【テクノロジー解説】キラーT細胞は「ウイルスのかけら」と「自分の目じるし」をセットで見る:ウイルスに感染した細胞だけを見分けるしくみ。マウスの実験の「意外な結果」から(1996年ノーベル生理学・医学賞)
免疫は、ウイルスに感染した細胞を、どうやって正常な細胞と見分けて攻撃するのでしょうか。1996年のノーベル生理学・医学賞は、そのしくみを発見したドハーティ博士とツィンカーナーゲル博士に贈られました。1973〜75年、マウスの実験で、ウイルスに反応するキラーT細胞が、同じウイルスに感染していても、別の系統のマウスの細胞は攻撃しないという意外な結果が出ました。キラーT細胞は、ウイルスと同時に、自分の体の目じるし(主要組織適合抗原、MHC)をセットで見分けていたのです。この発見は、ワクチンづくりや、自己免疫の病気の理解の土台になりました。

プレ男免疫は、ウイルスに感染した細胞だけをどうやって見分けてるの?まちがえて正常な細胞をこわさないの?

メル美「ウイルスのかけら」と「自分の目じるし」をセットで見てるんだって。
こんにちは、Dr. Taro です。 「テクノロジー解説」、今回はキラーT細胞が感染した細胞を見分けるしくみです。1996年のノーベル生理学・医学賞の発表をもとにまとめました。
見分ける力が必要
- 免疫は、T細胞やB細胞などの白血球でできていて、入ってきた病原体や感染した細胞をとりのぞきます
- 同時に、自分の体をきずつけないようにしなければなりません。病原体や感染した細胞と、正常な細胞を見分けるしくみが必要です
- 1970年代はじめ、B細胞がつくる抗体が細菌などを見分けるしくみは知られていましたが、T細胞がウイルスに感染した細胞を見分けるしくみは、あまりわかっていませんでした
- 臓器移植の研究からは、T細胞が、ほかの人の細胞の「主要組織適合抗原(MHC)」という目じるしを見て攻撃することが知られていました
マウスの実験の「意外な結果」
- ピーター・ドハーティ博士とロルフ・ツィンカーナーゲル博士は、1973〜75年、オーストラリアのキャンベラの研究所で、マウスがウイルスからどう身を守るかを調べました
- 感染したマウスには、試験管の中で感染した細胞をこわすキラーT細胞ができていました
- ところが、そのキラーT細胞は、同じウイルスに感染していても、別の系統のマウスの細胞はこわしませんでした
- こわすかどうかを決めていたのは、ウイルスに感染しているかどうかだけでなく、その細胞が感染したマウス自身と同じ目じるし(MHC)をもっているかどうか、だったのです

プレ男ウイルスだけじゃなくて、「自分の目じるし」も確かめてたのか!
「自分」と「よそ者」をセットで見る
- 2人は、キラーT細胞がウイルスと自分のMHCの両方を同時に見分けている、と考えました
- その後の分子の研究で、ウイルスなどの小さなかけら(ペプチド)が、自分のMHCにくっついてかかげられ、そのセットをT細胞のセンサー(T細胞受容体)が見分けていることがわかりました
- この「自分とよそ者を同時に見分ける」原則は、ウイルス以外の病原体や、免疫が自分の体に反応するしくみを理解する土台になりました
何に役立つ?
- 細胞による免疫の見分け方がわかったことで、ワクチンづくりでは、病原体のどの部分が見分けられるかをねらって設計できるようになりました
- リウマチ、多発性硬化症、糖尿病などの、免疫が自分の体を攻撃してしまう炎症の病気の理解や、がんへの免疫の研究にもつながっています(1996年当時)

キラーT細胞は、ウイルスのかけらと自分の目じるし(MHC)をセットで見分けて、感染した細胞だけを攻撃します。マウスの実験の意外な結果から見つかったしくみで、ワクチンや自己免疫の病気の理解の土台になりました。
免疫のテクノロジーつながり
- 見はり役と司令塔:体の防御は2段がまえ
- 免疫のブレーキをはずすがん治療:免疫チェックポイント
- ウイルスのかけらを体につくらせるワクチン:mRNAワクチン

プレ男「予想とちがう結果」から大発見が生まれるのが、科学のおもしろさだね。

メル美免疫の「本人確認」みたいなしくみだね。
まとめ
- 免疫は、感染した細胞と正常な細胞を見分ける必要がある
- 1973〜75年、マウスのキラーT細胞が、別の系統の感染細胞はこわさないという意外な結果
- キラーT細胞は、ウイルスのかけらと自分の目じるし(MHC)をセットで見分ける
- ワクチンの設計や、自己免疫の病気の理解の土台に
- 1996年ノーベル生理学・医学賞(ドハーティ博士、ツィンカーナーゲル博士)
参考文献
- The Nobel Assembly at the Karolinska Institute. Press release: The Nobel Prize in Physiology or Medicine 1996. NobelPrize.org. https://www.nobelprize.org/prizes/medicine/1996/press-release/ (閲覧日:2026年10月10日)
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