R, Nakanishi E, Yamakado H, et al. Allogenic transplantation therapy of iPS cell-derived dopamine progenitors for Parkinson’s disease — Current status of the Kyoto Trial and future perspectives. Parkinsonism Relat Disord. 2025. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40307147/ (閲覧日:2026年10月7日)
- Kawamura T, Ito Y, Ito E, et al. Safety confirmation of induced pluripotent stem cell-derived cardiomyocyte patch transplantation for ischemic cardiomyopathy: first three case reports. Front Cardiovasc Med. 2023;10:1182209. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37781295/ (閲覧日:2026年10月7日)
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診断・治療に代わるものではありません。 気になる症状や不安がある場合は、医療機関にご相談ください。