
プレ男「ベル」って、マルドゥクのよび名じゃなかったっけ?

メル美もともとは、ニップルの町の神エンリルのよび名だったんだって。それが、あとからマルドゥクにうつったの。
こんにちは、Dr. Taro です。 神話の解説、今回はメソポタミア神話のエンリル(ベル)です。アメリカのアッシリア学者モリス・ジャストロウ『バビロニア・アッシリアの宗教』(1898年、プロジェクト・グーテンベルク)の第4章「エン・リルまたはベル」と「ニン・リルまたはベリト」の項を読みました。のちにベルの名をうけついだ神はマルドゥクへ。深い水の神はエアへ。
プロフィール
| 名前 | エン・リル(古い碑文での書き方)。のちにベル(「主」) |
| 町 | ニップル。「ベルの国」ともよばれた |
| 神殿 | エ・クル(「山の家」) |
| 性格 | 「下の世界の主」。天の神アヌに対して、人のすむ地上と地下をおさめる |
| よび名 | 「大いなる山」 |
| 妻 | ニン・リル(下の世界の女主人)、ベリト、ニン・カル・サグ(大いなる山の女主人) |
1. ニップルの神
- ジャストロウによると、エンリルは、それまでに見つかったいちばん古い碑文であるニップルの碑文にあらわれる神で、その名は、いつも「エン・リル」と書かれていました
- バビロニアの神学では、エンリルは「下の世界の主」です。ここで「下の世界」とは、天の上の世界に対して、人がすむ地上と、その下のことをさします
- ジャストロウは、「リル」という文字は、もとは「霊」を広くさすので、エン・リルは「霊のかしら」だった、と考えています。ニップルを守る土地の神が、町が大きくなるにつれて、広い地方の「主」となり、さらに、すべての人の住む世界をおさめる大きな神になった、というのです
2. 「主」とよばれた神
- その力がとても広かったので、エンリルはベル、つまり「主の中の主」とよばれるようになり、バビロニアじゅうでうやまわれました
- 南のラガシュの神ニンギルスは、グデアの碑文で「ベルの力強い戦士」とよばれています。ラガシュには、エンリルの神殿エ・アッダ(「父の家」)もあり、「天までそびえる」と書かれています
- ニップルの神殿エ・クル(「山の家」)は、バビロニアの歴史をつうじて名高く、多くの王が手をくわえました。ニップルの王たちは、「ニップルのベルの神殿をたてた者」という称号をほこりました

メル美王さまたちが、神殿の修理を自慢にしていたんだね。それだけ大事な神さまだったんだ。
3. 大いなる山
- ジャストロウによると、神々がすむと考えられた大きな山「国々の山」があり、神々のかしらであるベルは、とくにこの山とむすびつけられました。だから神殿は「山の家」とよばれたのです
- ベルは、山にすむ者から、やがて山そのものとも考えられ、「大いなる山」とよびかけられることもありました
- 妻ニン・リル(下の世界の女主人)は、ベリト(ベルの女性形で「女主人」)とも、ニン・カル・サグ(「高い山、大いなる山の女主人」)ともよばれました。ラガシュの王ウル・バウは、この女神を「神々の母」とよんでいます
4. めぐみぶかい、きびしい神
- ジャストロウは、ぼんやりのこった言いつたえから、エンリルは、かつて強い武器をもつ力強いかしらで、人間のためにたたかう神と考えられていたらしい、と書いています
- 全体としてはめぐみぶかい神でしたが、命令にそむく者には、きびしい罰をあたえる神でもありました
5. マルドゥクへ
- のちに、バビロンの神マルドゥクが神々のいちばん上におかれると、いちばんの敬意をあらわすために、マルドゥクの名に、もともとエンリルのものだった「ベル」という称号がくわえられました
- ジャストロウは、エンリルの姿を、①土地の神、②広い地方の主、③土地をはなれた「下の世界」の主、④その名と力がマルドゥクにうつされた時代、の4つの段階に分けて考えています
- そのため、のちの文書では、ニップルの古いベルのもとの性格は、見えにくくなってしまった、とジャストロウは説明しています

プレ男町の力がうつると、神さまの名前までうつるんだ。神話って、歴史とつながってるんだね。

ジャストロウの本では、エンリルは天の神アヌに対して、人のすむ地上と地下をおさめる「下の世界の主」とされ、その力の広さから「ベル(主)」とよばれた、と説明されています。
まとめ
- エンリルは、ニップルの町の古い神で、いちばん古い碑文にあらわれる
- 天の神アヌに対して、人のすむ地上と地下をおさめる「下の世界の主」とされ、ベル(主)とよばれた
- 神殿はエ・クル(山の家)。エンリル自身も「大いなる山」とよばれ、妻はニン・リル(ベリト)
- のちに、その名と力は、バビロンの神マルドゥクにうけつがれた
- ベルの名をうけついだマルドゥク、深い水の神エア、エンリルの長子とされた月の神シンもどうぞ
参考文献
- Morris Jastrow, Jr. The Religion of Babylonia and Assyria(1898年). Chapter IV “Babylonian Gods Prior to the Days of Hammurabi”(En-lil or Bel; Nin-lil or Belit; Nin-girsu). Project Gutenberg. https://www.gutenberg.org/ebooks/20758 (閲覧日:2026年10月12日)
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