【テクノロジー解説】レーザーの光で原子を「冷やす」:時速4,000kmで飛びまわる原子に、6方向から光をあててブレーキ。光の「水あめ」の中で秒速30cmに。100万分の1度の世界と、原子の噴水時計(1997年ノーベル物理学賞)
室温の空気の原子や分子は、時速約4,000kmで飛びまわっています。速すぎて、1個ずつくわしく調べるのはむずかしいことでした。1997年のノーベル物理学賞は、レーザーの光で原子を冷やし、わなにとらえる方法を開発したチュー博士、コーエン=タヌージ博士、フィリップス博士に贈られました。光の粒には「勢い」があり、向かってくる原子にぶつけるとブレーキになります。6本のレーザーを交差させた場所では、原子はねばっこい液体の中のように動きがおそくなり、「光の水あめ(オプティカル・モラセス)」とよばれました。100万分の1度の世界が開け、超精密な原子時計や、ボース・アインシュタイン凝縮の発見につながりました。

プレ男レーザーって、ものを熱くするイメージ。光で「冷やす」ってどういうこと?

メル美光の粒をぶつけて、原子にブレーキをかけるんだって。
こんにちは、Dr. Taro です。 「テクノロジー解説」、今回はレーザー冷却です。1997年のノーベル物理学賞の発表をもとにまとめました。
原子は速すぎる
- 室温の空気の原子や分子は、ばらばらの方向に時速約4,000kmで飛びまわっています。観察しようとしても、すぐに見えなくなってしまいます
- 冷やせば速さは落ちますが、ふつうの気体は冷やすと液体になり、固体になって、原子どうしが近づきすぎてしまいます
- 真空の中なら液体や固体にならずにすみますが、-270℃でも速さは時速約400km。絶対零度に近づいて、ようやく速さはぐんと落ちます
光の粒で「ブレーキ」をかける
- 光は光の粒(光子)の流れです。光子には、ふつうの意味の重さはありませんが、氷の上をすべるカーリングのストーンのように「勢い(運動量)」があります
- 光子が原子にぶつかると、その勢いを原子にわたせます。ただし、光子のエネルギー(光の色)が、原子に合っている必要があります
- 原子が光に向かって動いていると、救急車のサイレンの音が近づくと高く聞こえる「ドップラー効果」のように、原子が受けとる光の色がずれます。そこで、少し赤っぽい(エネルギーの低い)光をあてると、光に向かってくる原子だけが光子を吸収し、ブレーキがかかります

プレ男向かってくる原子だけをねらって止めるのか。かしこい!
光の「水あめ」
- スティーブン・チュー博士らは1985年ごろ、6本のレーザーを、3つの方向から向かいあわせて交差させました
- 原子はどの方向に動こうとしても光子におし返され、交差点で、ねばっこい液体の中のようにゆっくり動きます。「光の水あめ(オプティカル・モラセス)」と名づけられました
- 温度は約240マイクロケルビン(100万分の240度)、ナトリウム原子の速さは秒速約30cmになりました
- 1987年には、磁場も組みあわせて原子をとらえるわな(磁気光学トラップ)がつくられました
理論の限界をこえて
- ウィリアム・フィリップス博士は1988年、40マイクロケルビンまで冷やせることを発見しました。当時、限界と考えられていた温度より6倍も低い値でした
- クロード・コーエン=タヌージ博士らは、その理由を、ナトリウム原子のエネルギーの構造で説明しました。坂を登りきってもまた登り坂が続く、ギリシャ神話のシーシュポスにたとえて「シーシュポス冷却」とよばれます
- コーエン=タヌージ博士はさらに、いちばんおそい原子を光子を吸わない「暗い状態」にする方法で、ヘリウム原子を0.18マイクロケルビンまで冷やしました
何に役立つ?
- 1個1個の原子を、とても正確に調べられるようになりました
- チュー博士は、冷やした原子を噴水のようにふき上げる「原子の噴水」をつくりました。てっぺんでほとんど止まった原子を調べれば、いまより100倍精密な原子時計ができると考えられています(1997年当時)
- この技術は、ボース・アインシュタイン凝縮の発見の土台にもなりました

レーザー冷却は、光の粒の勢いで原子にブレーキをかけ、100万分の1度の世界まで冷やす技術です。6本のレーザーが交差する「光の水あめ」の中で、原子はゆっくり動きます。
つながるテクノロジー
- 冷やした原子がそろって1つに:原子たちが「声をそろえて歌う」新しい物質の状態
- 光をそろえる:レーザー
- 原子1個をとらえて時計に:1個の原子、1個の光の粒を「こわさずに」見る

プレ男光で冷やして、光でとらえる。光ってすごい。

メル美原子の噴水、見てみたいね。
まとめ
- 室温の原子は時速約4,000km。速すぎて調べにくい
- 光の粒の勢いとドップラー効果で、向かってくる原子にブレーキ
- 6本のレーザーの交差点=「光の水あめ」。秒速約30cmに(チュー博士)
- 限界をこえる40マイクロケルビン(フィリップス博士)、理論で説明(コーエン=タヌージ博士)
- 精密な原子時計やボース・アインシュタイン凝縮へ(1997年ノーベル物理学賞)
参考文献
- The Royal Swedish Academy of Sciences. Press release: The Nobel Prize in Physics 1997. NobelPrize.org. https://www.nobelprize.org/prizes/physics/1997/press-release/ (閲覧日:2026年10月10日)
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