【テクノロジー解説】1個の原子、1個の光の粒を「こわさずに」見る:世界一ピカピカの鏡のあいだを光の粒が地球1周分(4万km)往復。宇宙誕生から数えても約5秒しかずれない時計、高さ30cmの重力のちがいもわかる(2012年ノーベル物理学賞)
光や物質の粒が1個だけになると、ふつうの物理の法則ではなく、量子の法則にしたがいます。でも、1個の粒はまわりとふれあうと、すぐにその量子のふしぎな性質を失ってしまいます。2012年のノーベル物理学賞は、1個の粒を、量子の性質を保ったまま測ったり操ったりする方法を、それぞれ別々に開発したアロシュ博士とワインランド博士に贈られました。ワインランド博士は電気をおびた原子(イオン)をわなにとらえて光で操り、アロシュ博士は鏡のあいだに光の粒をとじこめて原子で調べました。量子コンピューターへの第一歩となり、宇宙が生まれてから測っても約5秒しかずれない「光時計」も生まれました。

プレ男量子の世界って、見ようとするとこわれちゃうんでしょ?どうやって研究するの?

メル美1個の粒を、こわさずに見る方法をつくった人たちがいるんだって。
こんにちは、Dr. Taro です。 「テクノロジー解説」、今回は1個の量子の粒をあつかう技術です。2012年のノーベル物理学賞の発表と一般向け解説をもとにまとめました。
1個の粒は、すぐに「ふしぎ」を失う
- 光や物質の粒が1個だけになると、ふつうの物理の法則は通じなくなり、量子の物理がとってかわります
- でも、1個の粒をまわりから切りはなすのはむずかしく、まわりとふれあったとたんに、ふしぎな量子の性質を失ってしまいます
- そのため、量子の物理が予言するふしぎな現象の多くは、頭の中の思考実験でしか考えられませんでした
2人の、さかさまのアプローチ
- デヴィッド・ワインランド博士(アメリカ):電気をおびた原子(イオン)をわなにとらえ、光を使って操り、測ります
- セルジュ・アロシュ博士(フランス):逆に、光の粒(光子)をわなにとじこめ、原子を通して操り、測ります
- 2人とも、光と物質のふれあいを研究する「量子光学」の分野で、それぞれ別々に、1個の粒をこわさずに直接観察する方法をつくりました

プレ男原子を光で、光を原子で。ちょうど逆なんだね!
世界一ピカピカの鏡
- アロシュ博士の研究室(パリ)では、約3cmはなれた2枚の鏡のあいだを、マイクロ波の光の粒が行ったり来たりします
- 鏡は超伝導の材料でできていて、絶対零度近くまで冷やされた世界一ピカピカの鏡です
- 光の粒は10分の1秒あまりも鏡のあいだにとどまります。そのあいだに進む距離は約4万km、地球1周分です
光時計:宇宙の年齢でも約5秒のずれ
- ワインランド博士たちの研究は、とても精密な時計(光時計)も生みました。いまのセシウム原子時計の100倍以上の精度で、未来の時間の基準になるかもしれないとされています
- もし約140億年前のビッグバンから時間を測りはじめていたら、光時計は今日までに約5秒しかずれない、というほどの精度です
- アインシュタインの相対性理論によると、時間の進み方は動きの速さや重力で変わります。光時計では、秒速10m未満の速さのちがいや、高さわずか30cmの差による重力のちがいで、時間の進み方が変わるのを測れます
- GPSの衛星の時計も、上空では重力が少し弱いので、ふだんから補正されています
量子コンピューターへの第一歩
- 2人の方法は、量子の物理を使う超高速のコンピューターをつくる最初の一歩になりました
- 古いコンピューターが前の世紀にくらしを変えたように、量子コンピューターも今世紀のくらしを大きく変えるかもしれない、としています(2012年当時)

2012年の受賞者は、1個の原子や光の粒を、量子の性質を保ったまま測り、操る方法をつくりました。量子コンピューターへの第一歩となり、宇宙の年齢でも約5秒しかずれない光時計も生まれました。
つながるテクノロジー
- 量子コンピューターの今:量子コンピューターはいまどこまで来た?
- 光の色を15けたで測る:光周波数コム
- 原子をそろえる:原子たちが「声をそろえて歌う」新しい物質の状態

プレ男30cmの高さのちがいで時間の進み方が変わるなんて、ふしぎすぎる。

メル美それを測れる時計をつくったのがすごいね。
いまの時間の基準、セシウム原子時計を生んだ技術は、「1秒」はセシウム原子が91億9263万1770回ふるえる時間へ。
まとめ
- 1個の粒は、まわりとふれあうと量子の性質を失う
- ワインランド博士:イオンをわなにとらえ、光で操る。アロシュ博士:光の粒をとじこめ、原子で調べる
- 超伝導の世界一ピカピカの鏡で、光の粒が地球1周分往復
- 光時計:セシウム時計の100倍以上の精度。高さ30cmの重力のちがいも測れる
- 量子コンピューターへの第一歩(2012年ノーベル物理学賞)
参考文献
- The Royal Swedish Academy of Sciences. Press release: The Nobel Prize in Physics 2012. NobelPrize.org. https://www.nobelprize.org/prizes/physics/2012/press-release/ (閲覧日:2026年10月10日)
- The Royal Swedish Academy of Sciences. Information for the public: Particle control in a quantum world (PDF). https://www.nobelprize.org/uploads/2018/06/popular-physicsprize2012.pdf (閲覧日:2026年10月10日)
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