【テクノロジー解説】CRISPRはいまどこまで来た?点滴1回で、体の中の遺伝子を直接編集する臨床試験。DNAを切らずに1文字だけ書きかえる「塩基編集」で、重い病気の赤ちゃん1人のための治療もつくられた【NEJM・Nature】
2020年にノーベル化学賞を受けたCRISPR-Cas9の研究は、さらに進んでいます。これまでの治療は、体の外に取りだした細胞を編集して戻す方法でしたが、点滴1回で、体の中(肝臓)の遺伝子を直接はたらかなくする臨床試験が進み、原因のタンパク質が約9割減ったと報告されています(NEJM 2024・2025)。DNAを切らずに1文字だけ書きかえる「塩基編集」(2016年)や、ねらった場所を書きかえる「プライム編集」(2019年)も生まれ、2025年には、重い遺伝性の病気の赤ちゃん1人のためにつくった塩基編集の治療が報告されました。どれもまだ研究の段階です。
目次

プレ男「遺伝子のハサミ」のCRISPRって、ノーベル賞のあとはどうなったの?

メル美切らずに1文字だけ書きかえる方法もあるって聞いたよ。
こんにちは、Dr. Taro です。 「テクノロジー解説」、今回はCRISPR(ゲノム編集)の最新の進歩です。おもに査読のある論文(New England Journal of Medicine、Nature)の要旨をもとにまとめました。CRISPR-Cas9 のしくみと、2023年に米国で承認された鎌状赤血球症の治療についてはCRISPR-Cas9ってなに?へ。
進歩1:体の中で、直接編集する
- これまでの CRISPR の治療は、患者さんの細胞を体の外に取りだして編集し、体に戻す方法でした
- いま研究が進んでいるのは、薬のように点滴で体に入れ、体の中の細胞を直接編集する方法です
- 例が、トランスサイレチン(TTR)アミロイドーシスという病気です。肝臓でつくられる TTR というタンパク質がこわれた形で心臓や神経にたまり、進行する重い病気です
- 臨床試験では、肝臓の TTR の遺伝子をはたらかなくする CRISPR-Cas9 の治療薬を、1回だけ点滴しました
| 研究 | 人数 | 血液中の TTR の変化 |
|---|---|---|
| 心臓の病気(心筋症)の人、第1相(NEJM 2024) | 36人 | 28日後に約89%減、12か月後に約90%減 |
| 遺伝性で神経の病気の人、第1相(NEJM 2025) | 36人 | 28日後に約90%減、24か月後も約92%減 |
- 治療に関係する副作用として、点滴のときの一時的な反応、一時的な肝臓の数値の上昇などが報告されています。神経の病気の研究では、24か月後、多くの人で症状の段階が変わらず、一部で改善・悪化がありました
- どちらも第1相(まず安全性などを確かめる段階)の研究で、効果を確かめるには、さらに研究が必要です

プレ男点滴1回で、2年たっても9割減ったままなんだ!
進歩2:DNAを切らずに「1文字」書きかえる
- CRISPR-Cas9 は、DNA の2本の鎖を切ることで編集します。でも、切ったあとの修復で、ねらっていない文字が入ったり消えたりすることがありました
- 多くの遺伝性の病気は、DNA のたった1文字のちがいが原因です
- 2016年、DNA を切らずに、ねらった1文字を別の文字に書きかえる「塩基編集(ベースエディティング)」が報告されました(Nature)。人やマウスの細胞で、全体の約15〜75%を書きかえ、ねらっていない変化はふつう1%以下でした
進歩3:ねらった場所を「検索して置きかえる」
- 2019年には、「プライム編集」が報告されました(Nature)。論文の題名は「検索して置きかえるゲノム編集」です
- DNA を2本とも切らずに、ねらった場所に新しい情報を書きこむ方法で、人の細胞で175以上の編集を行い、12種類すべての1文字の書きかえや、文字の追加・削除ができました
- 論文は、理論上、病気に関係するとわかっている遺伝子の変化の最大89%を直せる可能性があるとしています
進歩4:1人の赤ちゃんのための治療(NEJM 2025)
- 生まれてすぐ、カルバモイルリン酸合成酵素1(CPS1)欠損症という重い遺伝性の病気と診断された赤ちゃんがいました。乳児期の早い時期に約50%が亡くなるとされる病気です
- 研究チームは診断後すぐに、この赤ちゃんの遺伝子の変化に合わせ、脂質ナノ粒子という小さなカプセルで届ける塩基編集の治療を開発し、規制当局の承認を得て、生後約7か月と8か月に点滴しました
- 最初の点滴から7週間で、食事のタンパク質をふやし、薬の量を半分にへらすことができ、重い有害事象はありませんでした
- 論文は、安全性と効果を確かめるには、さらに長い経過観察が必要だとしています

CRISPRの研究は、体の中で直接遺伝子を編集する臨床試験や、DNAを切らずに1文字だけ書きかえる塩基編集へと進んでいます。2025年には、重い病気の赤ちゃん1人のための治療も報告されました。どれもまだ研究の段階です。
いまの段階を正しく知る
- ここで紹介した治療は、どれも少ない人数の、研究の段階のものです
- ゲノム編集は、ねらっていない場所の編集や、長い期間たってからの影響など、慎重に確かめることが求められています
つながる技術
- 細胞から治療をつくる:iPS細胞の治療はいまどこまで来た?
- 遺伝子の情報を細胞に届ける技術:mRNAワクチンってなに?

プレ男1人のための治療を数か月でつくったって、すごい時代になったね。

メル美でも、まだ研究の段階。慎重に確かめていくことも大事だね。
まとめ
- 体の中で直接編集:点滴1回で肝臓の遺伝子をはたらかなくし、原因のタンパク質が約9割減(第1相、36人ずつ)
- 塩基編集(2016年):DNA を切らずに1文字書きかえる
- プライム編集(2019年):ねらった場所を検索して置きかえる。病気の遺伝子変化の最大89%を直せる可能性
- 1人の赤ちゃんのための塩基編集の治療(2025年):7週間で重い有害事象なし。長い経過観察が必要
- どれも研究の段階
参考文献
- Fontana M, Solomon SD, Kachadourian J, et al. CRISPR-Cas9 Gene Editing with Nexiguran Ziclumeran for ATTR Cardiomyopathy. N Engl J Med. 2024. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39555828/ (閲覧日:2026年10月7日)
- Gillmore JD, Gane E, Täubel J, et al. Nexiguran Ziclumeran Gene Editing in Hereditary ATTR with Polyneuropathy. N Engl J Med. 2025;393(14):1375-1386. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41002250/ (閲覧日:2026年10月7日)
- Komor AC, Kim YB, Packer MS, et al. Programmable editing of a target base in genomic DNA without double-stranded DNA cleavage. Nature. 2016;533(7603):420-4. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27096365/ (閲覧日:2026年10月7日)
- Anzalone AV, Randolph PB, Davis JR, et al. Search-and-replace genome editing without double-strand breaks or donor DNA. Nature. 2019;576(7785):149-157. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31634902/ (閲覧日:2026年10月7日)
- Musunuru K, Grandinette SA, Wang X, et al. Patient-Specific In Vivo Gene Editing to Treat a Rare Genetic Disease. N Engl J Med. 2025. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40373211/ (閲覧日:2026年10月7日)
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診断・治療に代わるものではありません。 気になる症状や不安がある場合は、医療機関にご相談ください。