【テクノロジー解説】AIが考古学を変えた:ナスカの地上絵は約100年で430点、AIを使って半年で303点ふえた。火山で炭になった2000年前の巻物は、開かずにX線とAIで最初から最後まで読めた【PNAS・ベスビオ・チャレンジ】
AIは、考古学の発見のスピードを大きく変えています。山形大学などのチームは、ナスカの地上絵の空撮画像をAIで調べ、約1世紀かけて見つかっていた430点の具象の地上絵に対し、わずか半年の現地調査で新たに303点を確認しました(2024年、米国科学アカデミー紀要)。西暦79年のヴェスヴィオ火山の噴火で炭になったヘルクラネウムの巻物は、開くとくずれてしまうため読めませんでしたが、X線CTと機械学習でインクを浮かびあがらせ、2023年に最初の文章を、2026年には1巻を最初から最後まで読むことに成功しました。
目次

プレ男考古学って、地道に土を掘るイメージ。AIなんて使うの?

メル美ナスカの地上絵がAIでたくさん見つかったってニュース、見たことあるよ。
こんにちは、Dr. Taro です。 「テクノロジー解説」、今回はAIで進んだ考古学です。ナスカの地上絵の論文(米国科学アカデミー紀要、2024年)と、ヘルクラネウムの巻物を読むプロジェクト「ベスビオ・チャレンジ」の公式発表をもとにまとめました。
1. ナスカの地上絵:約100年で430点 → AIで半年に303点
見つけるのがむずかしい「小さな地上絵」
- ペルーのナスカ(ユネスコ世界遺産)では、動物や人などをえがいた具象の地上絵が、約1世紀かけて430点見つかっていました
- 地上絵には、遠くから見る巨大な線の地上絵と、石をよけてえがいた小さな「レリーフ型」の地上絵があります。レリーフ型は約2,000年風雨にさらされて見えにくく、専門家が高解像度の空撮画像を目で見て候補を探すしかありませんでした
- 調べる範囲は629km²にもおよび、目で見るやり方では、全体を調べるのは現実的ではありませんでした
AIが候補をしぼり、人が現地で確かめる
- 山形大学などと IBM の研究チームは、ナスカ全体の高解像度の空撮画像を AI で調べ、地上絵の候補を探しました(研究チームは2020年までに、1ピクセル10cmの空撮画像でナスカ台地全体をそろえていました)。学習に使える例は少なかったのに、見つけにくいレリーフ型を探すのに効果がありました
- AI が出した4万7,410か所の候補を研究者が見て、可能性の高い1,309か所にしぼりこみ、ランクをつけました(この作業に約1,200時間)
- 2022年9月〜2023年2月、ペルー文化省の許可を得て歩いて現地調査(約1,440時間)し、303点の新しい具象の地上絵を確認しました。知られていた数がほぼ2倍になりました

プレ男100年で430点だったのが、半年で303点!AIが「ここを見て」って教えてくれたんだね。
数がふえて、地上絵の「目的」も見えてきた
- 数がふえたことで、えがかれたものや場所を分析できるようになりました
- レリーフ型は、人や、家畜・切られた首など人がかかわるものをえがいたものが多く(81.6%)、古代の小道から平均43mの、歩きながら見える場所にありました。個人や少人数でつくり、見たものと考えられます
- 巨大な線の地上絵は、野生の動物が多く(64%)、儀式に使われた直線や台形の地上絵の網の近く(平均34m)にありました。共同体で儀式に使ったと考えられます
2. ヘルクラネウムの巻物:炭になった2000年前の本を「開かずに」読む
開けばくずれる、600巻以上の巻物
- 西暦79年、ヴェスヴィオ火山の噴火で、古代ローマの町ヘルクラネウムの大きな屋敷が、熱い泥と灰に埋もれました。屋敷には、パピルスの巻物の図書館がありました
- 巻物は熱で炭になりましたが、そのおかげで保存されました。18世紀に見つかったものの、とてももろく、開こうとして多くがこわれ、600巻以上が開けないまま残っていました
X線CT + AIで、インクを浮かびあがらせる
- 炭になった巻物を X線CT で撮影し、中で巻かれたシートの形をコンピューターでたどって、平らに広げます(CTってなに?)
- 古代の炭のインクは、X線ではパピルスとほとんど区別がつきません。そこで、インクが見える断片で機械学習のモデルを訓練し、閉じた巻物の中のインクを推定します(ニューラルネットワークってなに?)
- 2023年3月、賞金をかけた国際コンテスト「ベスビオ・チャレンジ」がはじまり、CT のデータが公開されました
2023年:はじめて文章が読めた
- 2023年、21歳の大学生がはじめて、巻物の中から1つの単語(「紫」を意味するギリシャ語)を読みとりました
- 2023年12月、3人のチームが、140文字の文章を4か所読める画像をつくり、大賞を受けました。巻物が見つかってから275年、はじめて中身が読めた瞬間でした
- 書かれていたのは、音楽や食べものなどの「快楽」についての哲学で、エピクロス派の哲学者フィロデモスの作品の可能性が高いと考えられています
2026年:1巻を最初から最後まで
- 2026年6月、巻物 PHerc. 1667 を、開かずに最初から最後まで読んだと発表されました。ヘルクラネウムの巻かれたままの巻物を全部読んだのは、はじめてです
- 残っていたのは約1.4m、約22段のギリシャ語の文章で、人間の本性や道徳的な成長を論じたストア派の倫理学の書物と考えられています
- 別の巻物では、題名と著者(フィロデモス『神々について』第8巻)も読みとれました
- データとプログラムは公開され、誰でも確かめ、ほかの巻物に使えるようになっています。まだ何百巻もの巻物が、読まれるのを待っています

AIは、ナスカの空撮画像から地上絵の候補をしぼりこみ、半年の現地調査で303点の発見につながりました。炭になった2000年前の巻物も、X線CTと機械学習で、開かずに読めるようになりました。
AIは「人の代わり」ではなく「人を助ける」
- ナスカでは、AI が候補を出し、最終的に本物かどうかは、研究者が現地を歩いて確かめました
- 巻物でも、AI が浮かびあがらせた文字を、パピルス学者が読み、別の方法やちがう AI モデルでも同じ結果になるか確かめています
AIつながり
- 文章を学んだ AI:LLM(大規模言語モデル)ってなに?
- タンパク質の形を予測した AI:AlphaFoldってなに?

プレ男2000年前の哲学者の言葉を、AIのおかげで読めるなんてロマンがある!

メル美最後は人が確かめる、っていうのが大事なんだね。
4万年前の骨からDNAを読む技術は、4万年前の骨からDNAを読むへ。
まとめ
- ナスカ:約100年で430点 → AI で候補をしぼり、半年の現地調査で303点。数がほぼ2倍に
- 小さなレリーフ型は小道ぞいで人や家畜、巨大な線の絵は儀式の網の近くで野生の動物
- ヘルクラネウムの巻物:炭になって開けない巻物を、X線CT + 機械学習で読む
- 2023年に最初の文章、2026年に1巻を最初から最後まで
- AI が候補を出し、人が確かめる。データとプログラムは公開
参考文献
- Sakai M, Sakurai A, Lu S, et al. AI-accelerated Nazca survey nearly doubles the number of known figurative geoglyphs and sheds light on their purpose. Proc Natl Acad Sci U S A. 2024;121(40):e2407652121. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11459208/ (閲覧日:2026年10月6日)
- Vesuvius Challenge. Vesuvius Challenge 2023 Grand Prize awarded: we can read the first scroll!(2024年2月). https://scrollprize.org/grandprize (閲覧日:2026年10月6日)
- Vesuvius Challenge. We read an entire scroll — without ever opening it(2026年6月25日). https://scrollprize.org/firstscroll (閲覧日:2026年10月6日)
- Vesuvius Challenge. 公式サイト トップページ. https://scrollprize.org/ (閲覧日:2026年10月6日)
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