【テクノロジー解説】ねらった遺伝子を1つだけ「ノックアウト」したマウス:遺伝子の役割を知る強力な技術。1万以上の遺伝子、500をこえる病気のモデルマウスが生まれた。ES細胞と「相同組換え」の組みあわせ(2007年ノーベル生理学・医学賞)
ある遺伝子が体の中で何をしているのかを知るには、その遺伝子を働かなくしたらどうなるかを見るのが近道です。2007年のノーベル生理学・医学賞は、マウスのねらった遺伝子を変える「遺伝子ターゲティング」の原理を見つけたカペッキ博士、エバンス博士、スミシーズ博士に贈られました。似たDNAどうしが入れかわる「相同組換え」でねらった遺伝子を変え、マウスの胚からつくったES細胞(胚性幹細胞)を使って、その変化を子孫に伝えます。1989年にはじめての遺伝子ターゲティングマウスが報告され、1万以上の遺伝子がノックアウトされ、500をこえる病気のモデルマウスが生まれました。

プレ男「ノックアウトマウス」って、ボクシングのマウス?

メル美ちがうよ。ねらった遺伝子を1つだけ働かなくしたマウスのことだって。
こんにちは、Dr. Taro です。 「テクノロジー解説」、今回は遺伝子ターゲティング(ノックアウトマウス)です。2007年のノーベル生理学・医学賞の発表をもとにまとめました。
遺伝子の役割を知る近道
- ある遺伝子が体の中で何をしているのかを知るには、その遺伝子を働かなくしたら(ノックアウトしたら)どうなるかを見るのが近道です
- 2007年の受賞者たちの発見から、マウスのねらった遺伝子を変える「遺伝子ターゲティング」という強力な技術が生まれました
- いまでは、基礎研究から新しい治療の開発まで、生物医学のほぼすべての分野で使われています
カギ1:似たDNAどうしの入れかえ「相同組換え」
- 染色体は、父から1本、母から1本のペアです。ペアのあいだでDNAの並びが入れかわることを「相同組換え」といいます
- マリオ・カペッキ博士は、外から入れたDNAと、ほ乳類の細胞の染色体のあいだで、相同組換えが起こることを示しました。こわれた遺伝子を、入れたDNAで修理できることも示しました
- オリバー・スミシーズ博士は、はじめは人の細胞で病気の遺伝子を直そうとしていました。その中で、働いていない遺伝子もふくめ、どの遺伝子でもねらって変えられる可能性があることを見つけました

プレ男似たDNAどうしが入れかわるしくみを、遺伝子の「差しかえ」に使ったのか!
カギ2:子孫に伝えるための「ES細胞」
- 遺伝子を変えた動物をつくり、その変化を子孫に伝えるには、精子や卵子のもとになれる細胞が必要でした
- マーティン・エバンス博士は、マウスの初期の胚から、正常な染色体をもつ細胞を育てられることを見つけました。これがES細胞(胚性幹細胞)です
- ES細胞を別の系統のマウスの胚に入れ、代理の母マウスに産ませると、2つの系統の細胞がまざったマウスが生まれ、その子どもにES細胞由来の遺伝子が受けつがれることを示しました
2つのカギがそろって
- 1986年までに、必要なピースがそろいました。カペッキ博士とスミシーズ博士の相同組換えと、エバンス博士のES細胞を組みあわせるのです
- 1989年、ES細胞で相同組換えを使ってつくった、はじめての遺伝子ターゲティングマウスが報告されました
- その後、ノックアウトマウスの数は急速にふえ、1万個以上(ほ乳類の遺伝子のおよそ半分)の遺伝子がノックアウトされました(2007年当時)
- 心臓や血管の病気、神経の病気、糖尿病、がんなど、500をこえる人の病気のモデルマウスが生まれています
- いまでは、決まった時期や決まった臓器だけで遺伝子を変えることもできます

遺伝子ターゲティングは、相同組換えでマウスのねらった遺伝子を変え、ES細胞を使って子孫に伝える技術です。遺伝子の役割を調べ、病気のしくみを知るための強力な道具になりました。
つながるテクノロジー
- もっとかんたんに遺伝子を書きかえる:CRISPR-Cas9
- ES細胞のような細胞を、体の細胞からつくる:iPS細胞
- 遺伝子のスイッチを一時的に切る:遺伝子の「スイッチを切る」RNA干渉

プレ男遺伝子1つ1つの役割を、マウスが教えてくれてるんだね。

メル美2つの別々の発見を組みあわせたのがポイントだね。
頭から尾まで体の順番を決める遺伝子は、頭から尾まで、体の「順番」を決める遺伝子へ。
まとめ
- 遺伝子の役割を知るには、働かなくして(ノックアウト)みるのが近道
- 相同組換えで、ねらった遺伝子を変える(カペッキ博士、スミシーズ博士)
- ES細胞で、その変化を子孫に伝える(エバンス博士)
- 1989年、はじめての遺伝子ターゲティングマウス。1万以上の遺伝子、500をこえる病気のモデル
- 生物医学のほぼすべての分野で使われる(2007年ノーベル生理学・医学賞)
参考文献
- The Nobel Assembly at Karolinska Institutet. Press release: The Nobel Prize in Physiology or Medicine 2007. NobelPrize.org. https://www.nobelprize.org/prizes/medicine/2007/press-release/ (閲覧日:2026年10月10日)
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診断・治療に代わるものではありません。 気になる症状や不安がある場合は、医療機関にご相談ください。