【テクノロジー解説】「法則はわかっている、式がむずかしすぎるだけ」:電子1つ1つではなく「電子の密度」で計算する方法と、世界中の化学者が使う計算プログラム。量子化学をみんなの道具にした(1998年ノーベル化学賞)
分子の性質や化学反応は、量子力学の法則で説明できるはずです。でも、1929年に物理学者ディラックが言ったように「法則はすべてわかっているが、式が複雑すぎて解けない」のが問題でした。1998年のノーベル化学賞は、その壁をこえたコーン博士とポープル博士に贈られました。コーン博士は、電子1つ1つの動きではなく、空間の各点に平均でどれだけ電子がいるか(電子密度)がわかれば計算できる「密度汎関数理論」をつくり、大きな分子もあつかえるようにしました。ポープル博士は計算の方法をととのえ、世界中の化学者が使うプログラム「GAUSSIAN」をつくりました。

プレ男化学の実験って、ぜんぶ試験管でやるんじゃないの?

メル美コンピューターで、分子の形や反応を計算できるようにした人たちがいるんだって。
こんにちは、Dr. Taro です。 「テクノロジー解説」、今回は量子化学の計算です。1998年のノーベル化学賞の発表をもとにまとめました。
「式がむずかしすぎて解けない」
- 研究者は長いあいだ、分子の中で原子どうしの結合がどう働くかを理解する方法をさがしていました。それがわかれば、分子の性質や、分子どうしのやりとりを計算できます
- 1900年代はじめに量子力学が生まれ、道がひらけましたが、分子のように複雑なものの式は、とてもあつかえませんでした
- 1929年、量子物理学の生みの親の一人ディラックは、こう言いました。「物理学の大部分と化学のすべてを数学であつかうための基本の法則はすべてわかっている。むずかしいのは、その法則をあてはめると、解けないほど複雑な式になることだけだ」
コンピューターと「量子化学」
- 1960年代のはじめ、コンピューターでこれらの式を解くようになり、量子力学を化学に使う「量子化学」という新しい分野が生まれました
- その中でもっとも目立つ2人が、ウォルター・コーン博士とジョン・ポープル博士です

プレ男法則はわかってるのに、計算できなかったのか。
コーン博士:「電子の密度」で計算する
- ふつうの計算は、電子1つ1つの動きを考えるので、とても複雑になります
- コーン博士は1964年、電子1つ1つを考えなくても、空間の各点に平均でどれだけ電子がいるか(電子密度)がわかれば、全体のエネルギーを計算できることを示しました
- これが「密度汎関数理論(DFT)」です。計算がかんたんになり、とても大きな分子も調べられるようになりました。たとえば、酵素の反応がどう起こるかも計算で説明できるようになっています(1998年当時)
ポープル博士:だれでも使える計算プログラム
- ポープル博士は、分子の性質や化学反応を、量子力学の法則にもとづいて計算する方法をととのえました
- 結果がどれくらい正確かがわかり、使いやすく、計算の負担が大きすぎないことを大切にしました
- そして、計算プログラム「GAUSSIAN」をつくりました。最初のバージョンは1970年に発表され、いまでは大学や企業の何千人もの化学者に使われています(1998年当時)
何がわかる?
- アミノ酸のような分子の形や、電子の雲のようすを、画面の上で計算できます。おおまかな結果なら1分ほど、高い精度なら1日ほどかかります(1998年当時)
- 宇宙の星間雲の分子:実験室ではつくれない分子でも、計算で出す電波の周波数を求め、電波望遠鏡のデータとくらべて正体を調べられます
- オゾン層の破壊:上空でフロンが紫外線でこわれ、出てきた塩素がオゾンをこわす反応を、計算でくわしく理解できます

コーン博士は電子1つ1つではなく電子の密度で計算する方法をつくり、ポープル博士はだれでも使える計算プログラムをつくりました。量子化学の計算は、いまや化学のあらゆる分野で使われています。
化学とコンピューターのつながり
- 量子と古典の計算を組みあわせる:化学の実験を「コンピューターの中」で
- 量子の世界のふしぎ:「量子力学」ってなに?
- 計算で調べられるオゾン層の破壊:オゾン層とフロン

プレ男宇宙の分子の正体まで、計算でわかるんだね。

メル美理論と実験が、いっしょに進むんだね。
まとめ
- 「法則はわかっているが、式が複雑すぎて解けない」(ディラック、1929年)
- 1960年代、コンピューターで解く量子化学が生まれた
- コーン博士:電子密度で計算する密度汎関数理論(1964年〜)。大きな分子も計算できる
- ポープル博士:計算の方法をととのえ、プログラムGAUSSIAN(1970年〜)
- 酵素の反応、星間雲の分子、オゾン層の破壊などを計算で(1998年ノーベル化学賞)
参考文献
- The Royal Swedish Academy of Sciences. Press release: The Nobel Prize in Chemistry 1998. NobelPrize.org. https://www.nobelprize.org/prizes/chemistry/1998/press-release/ (閲覧日:2026年10月10日)
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診断・治療に代わるものではありません。 気になる症状や不安がある場合は、医療機関にご相談ください。