【テクノロジー解説】CRISPR-Cas9(クリスパー・キャスナイン)ってなに?DNAをねらった場所で切る「遺伝子のハサミ」。2020年ノーベル化学賞、病気の治療やゲノム編集食品にも
CRISPR-Cas9は、生き物の設計図であるDNAの、ねらった場所を切って書きかえられる技術です。もとは細菌がウイルスから身を守るしくみで、シャルパンティエ博士とダウドナ博士が2012年に「遺伝子のハサミ」として使えることを示し、2020年のノーベル化学賞を受けました。米国では2023年12月、この技術を使った初めての治療(鎌状赤血球症)が承認され、日本でもゲノム編集でつくったトマトや魚が届出されています。しくみと使われ方、気をつけたい点をやさしく解説します。

プレ男ニュースで「クリスパー」ってよく聞くけど、正直なにかわからない…。遺伝子をいじるって、なんかこわいイメージ。

メル美ノーベル賞もとったんだよね。病気の治療にも使われてるって聞いたよ。
こんにちは、Dr. Taro です。 社会を変える新しい技術をやさしく解説する「テクノロジー解説」。第1回は、CRISPR-Cas9(クリスパー・キャスナイン)です。ノーベル賞の公式発表、米国FDA(食品医薬品局)、厚生労働省の資料をもとにまとめました。
ひとことで言うと「遺伝子のハサミ」
- 生き物の体は、DNAという「設計図」をもとにつくられています
- CRISPR-Cas9 は、この DNA のねらった場所を切ることができる道具です。ノーベル賞の発表では「遺伝子のハサミ(genetic scissors)」とよばれています
- 切ったところで、DNA の情報を書きかえることができます。これを「ゲノム編集」といいます
- 動物・植物・微生物の DNA を、とても高い精度で変えられるようになりました。以前は時間がかかり、難しく、ときには不可能だった作業が、数週間でできるようになった、とされています

プレ男設計図の、ねらったページの、ねらった1行だけを書きかえられる、みたいな感じ?
もとは「細菌の免疫」だった
ノーベル賞の発表によると、
- シャルパンティエ博士は、人に害をおよぼす細菌の一つ(化膿レンサ球菌)を研究するなかで、tracrRNA という未知の分子を見つけました。これは、細菌がウイルスの DNA を切って身を守る、昔からの免疫のしくみ(CRISPR/Cas)の一部でした
- 2011年にその発見を発表し、同じ年に、RNA にくわしいダウドナ博士と共同研究を始めました
- 2人は、細菌のハサミを試験管の中で再現し、使いやすいように部品を単純化しました
- さらに、もともとはウイルスの DNA を見分けるハサミを、どんな DNA でも、あらかじめ決めた場所で切れるようにプログラムしなおせることを示しました(2012年)
この功績で、2人は2020年のノーベル化学賞を受けました。
どんなことに使われている?
研究と農作物
- ノーベル賞の発表によると、2012年の発見以来、利用は爆発的に広がり、基礎研究で多くの重要な発見に役立っています
- 植物の研究では、カビ・害虫・干ばつに強い作物の開発が進んでいます
病気の治療
- 米国FDA は、2023年12月8日、CRISPR/Cas9 を使った初めての治療を承認しました。12歳以上の、痛みの発作をくり返す鎌状赤血球症(赤血球の形が変わる遺伝性の病気)の人が対象です
- 患者さん自身の血液のもとになる細胞(造血幹細胞)を取り出して CRISPR/Cas9 で編集し、体にもどします。もどした細胞が骨髄で増え、胎児のときのヘモグロビンをつくる量がふえるしくみです
- 臨床試験では44人が治療を受け、評価できた31人のうち29人(93.5%)が、少なくとも12か月続けて、重い発作がない状態になりました
- ノーベル賞の発表では、新しいがんの治療の臨床試験も進んでいるとしています
ゲノム編集食品(日本)
日本では、ゲノム編集技術を使った食品は、厚生労働省の取扱要領(令和元年10月1日から)にもとづいて、事前相談・届出を行うしくみになっています。厚生労働省のページで公開されている届出の一覧には、たとえば次のようなものがあります。
| 食品 | 届出 |
|---|---|
| GABA(ギャバ)を多くふくむトマト | 2020年12月 |
| 食べられる部分を増やしたマダイ | 2021年9月 |
| 成長の早いトラフグ | 2021年10月 |
| ワキシートウモロコシ | 2023年3月 |
| 成長の早いヒラメ | 2023年10月 |

CRISPR-Cas9は、DNAのねらった場所を切って書きかえる「遺伝子のハサミ」です。米国では2023年に、この技術を使った初めての治療が承認されました。研究、農作物、医療と、使われる場が広がっています。
気をつけたいこと
ノーベル化学賞の選考委員長は、「この遺伝子の道具にはとてつもない力があり、私たち全員に影響する」と述べています。
- 技術が強力なぶん、どこまで使ってよいか(とくに、次の世代に受けつがれる人の遺伝子を変えることなど)は、世界中で議論が続いています
- 治療に使うときは、ねらっていない場所を切ってしまうことなどの安全性を、臨床試験で確かめる必要があります

プレ男こわいだけじゃなくて、病気を治す道具にもなってるんだね。どう使うかを、みんなで考えるのが大事なのか。

メル美スーパーでゲノム編集のトマトを見かけたら、このしくみを思い出してみよう。
ウイルスの設計図を一時的に届けるワクチンは、【テクノロジー解説】mRNAワクチンってなに?へ。
大人の細胞を、どんな細胞にもなれる状態にもどす技術は、【テクノロジー解説】iPS細胞ってなに?へ。
DNAのねらった部分をふやして調べる技術は、【テクノロジー解説】PCRってなに?へ。
体の中で直接編集する治療や、1文字だけ書きかえる塩基編集など、最新の進歩はCRISPRはいまどこまで来た?へ。
まとめ
- CRISPR-Cas9 は、DNA のねらった場所を切って書きかえる「遺伝子のハサミ」
- もとは細菌がウイルスから身を守るしくみ。2012年に道具として使えることが示され、2020年ノーベル化学賞
- 米国で2023年12月、CRISPR/Cas9 を使った初めての治療(鎌状赤血球症)が承認
- 日本でも、ゲノム編集のトマトや魚が届出されている
- 強力な技術だからこそ、使い方のルールづくりが大切
参考文献
- The Royal Swedish Academy of Sciences. Press release: The Nobel Prize in Chemistry 2020. NobelPrize.org. https://www.nobelprize.org/prizes/chemistry/2020/press-release/ (閲覧日:2026年10月5日)
- U.S. Food and Drug Administration. FDA Approves First Gene Therapies to Treat Patients with Sickle Cell Disease(2023年12月8日). https://www.fda.gov/news-events/press-announcements/fda-approves-first-gene-therapies-treat-patients-sickle-cell-disease (閲覧日:2026年10月5日)
- 厚生労働省. ゲノム編集技術応用食品等. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/bio/genomed/index_00012.html (閲覧日:2026年10月5日)
- 厚生労働省. ゲノム編集技術応用食品及び添加物の食品衛生上の取扱要領に基づき届出された食品及び添加物一覧. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/bio/genomed/newpage_00010.html (閲覧日:2026年10月5日)
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診断・治療に代わるものではありません。 気になる症状や不安がある場合は、医療機関にご相談ください。