【テクノロジー解説】細胞はどうやって「酸素が足りない」と気づく?酸素が少ないとふえるスイッチ「HIF」。酸素が十分なときは目じるしをつけてすぐ分解。激しい運動、赤血球づくり、がんにも関係(2019年ノーベル生理学・医学賞)
動物は、食べたものをエネルギーに変えるのに酸素が必要です。でも、細胞が酸素の量の変化にどう合わせているのかは、長いあいだわかっていませんでした。2019年のノーベル生理学・医学賞は、そのしくみを明らかにした3人に贈られました。酸素が少なくなると「HIF-1α」というタンパク質がふえて、赤血球をふやすホルモン(EPO)などの遺伝子のスイッチを入れます。酸素が十分なときは、HIF-1αに目じるしがつき、すぐに分解されます。激しい運動中の筋肉、血管や赤血球づくり、免疫、そして貧血やがんにもかかわるしくみです。

プレ男全力ダッシュしたら息が切れた…。体はどうやって「酸素が足りない」ってわかるの?

メル美細胞の中に、酸素の量で動くスイッチがあるんだって。
こんにちは、Dr. Taro です。 「テクノロジー解説」、今回は細胞が酸素の量を感じるしくみです。2019年のノーベル生理学・医学賞の発表をもとにまとめました。
酸素の量に、細胞はどう合わせる?
- 酸素は、地球の大気の約5分の1。動物の細胞の中にあるミトコンドリアは、酸素を使って、食べたものを使えるエネルギーに変えています
- 首の両側の大きな血管の近くには、血液中の酸素を感じて、呼吸の速さを調整する場所(頸動脈小体)があることは、以前からわかっていました(1938年ノーベル賞)
- 酸素が少なくなると、ホルモンのエリスロポエチン(EPO)がふえて、赤血球がふえます。でも、酸素がどうやってこのしくみを動かしているのかは、なぞのままでした
酸素が少ないとふえるスイッチ「HIF」
- グレッグ・セメンザ博士とピーター・ラトクリフ博士は、EPOの遺伝子が酸素の量でどう調節されるかを調べ、このしくみが腎臓だけでなく、ほぼすべての組織にあることを見つけました
- セメンザ博士は、酸素の量に応じてDNAにくっつくタンパク質を発見し、「低酸素誘導因子(HIF)」と名づけました(1995年に遺伝子を特定)
- 酸素が十分なとき、細胞の中のHIF-1αはとても少なく、酸素が少ないときにふえて、EPOなどの遺伝子のスイッチを入れます

プレ男酸素が少ないときだけふえるスイッチか!
酸素が十分なときは「目じるし」をつけて分解
- 酸素が十分なとき、HIF-1αにはユビキチンという「分解してね」の目じるしがつき、細胞の中の分解装置(プロテアソーム)ですぐに分解されます
- がんの研究者ウィリアム・ケリン博士は、遺伝性の病気(フォン・ヒッペル・リンドウ病)の原因遺伝子VHLを調べ、VHLが酸素の少ないときの反応にかかわっていることを見つけました
- ラトクリフ博士のグループは、VHLがHIF-1αにくっついて、分解にみちびくことを示しました
- 2001年、ケリン博士とラトクリフ博士は、酸素が十分なとき、HIF-1αの2か所にヒドロキシ基(OH)がつき、それを目じるしにVHLがくっつくことを示しました。こうして、酸素を感じるしくみが明らかになりました
どこで役立っている?
- 激しい運動中の筋肉など、酸素が少ないときに、細胞が代謝を切りかえる
- 新しい血管をつくる、赤血球をつくる
- 免疫や、おなかの中の赤ちゃんの血管や胎盤の発達にも欠かせない
- 病気とも深くかかわります。慢性の腎不全の人は、EPOが減って重い貧血になることがあります。がんは、このしくみを利用して、血管をつくらせ、ふえやすいように代謝を変えます
- このしくみを強めたり弱めたりする薬の開発が、大学や製薬会社で進められています(2019年当時)

酸素が少なくなると、細胞の中でHIF-1αがふえて、赤血球をふやすホルモンなどの遺伝子のスイッチを入れます。酸素が十分なときは、目じるしがついてすぐ分解されます。
つながるテクノロジー
- 高地での暮らしに有利な遺伝子も:4万年前の骨からDNAを読む
- 温度や触覚のセンサー:温度と触覚のセンサーの発見
- 遺伝子のブレーキ役:マイクロRNA

プレ男ダッシュで息が切れるとき、筋肉の中でHIFが働いてるのかも。

メル美体って、見えないところで細かく調整してるんだね。
体内時計の遺伝子のしくみは、体内時計はどう動く?へ。
まとめ
- 細胞は酸素でエネルギーをつくる。酸素の量への合わせ方は長くなぞだった
- 酸素が少ないとHIF-1αがふえ、EPO(赤血球をふやすホルモン)などの遺伝子のスイッチを入れる
- 酸素が十分なときは、HIF-1αに目じるしがつき、VHLがくっついてすぐ分解
- 激しい運動、血管・赤血球づくり、免疫、貧血やがんにもかかわる
- 2019年ノーベル生理学・医学賞(ケリン博士、ラトクリフ博士、セメンザ博士)
参考文献
- The Nobel Assembly at Karolinska Institutet. Press release: The Nobel Prize in Physiology or Medicine 2019. NobelPrize.org. https://www.nobelprize.org/prizes/medicine/2019/press-release/ (閲覧日:2026年10月10日)
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