【テクノロジー解説】細胞のエネルギー通貨「ATP」をつくる回転モーター:水素イオンの流れで軸がまわり、1回転でATPを3個。大人は安静でも1日に体重の約半分、激しく動くと1トン近くのATPをつくっては使う(1997年ノーベル化学賞)
体を動かすのも、神経が信号を伝えるのも、細胞の部品をつくるのも、エネルギーの「お金」としてATPが使われています。大人は安静にしていても、1日に体重の約半分にあたるATPをつくっては使い、激しく働くと1トン近くになることも。1997年のノーベル化学賞は、ATPをつくる酵素「ATP合成酵素」のしくみを明らかにしたボイヤー博士とウォーカー博士、そしてナトリウムとカリウムのバランスを保つ酵素を発見したスコウ博士に贈られました。ATP合成酵素は、水素イオンの流れで軸がまわる、分子の回転モーターでした。

プレ男筋トレのエネルギーって、体の中でどうやってつくってるの?

メル美「ATP」っていうエネルギーのお金を、回転するモーターでつくってるんだって。
こんにちは、Dr. Taro です。 「テクノロジー解説」、今回はATP合成酵素です。1997年のノーベル化学賞の発表をもとにまとめました。
細胞のエネルギー通貨「ATP」
- ATP(アデノシン三リン酸)は、細菌やカビから、植物、動物、人まで、すべての生き物でエネルギーを運ぶ分子です
- 栄養を燃やして出たエネルギーをATPにたくわえ、細胞の部品づくり、筋肉の収縮、神経の信号など、エネルギーが必要な反応にわたします。「細胞のエネルギー通貨」とよばれます
- ATPのいちばん外側のリン酸がはずれるとADPになり、エネルギーが出ます。逆に、エネルギーを使ってADPにリン酸をつけると、ATPにもどります
- 大人は安静にしていても、1日に体重の約半分にあたるATPをつくっては使っています。激しい作業をすると、その量は1トン近くにもなります

プレ男1日に体重の半分も!?ぜんぶ使い回してるのか。
ATPをつくる回転モーター
- ATPのほとんどは、細胞の中のミトコンドリア(植物では葉緑体)にある、ATP合成酵素がつくっています
- ATP合成酵素は、膜の中の部分(Fo)と、膜の外に出ている部分(F1)からできています
- 膜の内と外の水素イオンの濃さのちがいから、水素イオンがFoを通って流れると、Foの円盤がまわります
- 円盤にくっついた軸(γ)もいっしょにまわります
- 軸のまわりの6つの部品(α3つ、β3つ)はまわらずに固定されていて、ゆがんだ軸がまわるたびに、βの形が変わります
- βは「開いた形」「ゆるい形」「しまった形」を順番にとり、ADPとリン酸をとりこみ、ATPをつくり、放すのです
- ポール・ボイヤー博士は、エネルギーが必要なのはATPをつくる反応そのものではなく、材料をとりこみ、できたATPを放すときだという、ほかの多くの酵素とはちがうしくみを提案しました
- ジョン・ウォーカー博士は、牛のATP合成酵素の立体構造を明らかにし、ボイヤー博士のしくみが正しいことを確かめました
水車でコインをつくる
- ボイヤー博士は、ATP合成酵素を「分子の機械」とよびました
- たとえるなら、水車で動くコインづくりのハンマー。Foが水車、水素イオンの流れが滝、F1の形の変化で、水車1回転ごとに、ATPというコインが3枚つくられます
もう1つの受賞:ナトリウム・カリウムのポンプ
- 賞の残り半分は、イェンス・スコウ博士に贈られました。細胞の中のナトリウムとカリウムのバランスを保つ酵素(Na⁺,K⁺-ATPアーゼ)をはじめて発見しました
- この酵素は、安静時につくられるATPの約3分の1を使っています

ATP合成酵素は、水素イオンの流れで軸がまわる分子の回転モーターで、1回転ごとにATPを3つつくります。大人は安静時でも1日に体重の約半分のATPをつくって使っています。
つながるテクノロジー
- 人工の分子の機械:分子マシン
- 水やイオンが膜を通る門:細胞の「水だけ通す門」アクアポリン
- 細胞と酸素:細胞はどうやって「酸素が足りない」と気づく?

プレ男スクワットしてるとき、体の中で分子のモーターがまわってATPをつくってるんだね。

メル美水車でコインをつくるたとえ、わかりやすいね。
まとめ
- ATPは細胞のエネルギー通貨。安静でも1日に体重の約半分、激しく働くと1トン近くつくって使う
- ATP合成酵素は、水素イオンの流れで軸がまわる回転モーター
- まわる軸がβの形を変え、1回転でATPを3つつくる(ボイヤー博士のしくみ、ウォーカー博士の立体構造)
- ナトリウムとカリウムのバランスを保つ酵素も発見(スコウ博士)
- 1997年ノーベル化学賞
参考文献
- The Royal Swedish Academy of Sciences. Press release: The Nobel Prize in Chemistry 1997. NobelPrize.org. https://www.nobelprize.org/prizes/chemistry/1997/press-release/ (閲覧日:2026年10月10日)
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