【テクノロジー解説】進化を「試験管の中で」くり返す:遺伝子にランダムな変化を入れて、いちばんよく働く酵素を選ぶ。3世代目で256倍に。バイオ燃料や薬づくり、抗体の薬にも(2018年ノーベル化学賞)
地球に生命が生まれて約37億年。進化は、温泉にも深海にも砂漠にも生き物を広げ、生き物の化学の道具「タンパク質」をみがいてきました。2018年のノーベル化学賞は、この進化のしくみ(遺伝子の変化と選択)を実験室で使いこなした3人に贈られました。アーノルド博士は1993年、酵素の遺伝子にランダムな変化を入れ、よく働くものを選ぶことをくり返す「指向性進化」をはじめて行い、3世代目でもとの256倍よく働く酵素を得ました。スミス博士のファージディスプレイと、ウィンター博士による抗体への応用は、関節リウマチなどの抗体の薬を生みました。

プレ男進化って、何万年もかかるものだよね。実験室でできるの?

メル美酵素の進化を、試験管の中でくり返す技術があるんだって。
こんにちは、Dr. Taro です。 「テクノロジー解説」、今回は指向性進化です。2018年のノーベル化学賞の発表と一般向け解説をもとにまとめました。
進化の力を借りる
- 約37億年前に最初の生命が生まれてから、地球のあらゆるすき間に、さまざまな生き物が広がりました。温泉、深海、乾いた砂漠にまで
- そのあいだに、生き物の化学の道具であるタンパク質は、進化によって、みがかれ、変わり、新しくなってきました
- 2018年の受賞者たちは、進化と同じ原理、つまり「遺伝子の変化」と「選択」を使って、人間の化学の問題を解くタンパク質をつくりました
酵素を「進化」させる(アーノルド博士)
- 賞の半分は、フランシス・アーノルド博士に贈られました。1993年、化学反応を進めるタンパク質「酵素」の、はじめての指向性進化を行いました
- 博士は、牛乳のタンパク質(カゼイン)を分解する酵素サブチリシンを、水ではなく有機溶媒(DMF)の中でも働くように変えようとしていました
- やり方はこうです
- 酵素の遺伝子に、ランダムな変化(変異)を入れる
- 細菌に入れて、何千種類もの酵素をつくらせる
- DMFが35%の液の中で、カゼインをいちばんよく分解するものを選ぶ
- 選んだ酵素に、またランダムな変化を入れて、くり返す
- 3世代目で、もとの酵素より256倍よくDMFの中で働く酵素ができました。その酵素には10か所の変化がありましたが、その組みあわせのよさは、だれも前もって計算できないものでした

プレ男設計するんじゃなくて、たくさんつくっていちばんいいのを選ぶのか!
どこで使われている?
- アーノルド博士の方法は、いまでは新しい触媒をつくるふつうの方法になっています
- 薬などの化学物質を、より環境にやさしくつくる
- 博士のグループは、糖からイソブタノールをつくる酵素を開発しました。バイオ燃料や、より環境にやさしいプラスチックの原料になります
抗体を「進化」させる(スミス博士、ウィンター博士)
- 賞の残り半分は、ジョージ・スミス博士とグレゴリー・ウィンター博士に贈られました
- スミス博士は1985年、細菌に感染するウイルス(バクテリオファージ)を使って新しいタンパク質を進化させる「ファージディスプレイ」を開発しました
- ウィンター博士は、ファージディスプレイで抗体を進化させ、薬をつくることをめざしました
- この方法による最初の薬「アダリムマブ」は2002年に承認され、関節リウマチ、乾癬、炎症性腸疾患に使われています
- ファージディスプレイからは、毒素を中和する抗体、自己免疫の病気をおさえる抗体、転移したがんを治す抗体も生まれています(2018年当時)

指向性進化は、遺伝子にランダムな変化を入れて、いちばんよく働くものを選ぶことをくり返す技術です。バイオ燃料や薬づくりの酵素、抗体の薬などに使われています。
つながるテクノロジー
- 抗体の薬のもと:モノクローナル抗体
- 「第3の触媒」:触媒は「金属」と「酵素」だけじゃなかった
- 遺伝子をねらって書きかえる:CRISPR-Cas9

プレ男だれも計算できなかった組みあわせを、進化が見つけてくれたんだね。

メル美37億年の知恵を、実験室で借りてるみたい。
まとめ
- 進化の原理=遺伝子の変化と選択を、実験室で使う「指向性進化」
- 1993年、アーノルド博士がはじめて酵素で成功。3世代目で256倍
- 環境にやさしい薬づくり、糖からバイオ燃料の原料
- スミス博士のファージディスプレイ、ウィンター博士の抗体への応用
- 最初の薬アダリムマブ(2002年承認)など(2018年ノーベル化学賞)
参考文献
- The Royal Swedish Academy of Sciences. Press release: The Nobel Prize in Chemistry 2018. NobelPrize.org. https://www.nobelprize.org/prizes/chemistry/2018/press-release/ (閲覧日:2026年10月10日)
- The Royal Swedish Academy of Sciences. Popular science background: A (r)evolution in chemistry (PDF). https://www.nobelprize.org/uploads/2018/10/popular-chemistryprize2018.pdf (閲覧日:2026年10月10日)
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