
プレ男『それから』って、変わったタイトルだよね。何の「それから」なの?

メル美好きだった人を、友だちにゆずってしまった男の人。その「それから」の話なんだって。
今回は、夏目漱石の長編『それから』です。青空文庫の本文(底本:『漱石全集 第六巻』岩波書店)で読みました。初出は『東京朝日新聞』『大阪朝日新聞』1909年(明治42年)6月27日〜10月4日の連載です。本文中の「」の言葉は、青空文庫の本文からの引用です。
※この作品には、夫のある女性との恋がえがかれています。
三十の「遊民」・代助
- 主人公の長井代助は、実業家の家の次男。学校を出たあとも職につかず、父の金でひとり暮らしをしています
- 父には「三十になつて遊民として、のらくらしてゐるのは、如何にも不体裁だな」と言われますが、代助は、食べるために働くのは「劣等な経験」だと考えるような人でした
- 小説は、代助が、夜のうちに落ちた八重の椿を枕もとに見つけ、寝たまま胸に手をあてて、自分の心臓の鼓動をたしかめる場面から始まります
3年前の「周旋」
- 学生のころ、代助の学友に菅沼がいました。谷中の清水町で、国から呼んだ妹の三千代と暮らしていて、代助も、友人の平岡も、よく遊びに行きました。四人で二年たらずをすごします
- 菅沼の卒業の年、上京していた母が腸チフスで亡くなり、看病に来た菅沼もうつって亡くなります。三千代は父につれられて国へ帰りました
- その年の秋、平岡と三千代は結婚します。表向きの仲人は郷里の先輩でしたが、「身体を動かして、三千代の方を纏めたものは代助であつた」
- それから3年。銀行の大阪の支店につとめていた平岡は、部下の使いこみの件で職をやめ、向こうに借金を残したまま、三千代と東京へもどってきます。平岡の妻への態度は、結婚したころとは変わっていました
父の縁談と、白い百合
- 父と兄は、代助に縁談をすすめます。相手は、佐川家の娘。父は、財産がほしいなら佐川の娘をもらえばいい、と条件をつけます
- 三千代はある日、代助の家へ、大きな白い百合の花を三本さげてやってきます。その「甘たるい強い香」が、二人のあいだに立ちこめていました
- 代助は縁談をことわる決心をかためていきます。そして雨の日、百合の花を部屋にかざって、三千代を呼びました

メル美百合の香りが、二人の思い出とつながっているんだね。
「僕の存在には貴方が必要だ」
- 代助は言います。「僕の存在には貴方が必要だ。何うしても必要だ。僕は夫丈の事を貴方に話したい為にわざ/\貴方を呼んだのです」
- 作品によると、その言葉には「普通の愛人の用ひる様な甘い文彩」はなく、「官能を通り越して、すぐ三千代の心に達した」。三千代は涙を流し、手帛(ハンカチ)の中から「余りだわ」と言います
- 代助は、告白が遅すぎたことをさとります。「僕は三四年前に、貴方に左様打ち明けなければならなかつたのです」。三千代は顔をあげて言いました。「何故棄てゝ仕舞つたんです」。そして「残酷だわ」
- 「平岡を愛しているんですか」「平岡は貴方を愛しているんですか」。三千代は答えず、やがて顔をあげて、一字ずつ言います。「仕様がない。覚悟を極めませう」
- 代助は「脊中から水を被つた様に顫へた」。作品は二人を「社会から逐ひ放たるべき二人の魂」と書いています
縁談をことわる
- 代助は父に会い、縁談をはっきりことわります。父は「ぢや何でも御前の勝手にするさ」と苦い顔をし、「己の方でも、もう御前の世話はせんから」と言いました
平岡との対決
- 代助は平岡に手紙を書いて会い、すべてを話します。「僕は三千代さんを愛してゐる」「他の妻を愛する権利が君にあるか」
- 平岡は3年前のことを持ちだします。夜の上野から谷中へぬける道で、結婚の話をしたとき、代助は「僕の為に泣いて呉れた」。あの晩はうれしくて眠れなかった。それなのに、なぜ——
- 代助は打ちあけます。「平岡、僕は君より前から三千代さんを愛してゐたのだよ」。あのときは、自分の未来を犠牲にしても友の望みをかなえるのが友だちの本分だと思った。「それが悪かつた」
- 「三千代さんを呉れないか」という代助に、平岡は「うん遣らう」と答えます。ただし、三千代はいま重い病気で寝ている。寝ている病人をわたすのはいやだ、病気がなおるまではわたせない、と。そして「今日限り絶交する」
- これからは三千代を引きわたすとき以外、君とは関係がない——そう聞いた代助は、平岡が三千代の死骸だけを見せるつもりなのだと思いこみ、「それは苛い。それは残酷だ」と平岡の肩をゆさぶりました

プレ男泣いて友だちに好きな人をゆずったのに、それがいちばん友だちを傷つけることになったんだね…。
「ああ動く。世の中が動く」
- その夜、代助は平岡の家の前を何度も行き来しますが、家の中のようすはまったくわかりません
- 翌日、兄の誠吾がたずねてきます。手には、平岡が父にあてて書いた手紙。「其所に書いてある事は本当なのかい」「本当です」
- 兄は「姉さんは泣いてゐるぜ」「御父さんは怒つてゐる」と言い、「おれも、もう逢はんから」と言いのこして帰っていきました
- 代助は、書生の門野に「僕は一寸職業を探して来る」と言って、帽子だけかぶり、日盛りの外へ飛びだします。飯田橋から電車に乗り、「あゝ動く。世の中が動く」と、そばの人に聞こえるように言いました
- 赤い郵便ポスト、赤い傘の看板……目に入る赤い色が、つぎつぎに代助の頭の中に飛びこんで、くるくるとまわりはじめる。小説はそこで終わります

『それから』の代助は、3年前、自分も思っていた三千代を友人の平岡と結婚させました。告白のとき三千代が言った「何故棄てゝ仕舞つたんです」という言葉は、その3年前の選択に向けられています。
まとめ
- 『それから』は、夏目漱石の長編(1909年、朝日新聞に連載)
- 三十になっても父の金で暮らす代助は、3年前、自分も思っていた三千代を友人の平岡と結婚させていた
- 冷えきった平岡夫婦。代助は父のすすめる縁談をことわり、白い百合の部屋で三千代に「僕の存在には貴方が必要だ」と告白する。三千代は「仕様がない。覚悟を極めませう」
- 平岡は「うん遣らう」と言いながら絶交し、父に手紙を書く。代助は父と兄からも見はなされる
- 「職業を探して来る」と飛びだした代助の頭の中で、赤い色がまわりはじめる
- 漱石の三角関係は『こころ』、夫のある女性との恋が罪だった時代は姦通罪の歴史、漱石の恋の夢は『夢十夜』第一夜もどうぞ
参考文献
- 夏目漱石. それから(底本:『漱石全集 第六巻』岩波書店。初出:『東京朝日新聞』『大阪朝日新聞』1909年6月27日〜10月4日). 青空文庫. https://www.aozora.gr.jp/cards/000148/card1746.html (閲覧日:2026年10月22日)
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