
メル美芥川龍之介って、『羅生門』とか『蜘蛛の糸』のイメージだけど、恋愛の話も書いているの?

プレ男『秋』は、姉妹と、ひとりの男の人の話なんだって。
今回は、芥川龍之介の短編『秋』です。青空文庫の原文(底本:『現代日本文学大系43 芥川龍之介集』筑摩書房)で読みました。作品の末尾には「大正九年三月」とあります。
才媛の信子と、従兄の俊吉
- 信子は、女子大学にいたころから「才媛」として知られ、いずれ作家になるとだれもが思っていました
- 従兄の俊吉は、大学の文科の学生で、やはり作家をめざしていました。フランス仕込みの皮肉や警句ばかり言う人で、まじめな信子はときどき怒りながらも、その中に「何か軽蔑出来ないもの」を感じていました
- 2人は、信子の妹・照子もつれて、展覧会や音楽会によく出かけます。だれの目にも、信子と俊吉はいずれ結婚すると見えていました
突然の結婚と、妹の手紙
- ところが卒業すると、信子は大阪の商事会社につとめる青年と、突然結婚してしまいます
- 大阪の新しい家で、信子はときどき、針箱の底にしまった桃色の便せんをひろげます。それは、見送りの駅で照子がそっとわたした手紙でした
- 「照子は勿体ない御姉様の犠牲の前に、何と申し上げて好いかもわからずに居ります。」
- 照子は、自分も俊吉を好きだったこと、姉がそれを知って身を引き、「心にもない御結婚」をしたのだと書いていました
- 信子は手紙を読むたびに涙ぐみます。けれど、「彼女の結婚は果して妹の想像通り、全然犠牲的なそれであらうか」——そう疑うと、胸が重くなるのでした

プレ男妹のために身を引いた…のに、自分でもそれが本当かわからないんだね。
小さなすれちがいの新婚生活
- 夫は、口数の少ない、やさしくて身ぎれいな人。はじめの3か月ほどは、幸福な日がつづきました
- 信子がまた小説を書きはじめると、夫は「愈女流作家になるかね。」と笑います。でもある朝、洗った襟がなかったとき、「小説ばかり書いてゐちや困る。」と言いました
- その夜、信子は「もう小説なんぞ書きません。」とつぶやいて泣き、それでも夫にすがっていました。けんかと仲なおりをくりかえすうちに、信子が机に向かうことは少なくなっていきます
- やがて、雑誌に俊吉の小説がのるようになり、まもなく、照子と俊吉の結婚が決まったという知らせがとどきます。2人は12月に式をあげました
1年後、妹夫婦の家で
- 翌年の秋、信子は夫の出張にあわせて東京へ。ひとりで、郊外の妹夫婦の新居をたずねます
- 出てきたのは、俊吉ひとりでした。照子も女中も、使いに出ていたのです。2人で話していると、昔のようななつかしさがよみがえり、沈黙のたびに、信子は「かすかに何かを待つ心もち」を感じます
- 照子が帰り、3人で夕飯をかこみ、信子は泊まることに。寝る前に俊吉が庭に出て「ちよいと出て御覧。好い月だから。」と声をかけると、信子はひとりその後から庭へおりました
- 月を見上げた俊吉は「十三夜かな。」とつぶやき、2人は鶏小屋をのぞきます。部屋にもどると、照子はひとり、ぼんやりと電灯を見つめていました

メル美何かが起きたわけじゃない。でも、照子はひとりで待っていたんだね…。
「御姉様は何故昨夜も——」
- 翌朝、俊吉は墓参りに出かけます。照子と2人きりになった信子は、「照さんは幸福ね。」と言いました。照子は「御姉様だつて幸福の癖に。」と返し、その言葉が信子を打ちます
- 「さう思つて?」と問い返して、信子はすぐに後悔しました
- やがて泣きだした照子を、信子は「私は照さんさへ幸福なら、何より難有いと思つてゐるの」となぐさめます。すると照子は顔をあげました。その目には、悲しみでも怒りでもなく、「抑へ切れない嫉妬の情」が燃えていました
- 「ぢや御姉様は——御姉様は何故昨夜も——」。照子はそこまで言って、また泣きくずれます
すれちがう幌俥と「秋——」
- 2人はすぐ仲なおりしました。けれど信子は、俊吉の帰りを待たずに家をあとにします。妹とは「永久に他人になつたやうな心もち」でした
- 幌俥の窓から、歩いてくる俊吉が見えます。「俊さん。」——その声が口から出かかりますが、信子はためらい、俥は俊吉とすれちがってしまいました
- 「秋——」。信子は、全身でさびしさを感じながら、そう思わずにはいられませんでした

『秋』の信子は、妹のために身を引いて結婚したと思われていましたが、作品は「彼女の結婚は果して妹の想像通り、全然犠牲的なそれであらうか」と問いかけています。
まとめ
- 『秋』は、芥川龍之介の短編(末尾に「大正九年三月」)
- 同じ従兄・俊吉を好きになった姉妹。姉の信子は、妹の照子のために身を引くように、大阪の会社員と結婚する
- 照子は「御姉様の犠牲」に涙の手紙を書くが、信子自身は、それがほんとうに犠牲だったのかわからない
- 1年後、妹夫婦の家で、月の庭に俊吉と2人で出た翌朝、照子は「御姉様は何故昨夜も——」と泣く
- 帰りの幌俥で俊吉とすれちがい、信子の胸に「秋——」
- 文学の恋は太宰治『葉桜と魔笛』、樋口一葉『十三夜』、夏目漱石『こころ』もどうぞ
参考文献
- 芥川龍之介. 秋(底本:『現代日本文学大系43 芥川龍之介集』筑摩書房). 青空文庫. https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card16.html (閲覧日:2026年10月12日)
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