【テクノロジー解説】触媒は「金属」と「酵素」だけじゃなかった:小さな有機分子の「第3の触媒」。アミノ酸のプロリンが反応を進め、右手型・左手型をつくり分ける。ストリキニーネの合成は29工程から12工程、効率7,000倍に(2021年ノーベル化学賞)
触媒は、化学反応を速めてコントロールし、自分は製品に残らない物質です。車の排ガスの有害物質を無害にするのも、体の中で生命に必要な分子をつくる酵素も触媒です。研究者は長いあいだ、触媒は金属と酵素の2種類しかないと考えていました。2021年のノーベル化学賞を受けたリスト博士とマクミラン博士は、2000年にそれぞれ別々に、小さな有機分子を使う「第3の触媒」=不斉有機触媒を開発しました。炭素の骨組みに酸素や窒素などがついた分子で、環境にやさしく、安くつくれます。新しい薬や、太陽電池で光をとらえる分子づくりにも使われています。

プレ男「触媒」って、車のマフラーについてるやつ?

メル美それも触媒だよ。2000年に「第3の触媒」が見つかったんだって。
こんにちは、Dr. Taro です。 「テクノロジー解説」、今回は有機触媒です。2021年のノーベル化学賞の発表と一般向け解説をもとにまとめました。
触媒は化学者の大事な道具
- 弾力があって丈夫な材料、電池にエネルギーをためる分子、病気の進行をおさえる分子。これらをつくるには、触媒が必要です
- 触媒は、化学反応をコントロールして速め、自分は製品の一部にならない物質です
- たとえば、車の触媒は排気ガスの有害物質を無害な分子に変えます。わたしたちの体の中にも、酵素という何千もの触媒があり、生命に必要な分子をつくっています
- でも研究者は長いあいだ、触媒は原理的に「金属」と「酵素」の2種類しかないと考えていました
2000年、「第3の触媒」
- ベンジャミン・リスト博士(ドイツ)とデヴィッド・マクミラン博士(イギリス生まれ、アメリカで研究)は、2000年、それぞれ別々に、小さな有機分子を使う第3の触媒を開発しました。「不斉有機触媒」とよばれます
- ノーベル化学委員会の委員長は「シンプルで、しかも巧妙。なぜもっと早く思いつかなかったのかと多くの人が思っている」と述べています
リスト博士:アミノ酸のプロリン
- 1970年代はじめに、アミノ酸のプロリンを触媒に使った研究がありましたが、25年以上だれも続けていませんでした
- リスト博士は、あまり期待せずに、プロリンが2つの分子の炭素どうしをつなぐ反応を進めるか試しました。すると、プロリンは効率のよい触媒で、しかも右手型・左手型の片方だけをつくれることがわかりました
マクミラン博士:金属の代わりに
- マクミラン博士は、湿気ですぐこわれる金属の触媒を使っていました。そこで、金属と同じように電子を一時的にやりとりできる、シンプルな有機分子を設計しました

プレ男アミノ酸が触媒になるなんて!
なぜ広がった?
- 有機触媒は、炭素の骨組みに、酸素、窒素、硫黄、リンなどのありふれた元素がついたものです。そのため環境にやさしく、安くつくれます
- 分子をつくるとき、右手と左手のように鏡に映した2種類ができることがよくあります。薬をつくるときは、片方だけがほしいことが多く、有機触媒はそれを得意としています(「右手型」だけをつくり分ける触媒)
- たとえば、とても複雑な分子ストリキニーネは、1952年にはじめて合成されたとき29工程が必要で、材料のうち0.0009%しか目的の分子になりませんでした。2011年には、有機触媒などを使って12工程でつくれるようになり、効率は7,000倍になりました
- いまでは、新しい薬から、太陽電池で光をとらえる分子まで、より効率よくつくれるようになっています

触媒は金属と酵素の2種類だと考えられていましたが、2000年に小さな有機分子の「第3の触媒」が生まれました。環境にやさしく安くつくれ、薬づくりなどに役立っています。
化学のつながり
- シャープレス博士の「シンプルな化学」:「カチッ」とはまる化学反応
- パラジウムを使う触媒:クロスカップリング

プレ男「だれも続けてない研究」をもう一度ためしてみたのがすごい。

メル美シンプルなアイデアほど、気づくのがむずかしいんだね。
すき間だらけの結晶をつくった2025年の化学賞は、MOF(金属有機構造体)へ。
金属の表面で起こる触媒の反応は、化学反応は「表面」で起こるへ。
まとめ
- 触媒は反応を速めてコントロールし、自分は製品に残らない。金属と酵素の2種類だと思われていた
- 2000年、リスト博士とマクミラン博士が、小さな有機分子の「第3の触媒」を開発
- リスト博士はアミノ酸のプロリンで、片方の型だけをつくれることを示した
- 環境にやさしく安い。ストリキニーネは29工程→12工程、効率7,000倍
- 薬や太陽電池の分子づくりに(2021年ノーベル化学賞)
参考文献
- The Royal Swedish Academy of Sciences. Press release: The Nobel Prize in Chemistry 2021. NobelPrize.org. https://www.nobelprize.org/prizes/chemistry/2021/press-release/ (閲覧日:2026年10月10日)
- The Royal Swedish Academy of Sciences. Popular science background: Their tools revolutionised the construction of molecules (PDF). https://www.nobelprize.org/uploads/2021/10/popular-chemistryprize2021.pdf (閲覧日:2026年10月10日)
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