
メル美ダンテの『神曲』って、地獄・煉獄・天国をめぐる長い詩だよね。恋の話もあるの?

プレ男地獄篇の第5歌の、パオロとフランチェスカの話がとくに有名なんだって。
今回は、イタリアの詩人ダンテの『神曲』地獄篇 第5歌です。Project Gutenberg にある、アメリカの詩人ロングフェローの英訳で読みました。本文中の「」の言葉は、その英訳をこの記事で日本語にしたものです。後半の史実は、ロングフェロー訳(1867年版)の注と、『カトリック百科事典』(1913年)の記述によります。
※この歌には、夫の弟との恋と、その二人が殺された事件がかかわっています。
地獄の第二圏、やまない嵐
- 案内役の古代ローマの詩人ウェルギリウスとともに、ダンテは地獄の第一圏から第二圏へおりていきます。入口には、魂の罪を裁いて行き先を決めるミノスが立っています
- そこは「あらゆる光が口をつぐむ場所」。地獄の嵐はけっしてやまず、魂たちをあちらへこちらへ、下へ上へと吹きまわしています。休む望みも、苦しみが軽くなる望みもありません
- ここで罰を受けているのは、「理性を欲望にしたがわせた」、愛欲の罪人たちでした。ウェルギリウスは、セミラミス、ディド、クレオパトラ、ヘレネ、アキレウス、パリス、トリスタンなど、愛のために命を落とした人々の名をあげていきます
寄りそって飛ぶ二人
- ダンテは、いつも二人いっしょに、風に軽々と運ばれていく魂に話しかけたいと言います
- 呼びかけると、二人は、巣にもどる鳩のように近づいてきました。話しはじめたのは女性のほうです
- 「わたしの生まれた町は、ポー川が流れくだって海にやすらぐ岸辺にあります」
- そして彼女は、「愛」で始まる三つの言葉を語ります
- やさしい心にすばやく取りつく愛が、この人を、わたしの美しい姿へと取りこにした
- 愛されたなら愛さずにはいられない愛が、この人へのよろこびでわたしをとらえ、ごらんのとおり、いまもわたしをはなさない
- 「愛は、わたしたちを一つの死へとみちびきました。わたしたちの命を消した者を、カイーナが待っています」
- カイーナは、地獄のいちばん底の第九圏で、肉親を裏切った者たちが罰を受ける場所の名です(第32歌)

プレ男二人を殺した人も、地獄の底に行くことになっているんだ。
ランスロットの本を読んだ日
- ダンテはうなだれ、やがて彼女の名をよびます。「フランチェスカ、あなたの苦しみに、わたしは泣けてしまう」。そして、二人がどうやって自分たちの思いに気づいたのかをたずねます
- フランチェスカは答えます。「みじめさの中で、しあわせだった時を思い出すことほど、大きな悲しみはありません」
- 「ある日、わたしたちは楽しみのために、ランスロットが愛のとりこになった物語を読んでいました。わたしたちは二人きりで、何もおそれていませんでした」
- 読むうちに、何度も目と目が合い、顔の色が変わった。そして、焦がれていた王妃のほほえみに、高貴な恋人が口づけをする場面まで来たとき——「けっしてわたしからはなれることのないこの人が、ふるえながら、わたしの口に口づけをしました」
- 「ガレオットこそ、その本であり、それを書いた人でした。その日、わたしたちはそれ以上読みませんでした」。ロングフェローの注によると、物語の中でランスロットと王妃グィネヴィアの仲をとりもったのがガレオット(ガレオー)で、二人にとってはこの本がそのガレオットだった、という意味です
- フランチェスカが語るあいだ、もう一人の魂はずっと泣いていました。ダンテはあわれさのあまり気をうしない、「死体がたおれるように」たおれます。第5歌はそこで終わります

メル美罪人として地獄にいるのに、ダンテは責めるんじゃなくて、泣いて気をうしなっちゃうんだね。
1285年の事件
- 第5歌の中で名前が出てくるのはフランチェスカだけで、相手の男性の名前は出てきません。ロングフェローの注によると、二人は次の人たちです
- フランチェスカ:ラヴェンナの領主グイド・ダ・ポレンタの娘(後の注釈者には、グイドは父ではなく甥だとする説もある、とロングフェローは書いています)。リミニの領主の息子ジャンチョット・マラテスタの妻
- 恋人:夫の弟、パオロ・マラテスタ。二人の仲に気づいた夫が、自分の手で二人とも殺した
- 『カトリック百科事典』(1913年)の「マラテスタ家」の項も、ジャンチョット(足が不自由だったことからついた呼び名)は、1285年の家庭の悲劇で知られ、妻フランチェスカ・ダ・ポレンタと弟パオロの不義を見つけて、二人を自らの手で殺した、と書いています
- ロングフェロー訳の注には、14世紀の作家ボッカッチョが『神曲』の注釈で伝えた話も英訳されています。その話によると
- ポレンタ家とマラテスタ家は長い戦いのあとで和平を結び、その証としてフランチェスカをジャンチョットに嫁がせることになった。けれど、ジャンチョットは見た目がよくなかったので、気位の高い娘が会えばことわるだろうと、代わりに美しい弟のパオロが代理で結婚の式に来た
- フランチェスカは、パオロを夫になる人だと思いこんで心をよせ、リミニへ嫁いだ翌朝、はじめてだまされていたことを知った
- のちに夫の留守中に二人が親しくしていることを召使いが知らせ、夫はひそかにもどって二人を殺した。翌朝、二人は涙のうちに同じ墓にほうむられた
- ただしボッカッチョ自身、二人の仲が不義にまでなったとは、ダンテが書いたもののほかには聞いたことがない、とも書いています

第5歌のフランチェスカは、地獄の嵐の中でも「この人はけっしてわたしからはなれない」と語ります。ダンテは二人を罪人として地獄に置きながら、その話を聞いて、あわれさのあまり気をうしなっています。
まとめ
- ダンテ『神曲』地獄篇第5歌は、愛欲の罪人が、やまない嵐にふかれる第二圏の話
- ダンテが声をかけたのは、いつも二人いっしょに飛ぶ魂。女性は「フランチェスカ」とよばれる
- 二人は、ランスロットと王妃の恋の本を読んでいた日に、はじめて口づけをした。「その日、わたしたちはそれ以上読みませんでした」
- 聞きおえたダンテは気をうしなってたおれる
- 史実では、フランチェスカは夫ジャンチョット・マラテスタの弟パオロと恋をし、1285年、二人とも夫に殺された
- 中世の恋の実話はアベラールとエロイーズ、夫のある女性をめぐる物語は芥川龍之介『袈裟と盛遠』、不倫が罪とされた日本の歴史は姦通罪の歴史もどうぞ
参考文献
- Dante Alighieri. Divine Comedy, Longfellow’s Translation, Hell(Henry Wadsworth Longfellow 訳). Inferno: Canto V. Project Gutenberg. https://www.gutenberg.org/ebooks/1001 (閲覧日:2026年10月22日)
- The Divine Comedy (Longfellow 1867), Volume 1, Notes(Canto V の注 97・116 と、ボッカッチョの注釈の英訳). Wikisource. https://en.wikisource.org/wiki/Divine_Comedy_(Longfellow_1867)/Volume_1/Notes (閲覧日:2026年10月22日)
- Catholic Encyclopedia (1913). House of Malatesta(Giovanni Malatesta の項). Wikisource. https://en.wikisource.org/wiki/Catholic_Encyclopedia_(1913)/House_of_Malatesta (閲覧日:2026年10月22日)
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