【テクノロジー解説】硤合(そあい)反応ってなに?「右手型と左手型」のほんのわずかなかたよりを、自分で自分をふやして99.5%以上に。生き物のアミノ酸が「左手型」ばかりなのはなぜか、という謎にせまる日本発の反応
わたしたちの体のアミノ酸は、鏡にうつしたような「右手型」と「左手型」のうち、ほとんど「左手型」だけでできています。なぜ片方だけなのかは、生命の起源の大きな謎です。東京理科大学の硤合(そあい)さんらが1995年に見つけた「硤合反応(ソアイ反応)」は、できた分子が自分と同じ型の分子をつくる手助けをする「不斉自己触媒反応」で、約0.00005%というほんのわずかな型のかたよりを、99.5%以上にまで増幅します。ふつうの方法では区別できない、炭素の重さのちがいによるわずかな「型」まで見分けられ、隕石の分子や生命の起源の研究にも役立つと期待されています。

プレ男「硤合反応」って、日本の人の名前がついた化学反応なんだって?むずかしそうだけど、何がすごいの?

メル美生命の起源の謎にかかわる反応らしいよ。
こんにちは、Dr. Taro です。 「テクノロジー解説」、今回は硤合反応(そあいはんのう、ソアイ反応)です。発見者の硤合さん(Kenso Soai、東京理科大学)らの総説論文と研究論文をもとに、高校生にもわかるようにまとめました。
まず「右手型」と「左手型」
- 右手と左手は、形はそっくりなのに、どうやっても重ねられません。鏡にうつすと、右手は左手になります
- 分子にも、このように鏡にうつした関係で、重ねられない2つの型があるものがあります。これを「キラル(ギリシャ語の「手」から)な分子」といい、2つの型を「鏡像異性体」とよびます
- たとえばアミノ酸には、L型(この記事では「左手型」とよびます)と D型(「右手型」)があります
生き物は、なぜか片方だけ
- 総説によると、地球の生き物をつくる大切な分子は、2つの型のうち片方だけでできています。アミノ酸はL型、糖はD型です。すべての生き物が同じ型を使っていて、これを「生体ホモキラリティー」とよびます
- タンパク質は、L型のアミノ酸がつながってできています
- ところが、ふつうの化学反応で、型のない材料から型のある分子をつくると、右手型と左手型がちょうど半分ずつできます
- では、どうして生き物は片方だけになったのか。これは、生命の起源の大きな謎のひとつです

プレ男ふつうは半分ずつできるのに、生き物は左手型ばっかり。たしかに不思議!
硤合反応:自分で自分をふやす反応
- 硤合反応は、ピリミジン-5-カルバルデヒドという分子に、ジイソプロピル亜鉛を反応させて、「ピリミジルアルカノール」というキラルな分子をつくる反応です
- ポイントは、できた分子そのものが「触媒」(反応を助ける役)になって、自分と同じ型の分子をどんどんつくることです。これを「不斉自己触媒反応」といいます
- 研究チームは、1990年にピリジルアルカノールで、1995年にピリミジルアルカノールで、この反応を実験で見つけました(1995年の論文は英国の科学誌 Nature)。じつは1953年に、フランクという研究者がこうした反応のしくみを理論で考えていましたが、実際の化学反応では見つかっていませんでした
ほんのわずかなかたよりを、99.5%以上に
- 右手型と左手型の差(どちらがどれだけ多いか)は「鏡像体過剰率(ee)」であらわします。半分ずつなら0%、片方だけなら100%です
- 硤合反応では、はじめの差が約0.00005%というほんのわずかな分子から反応をはじめても、反応をくり返すうちに、99.5%以上にまで差が広がりました
- このとき、はじめに少しだけ多かった型は約63万倍にふえ、少なかった型は1,000倍未満しかふえませんでした
- つまり、「ほんの少し多い側が、雪だるま式に勝つ」反応です

硤合反応は、できた分子が自分と同じ型の分子をつくる手助けをする反応です。約0.00005%というほんのわずかな型のかたよりを、99.5%以上にまで増幅できます。
何に役立っているの?
1. 生命の起源の謎を調べる
研究チームは、硤合反応を使って、「最初のわずかなかたより」がどこから来たのかを調べています。
- 円偏光(らせん状にふるえる光)を当てたもの、水晶などの型をもつ鉱物、型のない分子がつくる型のある結晶などを「きっかけ」にすると、きっかけと同じ型の分子が、高い割合でできました
- 型をもつ物質を何も加えなくても、どちらか一方の型にかたよる反応も実現しました
- つまり、自然界にあるわずかなかたよりが、硤合反応のようなしくみで大きく増幅されれば、生き物の「片方だけ」につながりうる、という道すじを実験で示しています
2. 超高感度の「型の見分け機」
- 炭素には、ふつうの炭素(¹²C)と、少し重い炭素(¹³C、自然界に約1.11%)があります。重さのちがう炭素がどこに入るかだけで型が生まれる分子は、型の差がとても小さく、ふつうの実験では見分けられません
- 研究チームは、硤合反応を使うと、この炭素の重さのちがいによる型まで見分けられることを示しました(2009年、米国の科学誌 Science)
- 総説では、この増幅の力を使って、隕石にふくまれるアミノ酸などの型を調べることにも使えるかもしれない、としています
科学のつながり
- タンパク質の形を予測する AI:AlphaFoldってなに?
- タンパク質の構造をはじめて解いた物語:インスリンの発見

プレ男「少し多い側が雪だるま式に勝つ」って、生命の始まりの話にまでつながるのか。

メル美自分の体のアミノ酸がぜんぶ左手型って、そこから不思議だね。
右手型・左手型の片方だけをつくり分ける触媒の話は、「右手型」だけをつくり分ける触媒へ。
まとめ
- 分子にも、鏡にうつした右手型と左手型がある。生き物のアミノ酸はL型、糖はD型ばかり
- ふつうの反応では半分ずつできるのに、なぜ生き物は片方だけか。生命の起源の謎
- 硤合反応は、できた分子が自分と同じ型をふやす「不斉自己触媒反応」(1995年発表)
- 約0.00005%のかたよりを99.5%以上に増幅
- 生命の起源の研究や、炭素の重さのちがいによる型まで見分ける超高感度の型の判定に
参考文献
- Soai K. Asymmetric autocatalysis. Chiral symmetry breaking and the origins of homochirality of organic molecules. Proc Jpn Acad Ser B Phys Biol Sci. 2019;95(3):89-110. https://www.jstage.jst.go.jp/article/pjab/95/3/95_PJA9503B-01/_html/-char/en (閲覧日:2026年10月7日)
- Soai K, Kawasaki T, Matsumoto A. Asymmetric autocatalysis of pyrimidyl alkanol and its application to the study on the origin of homochirality. Acc Chem Res. 2014;47(12):3643-54. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25511374/ (閲覧日:2026年10月7日)
- Kawasaki T, Matsumura Y, Tsutsumi T, et al. Asymmetric autocatalysis triggered by carbon isotope (13C/12C) chirality. Science. 2009;324(5926):492-5. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19325079/ (閲覧日:2026年10月7日)
- Soai K, Shibata T, Morioka H, Choji K. Asymmetric autocatalysis and amplification of enantiomeric excess of a chiral molecule. Nature. 1995;378:767-768.(上記1の総説の参考文献として確認)
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