【テクノロジー解説】mRNAワクチンってなに?ウイルスの「設計図の一部」を届けて、体に免疫の練習をさせる。2023年ノーベル生理学・医学賞、数分〜数日で分解されDNAには組みこまれない
mRNAワクチンは、ウイルスのたんぱく質をつくる設計図(mRNA)の一部を、脂質の膜に包んで注射するワクチンです。体の細胞がその設計図からウイルスのたんぱく質の一部をつくり、それに対する抗体などができることで免疫がつきます。人工的につくったmRNAは炎症を起こしやすいという壁を、カリコ博士とワイスマン博士が「塩基の化学修飾」で乗りこえ、2023年のノーベル生理学・医学賞を受けました。細胞の培養がいらず、早くつくれるのが強み。厚生労働省によると、注射したmRNAは数分〜数日で分解され、人のDNAに組みこまれることはありません。

プレ男コロナのときに「mRNAワクチン」ってよく聞いたけど、ふつうのワクチンと何がちがうの?遺伝子を入れるって聞いて、ちょっと不安だったんだよね。

メル美ノーベル賞をとった技術なんだよね。しくみを知りたい!
こんにちは、Dr. Taro です。 「テクノロジー解説」、今回はmRNAワクチンです。ノーベル賞の公式発表(2023年 生理学・医学賞)と、厚生労働省の「新型コロナワクチンQ&A【2024年3月時点】」をもとにまとめました。
そもそも、ワクチンとは
ノーベル賞の発表によると、
- ワクチンは、特定の病原体に対する免疫の反応をあらかじめつくるものです。あとで病原体にさらされたとき、体が先手を打ってたたかえるようになります
- むかしからあるのは、ウイルスを殺したり弱めたりしたワクチン(ポリオ、はしか、黄熱など)
- その後、ウイルスの一部のたんぱく質を使うワクチン(B型肝炎、HPV など)や、別の無害なウイルスに遺伝情報をのせる「ベクター」ワクチンも開発されました
- ただ、これらをつくるには大規模な細胞の培養が必要で、感染症が急に広がったときにすばやくつくるのが難しいという課題がありました
mRNAワクチンのしくみ
- 私たちの細胞では、DNA の遺伝情報が mRNA(メッセンジャーRNA) に写しとられ、それを型にしてたんぱく質がつくられます
- mRNAワクチンは、ウイルスのたんぱく質をつくるもとになる遺伝情報の一部(mRNA)を注射します(厚生労働省)
- 新型コロナの mRNA ワクチンは、ウイルスが人の細胞に入るときに使う「スパイクたんぱく質」の設計図となる mRNA を、脂質の膜に包んだものです
- 細胞にとりこまれると、その mRNA をもとにスパイクたんぱく質がつくられ、それに対する抗体や細胞性免疫ができることで、感染症を予防できると考えられています

プレ男ウイルスそのものじゃなくて、「部品の設計図」を届けて、体に練習させるってことか。
ノーベル賞につながった発見
ノーベル賞の発表によると、
- 1980年代には、細胞の培養なしで mRNA をつくる方法ができていました。でも、試験管でつくった mRNA は不安定で体に届けにくく、炎症を起こしてしまうという壁がありました
- ハンガリー出身の生化学者カタリン・カリコ博士と、免疫学者ドリュー・ワイスマン博士は、試験管でつくった mRNA が「異物」と見なされて炎症が起きるのに、哺乳類の細胞の mRNA ではそうならないのはなぜか、に注目しました
- mRNA には A・U・G・C の4つの「塩基」があります。哺乳類の細胞の mRNA では塩基がよく化学的に修飾(変化)されているのに、試験管でつくった mRNA はそうなっていませんでした
- 塩基を修飾した mRNA をつくって試したところ、炎症の反応がほとんどなくなりました(2005年に発表)。さらに、修飾した mRNA ではたんぱく質がたくさんつくられることもわかりました(2008年、2010年)
- 新型コロナの流行のあと、塩基を修飾した mRNA ワクチンが記録的な速さで開発され、約95%の予防効果が報告され、2020年12月には承認されました
この発見で、2人は2023年のノーベル生理学・医学賞を受けました。発表では、mRNA ワクチンは柔軟に、早く開発できるので、ほかの感染症のワクチンや、将来は治療用のたんぱく質を届けること、一部のがんの治療にも使われる可能性がある、としています。

mRNAワクチンは、ウイルスのたんぱく質の設計図の一部を届けて、体に免疫をつくらせるしくみです。注射したmRNAは数分から数日で分解され、人のDNAに組みこまれることはないとされています。
「遺伝子が変わる」は本当?
厚生労働省のQ&A【2024年3月時点】では、次のように説明しています。
- 注射する mRNA は、数分から数日の時間の経過とともに分解されていきます
- mRNA は、人の遺伝情報(DNA)に組みこまれるものではありません
- 体の中では DNA から mRNA がつくられますが、情報の流れは一方通行で、mRNA から DNA はつくられません
- このため、mRNA を注射しても、その情報が長く残ったり、精子や卵子の遺伝情報にとりこまれたりすることはないと考えられています
- こうした一般的な科学の知見に加えて、承認のときには、動物試験や臨床試験の結果にもとづいて安全性が審査されます

メル美設計図は使い終わったら分解される、っていうことね。
遺伝子の技術つながりで
DNA のねらった場所を切って書きかえる「遺伝子のハサミ」は、【テクノロジー解説】CRISPR-Cas9ってなに?へ。mRNA ワクチンは「設計図の一時的なコピー」を届けるだけで DNA を変えないのに対し、CRISPR-Cas9 は DNA そのものを編集する技術、というちがいがあります。

プレ男「遺伝子を入れる」じゃなくて「設計図を届けて、使ったら消える」なんだね。イメージが変わった。

メル美ほかの病気のワクチンやがんの治療にも広がるかもしれないって、すごいね。
免疫のブレーキを外してがんを攻撃させる治療は、【テクノロジー解説】がんの「免疫チェックポイント療法」ってなに?へ。
最初のワクチンと、人類がただ1つ根絶した感染症の物語は、天然痘の根絶へ。
同じRNAの仲間で、遺伝子のブレーキ役をする小さなRNAは、マイクロRNAへ。
まとめ
- mRNAワクチンは、ウイルスのたんぱく質の設計図(mRNA)の一部を、脂質の膜に包んで届ける
- 体の細胞がたんぱく質の一部をつくり、抗体などができて免疫がつく
- 塩基の化学修飾で炎症の壁を乗りこえた発見が、2023年ノーベル生理学・医学賞
- 細胞の培養がいらず、早くつくれるのが強み
- 注射した mRNA は数分〜数日で分解され、DNA には組みこまれない(厚生労働省)
参考文献
- The Nobel Assembly at Karolinska Institutet. Press release: The Nobel Prize in Physiology or Medicine 2023. NobelPrize.org. https://www.nobelprize.org/prizes/medicine/2023/press-release/ (閲覧日:2026年10月5日)
- 厚生労働省. 新型コロナワクチンQ&A【2024年3月時点】(「mRNAワクチンやウイルスベクターワクチンは新しい仕組みのワクチンということですが、どこが既存のワクチンと違うのですか。」「mRNAワクチンはワクチンとして遺伝情報を人体に投与するということで、将来の身体への異変や将来持つ予定の子どもへの影響を懸念しています。」). https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_qa_archive.html (閲覧日:2026年10月5日)
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