
プレ男妖精の国から、人間の世界にとりのこされちゃうの? どうして?

メル美川で水あびをしたときに、妖精のお守りをなくしちゃったんだって。ふたつの世界のあいだで生きた、せつない乙女のお話なの。
こんにちは、Dr. Taro です。 神話の解説、今回はケルト神話(アイルランド)のエトネと妖精の国です。T.W.ロールストン『フィンの偉業 ― 古代アイルランドの詩人の物語』(1910年、プロジェクト・グーテンベルク)の第8章「エトネが妖精の国を去ったわけ」を読みました。エトネが育った館の主はアンガスへ。妖精の国の宴の話はボドヴ・デルグへ。
プロフィール
| エトネ | ダーナ神族のアンガスの館の執事の娘 |
| 仕えた人 | 海の神マナナーンと妻ファンの娘。アンガスの館であずかり育てられた |
| 館 | ボイン川のほとりのブルー・ナ・ボーニャ。いまニューグレンジとよばれる大きな塚 |
| 妖精の食べもの | からにならないビールの桶と、毎日かわるがわる食べられる2頭のブタ。食べると年をとらず、死なない |
| 聖地からの牛 | マナナーンとアンガスがつれてきた、乳のつきない2頭の牛 |
| キル・エトネ | 「エトネの教会」。エトネがほうむられた教会の名 |
1. 見えない国
- ボイン川のほとりの、いまニューグレンジとよばれる大きな塚には、むかし、ダーナ神族の王子アンガスのかがやく館がありました
- ミールの一族にやぶれたダーナ神族は、自分たちと持ちものを人の目に見えなくするまじないをつくり、むかしのままの楽しいくらしをつづけました。人の目には、その宮殿や踊りの場は、ただの緑の塚や、さびしい丘の中腹や、イラクサのしげる遺跡にしか見えないのです
- アンガスの館の執事に、エトネという娘が生まれました。同じ日、海の神マナナーンの妻ファンにも娘が生まれ、その娘はアンガスの館であずかり育てられることになり、エトネはその侍女になりました
2. 食べなくなった乙女
- アンガスの館には、からにならないビールの桶と、1頭を食べるともう1頭が生きている、かわるがわるの2頭のブタがありました。この妖精の食べものを食べると、年をとらず、死ぬこともありませんでした
- ところが、大きくなったエトネは、妖精の食べものも、ほかの食べものも、まったく口にしなくなりました。それでも、元気そうなままでした
- マナナーンがその知恵でわけを見つけました。館をたずねたダーナ神族のある貴族が、エトネをむりやり自分の館へつれさろうとしたのです。エトネはにげのびましたが、そのときわきおこった強いいかりが、善も悪も知らない妖精の性質をもやしつくし、エトネは人の子の性質になっていた、と物語は語ります
- やがて、マナナーンとアンガスが聖地からつれてきた、乳のつきない2頭の牛の乳には妖精のまじないがなかったので、エトネは長いあいだ、その乳だけを自分でしぼって生き、若さも美しさもかわりませんでした

メル美こわい思いをして、心がかわってしまったんだね…。エトネは何も悪くないのに。
3. ボイン川の水あび
- ある暑い日、マナナーンの娘は、エトネたち侍女とボイン川へ水あびに行きました。帰ろうとすると、エトネの姿がありません。みなで川べりをさがしましたが、見つかりませんでした
- エトネは、川べりで服をぬぐときに、妖精のお守りをなくしてしまい、人間の娘になっていたのです。もう仲間の姿は見えず、館への妖精の道はイバラにおおわれ、アンガスの館は、ただの木のしげった丘でした
- おそろしくなったエトネは、知っている場所をさがしてにげまどい、やがて、高い壁の小さな門の前に来ました。中には、薬草と花の庭と、石の建物がありました
- 庭にいた、こげ茶の長い衣をなわでしめた男が、ほほえんで手まねきしました。聖パトリックの修道士で、そこは修道院の教会でした。エトネは、聖パトリックのもとで教えをうけ、洗礼をうけた、と物語は語ります
4. エトネをよぶ声
- しばらくして、エトネがボイン川のほとりの教会でいのっていると、空が暗くなり、大きな風のような音がしました。その中に、なげきの声と、エトネの名を何度もよぶ、たくさんの声がまじっていました。荒れ野のダイシャクシギの鳴き声のように、細くかすかな声でした
- エトネはとびあがって、よびかえしましたが、何も見えません。やがて声はやみ、ボイン川の歌うような水音と、庭のミツバチの羽音だけがのこりました
- エトネはたおれ、それからなおることのない病にかかりました。まもなく、エトネは聖パトリックの胸に頭をあずけてなくなり、はじめにむかえられた教会にほうむられました。その教会は、その日から「キル・エトネ(エトネの教会)」とよばれるようになった、と物語は結ばれています

プレ男妖精の仲間たちは、ずっとエトネをさがしていたんだ…。見えなくても、つながっていたんだね。

ロールストンの『フィンの偉業』では、エトネはボイン川で妖精のお守りをなくして人間の娘になり、仲間の姿も、アンガスの館も見えなくなった、と語られています。
まとめ
- エトネは、ボイン川のほとりのアンガスの館で、マナナーンの娘の侍女として育った
- ある出来事から妖精の性質をうしない、年をとらない妖精の食べものを口にしなくなった
- 川で妖精のお守りをなくしたエトネは、人間の世界にとりのこされ、聖パトリックのもとですごした
- 教会で、エトネをよぶたくさんのかすかな声を聞いたあと、エトネはなくなり、教会は「キル・エトネ」とよばれた
- 館の主アンガス、海の神マナナーン、丘にかくれた神々の王ボドヴ・デルグもどうぞ
参考文献
- T. W. Rolleston. The High Deeds of Finn, and Other Bardic Romances of Ancient Ireland(1910年). Chapter VIII “How Ethne Quitted Fairyland”. Project Gutenberg. https://www.gutenberg.org/ebooks/14749 (閲覧日:2026年10月12日)
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診断・治療に代わるものではありません。 気になる症状や不安がある場合は、医療機関にご相談ください。


