【テクノロジー解説】「右手型」だけをつくり分ける触媒:同じ分子でも、片方はレモン、もう片方はオレンジのにおい。野依良治博士の触媒は、メントールや薬の工業生産に。1個の触媒が何百万個も生み出す(2001年ノーベル化学賞)
分子には、右手と左手のように鏡に映した関係の2つの形(キラル)があるものがあります。リモネンという分子は、片方はレモン、もう片方はオレンジのにおいがします。薬では、この2つの形のちがいが、命にかかわることもありました。2001年のノーベル化学賞は、ほしい形だけをつくり分ける「触媒的不斉合成」を開発した、ノールズ博士、野依良治博士、シャープレス博士に贈られました。野依博士が1980年に発表した触媒(BINAP)は、1980年代はじめから香料のメントールの工業生産に使われ、抗菌薬などの製造にも役立っています。

プレ男前に硤合反応の記事で「右手型と左手型」の話を読んだけど、片方だけをつくる方法もあるの?

メル美野依良治さんがノーベル賞をとった技術だよね。
こんにちは、Dr. Taro です。 「テクノロジー解説」、今回は触媒的不斉合成です。2001年のノーベル化学賞の発表と一般向け解説をもとにまとめました。右手型・左手型(キラル)の基本は硤合(そあい)反応ってなに?へ。
同じ分子なのに、においがちがう
- 多くの分子は、右手と左手のように、鏡に映した関係の2つの形をもっています。こうした分子を「キラル」といいます
- 自然界では片方の形が多いことがよくあり、体の細胞では、片方の形は「手袋のようにぴったり」合い、もう片方は害になることさえあります
- たとえばリモネンという分子は、2つの形を見た目で区別するのはむずかしいのですが、鼻のセンサーはより敏感で、片方はレモン、もう片方はオレンジのにおいがします
薬では「命にかかわる」ことも
- 医薬品には、キラルな分子でできているものが多くあります。2つの形のちがいが、生死にかかわることもありました
- その例が、1960年代のサリドマイドの悲劇です。妊娠中の女性に使われたこの薬は、片方の形は吐き気をおさえましたが、もう片方は胎児に障害を起こすおそれがありました
- だから、2つの形をつくり分けることがとても大切です

プレ男同じ分子なのに、においも、体への働きもちがうのか…。
ほしい形だけをつくる「触媒」
- 3人は、反応を助ける触媒そのものをキラルにすることで、2つの形のうち片方だけができるようにしました
- 触媒は反応を速めますが、自分は消費されません。たった1個の触媒分子で、ほしい形の分子を何百万個もつくることができます
- ウィリアム・ノールズ博士(アメリカ)は、遷移金属で、水素を加える反応(水素化)のキラルな触媒をつくれることを発見し、パーキンソン病の薬(L-ドーパ)の工業生産につなげました
- 野依良治博士(名古屋大学)は、これを発展させ、いまの一般的な水素化のキラル触媒をつくりました。1980年には、触媒のかぎになる分子「BINAP」を発表しました
- バリー・シャープレス博士(アメリカ)は、酸化反応のキラルな触媒を開発しました
何に使われている?
ノーベル賞の発表と解説によると、
- 野依博士の BINAP は、香料会社で、1980年代はじめから、メントール(ハッカのような香りの成分)の工業生産に使われています
- 野依博士の触媒は、抗菌薬の原料の工業生産にも使われています
- こうした研究の成果は、抗菌薬、抗炎症薬、心臓の薬などの工業生産に使われています(2001年当時)

同じ分子でも、右手型と左手型ではにおいや体への働きがちがうことがあります。野依良治博士たちは、片方だけをつくり分ける触媒を開発し、香料や薬の工業生産に役立てられています。
化学のつながり
- 片方の型を増幅する反応:硤合(そあい)反応ってなに?
- 炭素どうしをつなぐ:クロスカップリング
- 細菌をやっつける薬の物語:ペニシリンってなに?

プレ男ミント味のガムのメントールにも、ノーベル賞の化学が使われてるのかも!

メル美1個の触媒で何百万個、っていうのもすごいね。
シャープレス博士の2回目のノーベル賞は、「カチッ」とはまる化学反応へ。
まとめ
- 分子には右手型・左手型(キラル)がある。リモネンはレモンとオレンジでにおいがちがう
- 薬では2つの形のちがいが生死にかかわることも(サリドマイド)
- キラルな触媒で片方だけをつくる。1個の触媒で何百万個
- 野依良治博士の BINAP(1980年)は、メントールの工業生産や薬の原料づくりに
- 2001年ノーベル化学賞(ノールズ博士、野依博士、シャープレス博士)
参考文献
- The Royal Swedish Academy of Sciences. Press release: The Nobel Prize in Chemistry 2001. NobelPrize.org. https://www.nobelprize.org/prizes/chemistry/2001/press-release/ (閲覧日:2026年10月10日)
- NobelPrize.org. The Nobel Prize in Chemistry 2001 — Popular information. https://www.nobelprize.org/prizes/chemistry/2001/popular-information/ (閲覧日:2026年10月10日)
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