目次
この記事の要点
- 心理学の研究では、「がんばる」よりも、具体的で少し難しい目標のほうが、成果につながりやすいとまとめられている
- 「〇〇したい」だけでなく、「もしこうなったら、こうする」と行動まで決めておくと、目標に近づきやすいという研究がある
- 書くことの力は、文字そのものではなく、ぼんやりした願いを「いつ・どこで・何をするか」に変えるところにある、と私は考えている
「書くと叶う」は本当か
手帳に目標を書く。紙に書いて壁に貼る。「書くと叶う」という言葉は、自己啓発の本でも、スピリチュアルの世界でもよく聞きます。
書いた文字が、宇宙や見えない力に届いて、願いを引き寄せてくれる。そう信じることを、私は否定しません。ただ、このサイトでは、まず「科学で言えること」を確かめてから、その先の話をしたいと思います。
心理学には、目標と行動の関係を長く調べてきた研究があります。その中から、2つを紹介します。
目標設定理論:「がんばる」より「具体的で、少し難しい」
アメリカの心理学者エドウィン・ロックとゲイリー・レイサムは、目標の立て方と成果の関係を何十年も研究し、2002年に35年分の研究をまとめた論文を発表しました。これが目標設定理論です。
2人が2006年に書いたまとめでは、この理論の中心として、具体的で難しい目標の効果が挙げられています。そして、その効果が、人・課題・国・期間のちがい、目標を自分で決めたか人と一緒に決めたか与えられたか、といった条件をこえて見られることが書かれています。
つまり、「できるだけがんばる」よりも、「3か月で〇〇を〇回やる」のように、中身がはっきりしていて、少し背伸びが必要な目標のほうが、行動を引き出しやすい、ということです。
実行意図:「もしこうなったら、こうする」
もうひとつは、ドイツの心理学者ペーター・ゴルヴィツァーの実行意図(implementation intentions)の研究です。
ゴルヴィツァーは、目標を立てても、人は次のようなところでつまずく、と書いています。
- なかなか始められない
- 気が散ってしまう
- 悪い習慣に戻ってしまう
そこで、ゴルヴィツァーは2種類の「意図」を分けました。
- 目標の意図:「〇〇を達成するつもりだ」という形。どこにたどり着きたいかを決める
- 実行意図:「状況xになったら、行動yを始める」という形。いつ、どんな場面で、何をするかを、あらかじめ結びつけておく
実行意図を作っておくと、行動のきっかけを「その場面」にまかせることができます。その場面が来たときに、迷わず、ほとんど自動的に行動が始まる、というのがゴルヴィツァーの説明です。1999年の論文では、一連の研究から、実行意図が目標の達成を後押しすることが示された、と述べられています。
たとえば、「運動したい」は目標の意図です。「平日の朝、歯をみがいたら、そのままスクワットを10回する」は実行意図です。
書くことは、何をしているのか
ここからは、研究そのものではなく、私の考えです。
「書くと叶う」というとき、書くこと自体に不思議な力があるというより、書こうとすることで、次のことが起きているのだと思います。
- ぼんやりした願いが、言葉になる 「なんとなく変わりたい」は書けません。書こうとすると、何を望んでいるのかを自分に問うことになります
- 目標が具体的になる 紙の上では、「いつまでに」「どのくらい」を書きたくなります。これは目標設定理論の「具体的な目標」に近づくことです
- 行動の場面が決まる 「何をするか」まで書けば、それは実行意図になります
- 何度も目に入る 壁に貼った紙は、毎日目に入ります。忘れにくくなります
書くことは、願いを「行動の計画」に翻訳する作業だ、と言えるかもしれません。
叶わなかったとき、自分を責めないために
ひとつ、気をつけたいことがあります。
「書けば叶う」を強く信じすぎると、叶わなかったときに「書き方が悪かった」「信じる気持ちが足りなかった」と、自分を責めてしまうことがあります。
目標が叶うかどうかには、自分ではどうにもできない条件も関わります。景気、相手の気持ち、体の病気、運。どれだけ計画を立てても、思いどおりにならないことはあります。
だから私は、目標を書くことを、「叶えるためのおまじない」ではなく、「自分にできることを尽くすための道具」として使うのがよいと考えています。できることを尽くしたら、あとは結果を待つ。昔から「人事を尽くして天命を待つ」と言われてきた態度です。
目標を書いて、気持ちが前向きになり、不安が軽くなるなら、それはよい使い方です。逆に、書いた紙を見るたびに苦しくなるなら、目標を小さくするか、いったん外してもよいと思います。
科学で言えること、言えないこと
最後に、この記事の立ち位置を整理しておきます。
- 科学で言えること:具体的で少し難しい目標や、「もし〜なら、こうする」という計画が、行動や成果を後押しすることは、心理学の研究で調べられてきた
- 科学では言えないこと:どんな目標を持つべきか、何をめざして生きるべきか。これは事実からは決まらない、意味や価値の話
何を書くかは、あなたが決めることです。研究が教えてくれるのは、書いたあとに、それを行動に変えるための工夫です。
まとめ
- 目標設定理論では、具体的で難しい目標の効果が、さまざまな条件をこえて見られるとまとめられている
- 実行意図は、「状況xになったら、行動yをする」と行動の場面まで決めておく計画。目標の達成を後押しすることが研究で示されている
- 「書くと叶う」の正体は、願いをいつ・どこで・何をするかに翻訳すること、と私は考えている
- 叶わなかったときに自分を責めないように、目標は「できることを尽くすための道具」として使う
参考文献
- Locke EA, Latham GP. Building a practically useful theory of goal setting and task motivation: A 35-year odyssey. American Psychologist. 2002;57(9):705-717. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12237980/ (閲覧日:2026年10月12日)
- Locke EA, Latham GP. New Directions in Goal-Setting Theory. Current Directions in Psychological Science. 2006;15(5):265-268. https://doi.org/10.1111/j.1467-8721.2006.00449.x (閲覧日:2026年10月12日)
- Gollwitzer PM. Implementation intentions: Strong effects of simple plans. American Psychologist. 1999;54(7):493-503. https://doi.org/10.1037/0003-066X.54.7.493 (閲覧日:2026年10月12日)
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診断・治療に代わるものではありません。 気になる症状や不安がある場合は、医療機関にご相談ください。