【テクノロジー解説】化学の実験を「コンピューターの中」で:ニュートンのりんごとシュレーディンガーの猫が手を組んだ。大事な部分だけ量子の計算、残りはかんたんな計算で、薬とタンパク質の結合や光合成をシミュレーション(2013年ノーベル化学賞)
化学者は昔、プラスチックの球と棒で分子の模型をつくっていました。いまは、コンピューターの中で分子をつくり、化学反応を計算します。2013年のノーベル化学賞は、1970年代にその土台をきずいたカープラス博士、レビット博士、ウォーシェル博士に贈られました。それまで化学者は、大きな分子をかんたんに計算できるニュートンの古典物理か、反応を計算できるけれど小さな分子しかあつかえない量子物理か、どちらかを選ぶしかありませんでした。3人は両方のいいところを組みあわせ、薬がくっつく部分だけを量子の計算で、残りを古典の計算でシミュレーションできるようにしました。

プレ男理科室にあった、球と棒の分子模型、なつかしい!

メル美いまは、コンピューターの中で分子を動かして、反応を計算するんだって。
こんにちは、Dr. Taro です。 「テクノロジー解説」、今回は化学のコンピューターシミュレーションです。2013年のノーベル化学賞の発表と一般向け解説をもとにまとめました。
化学反応は、目にもとまらぬ速さ
- 化学者は昔、プラスチックの球と棒で分子の模型をつくっていました。いまは、コンピューターの中でモデルをつくります
- 化学反応はいなずまのような速さで起こり、1000分の1秒にもみたない時間で、電子が原子から原子へとびうつります
- 化学反応の1つ1つのステップを、実験ですべて調べるのは、ほとんど不可能です
- そこで、コンピューターに化学反応を再現させます。たとえば、車の排ガスをきれいにする触媒のはたらきや、緑の葉の光合成などです
「どちらか」しか選べなかった
それまで、分子をコンピューターで計算するには、2つの方法のどちらかを選ぶしかありませんでした。
| 古典物理(ニュートン) | 量子物理(シュレーディンガー) | |
|---|---|---|
| 長所 | 計算がかんたん。大きな分子もあつかえる | 化学反応を計算できる |
| 短所 | 化学反応は計算できない | ばく大な計算力が必要で、小さな分子しかあつかえない |

プレ男大きい分子か、反応か。どっちもほしいよね。
両方のいいとこどり
- マーティン・カープラス博士、マイケル・レビット博士、アリー・ウォーシェル博士は1970年代、古典物理と量子物理を同時に使う方法をつくりました。ニュートンのりんごと、シュレーディンガーの猫が手を組んだのです
- たとえば、薬が体の中のタンパク質にくっつくようすをシミュレーションするとき
- 薬とやりとりするタンパク質の一部の原子だけを、量子の計算で
- 大きなタンパク質の残りの部分は、かんたんな古典の計算で
- カープラス博士は、目の網膜にある分子(レチナール)が、光を受けて形を変えるしくみにも関心をもって研究しました
何に役立つ?
- 化学反応をくわしく知ることで、触媒、薬、太陽電池をよりよくできます。光合成をまねできれば、より効率のよい太陽電池がつくれるかもしれません
- いまや、化学者にとってコンピューターは試験管と同じくらい大切な道具です。シミュレーションは、ふつうの実験の結果を予測できるほど現実的になっています(2013年当時)

2013年の受賞者は、大事な部分だけを量子の計算で、残りをかんたんな古典の計算でおこなう方法をつくり、大きな分子の化学反応をコンピューターで再現できるようにしました。
つながるテクノロジー
- AIでタンパク質の形を予測:AlphaFold
- 地球の気候をコンピューターで再現:気候モデル
- 量子の世界のふしぎ:「量子力学」ってなに?

プレ男試験管の代わりにパソコンで実験する時代なんだね。

メル美1970年代のアイデアが、いまの薬づくりを支えてるんだね。
量子の計算を化学の道具にした先がけの研究は、「法則はわかっている、式がむずかしすぎるだけ」へ。
まとめ
- 化学反応は1000分の1秒もかからない。実験だけですべてのステップを調べるのはむずかしい
- 以前は、古典物理(大きな分子OK・反応NG)か、量子物理(反応OK・小さな分子だけ)のどちらか
- 1970年代、3人が両方を組みあわせる方法をつくった
- 薬がくっつく部分だけ量子、残りは古典で計算
- 触媒・薬・太陽電池の開発に。コンピューターは試験管と同じくらい大切(2013年ノーベル化学賞)
参考文献
- The Royal Swedish Academy of Sciences. Press release: The Nobel Prize in Chemistry 2013. NobelPrize.org. https://www.nobelprize.org/prizes/chemistry/2013/press-release/ (閲覧日:2026年10月10日)
- The Royal Swedish Academy of Sciences. Popular science background: Taking the experiment to cyberspace (PDF). https://www.nobelprize.org/uploads/2018/06/popular-chemistryprize2013.pdf (閲覧日:2026年10月10日)
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