
プレ男「穴」って、題名がシンプルすぎて逆にこわい…。

メル美夜の庭に、だれかがこっそり穴を掘っている話なの。お化けは出てこないけど、ぞくっとするよ。
今回は、岡本綺堂の短編「穴」です。青空文庫の本文(底本:光文社文庫『蜘蛛の夢』)で読みました。初出は『写真報知』1925年(大正14年)9月です。本文中の「」の言葉は、青空文庫の本文からの引用です。
※この作品には、人が殺される事件と、人が亡くなる場面が出てきます。
高輪の古屋敷
- 語り手のY君が、姉から聞いた話です。明治10年、西南戦争のころ、Y君の家は芝の高輪、泉岳寺の近くにありました
- 父がほとんどただ同然で買った、旧幕臣の与力の古屋敷。もとの主人は維新のとき越後へ脱走し、屋敷を出入りの商人にゆずっていったものでした
- 庭は広すぎて手入れできず、四目垣の外は人の背より高いすすきの荒れ地。狐か狢か、隣の鶏が食い殺され、夏には蛇がぶらさがる。「化物屋敷のような家」でした
穴の底の女
- その年の8月、夜ふけに庭で毎晩がさがさと音がする、と女中たちがこわがります。父は、野良犬だろうと一晩見張ることにしました
- 夜12時すぎ、草むらがざわざわとさわぎ、「きゃっ」という女の悲鳴。父が声のほうへかきわけていくと、足をすべらせて、思いもよらない穴に転げおちました
- 穴の底には、だれかが横たわっていて、またきゃっという女の声。「あなた誰ですか」——女は息をころして、なにも答えません
- 父は泥だらけで這いあがり、明かりを取りにもどります。けれど提灯をさげて引きかえすと、その穴が見つからない。そればかりか、べつの二つめ、三つめの穴に転げおちてしまいました。「畜生。おれは狐にでも化かされているのじゃないかな」

プレ男一晩に3回も落とし穴に!しかも最初の穴には女の人がいたのに、消えてる…。
九つの穴
- 翌朝、靄が晴れるのを待って調べると、最初の穴には父の片方の草履が落ちていて、女の姿はありません
- 空き地には、全部で九か所の穴。2か所は古い穴でしたが、7か所は新しく掘られたもので、上には草をかぶせて、まるで落とし穴のようになっていました
英国公使館の犬と騎兵
- 次の夜、うとうとしていた父は、空き地で犬がけたたましく吠える声と、また女の悲鳴で目をさまします
- 犬は、隣の英国公使館の書記官の飼い犬。父を案内するように走り、すすきの根もとを前足でかいて吠えます。そこの穴から這いあがってきたのは、公使館づきの騎兵、ハドソンでした
- 「こちらの藪のなかに人が隠れておりました。その人は穴を掘っております。わたくし取押えようとしますと、その人逃げました。わたくし穴に落ちました」
安達の奥さん
- それからは、穴を掘る者はあらわれなくなりました
- 父は、屋敷をゆずった米屋をたずねます。もとの主人は旧幕臣の安達という武士で、越後口で討ち死にしたという。そして1か月ほど前、その奥さんがふらりとたずねてきて、いまだれが住んでいるかを聞いて帰った。芝の片門前にいるらしい、と
- 父は思います。空き地の女は安達の奥さんで、脱走のときに埋めた何かを、ひそかに掘りだそうとしているのではないか。正面から言ってくれれば、喜んで掘らせてやるのに——

メル美元の持ち主の奥さんが、昔埋めた宝物をさがしにきていた…?
新聞の記事
- 9月のはじめ、新聞に片門前の女殺しの記事が出ます。古道具屋の森川権七が、女房のおいねを殺した、と
- 記事によれば、おいねは安達源五郎の妻。夫が越後へ脱走するとき、中間の権七が供をして、おいねと娘を上総の親戚のもとへ逃がした。夫の戦死のうわさのあと、主従の関係はいつか夫婦の関係に変わり、二人は娘をおいて駆け落ちし、東京で古道具屋を開いていた
- 権七は若い矢取り女になじみ、夫婦げんかが絶えず、その夜、店の手斧でおいねを殺して姿をくらましたのです
崖くずれ
- 9月の末、大あらしの夜があけると、屋敷の西側の高い崖がくずれていました。土を片づけると、その下から男の死体があらわれます。手には鍬。男は、女房殺しの森川権七でした
- 父は、母にささやきます。「やっぱりわたしの想像があたっていたらしい」。穴を掘りにきていたのは権七とおいねで、権七は女房を殺したあとも、埋められたものに未練をのこし、あらしの夜に崖の下を掘っていたのだろう
- けれど、二人は求めるものを掘りだせなかったらしい。それが何だったのかは、わからない。明治10年からおよそ50年、あたりは一面の家並みになり、「権七夫婦が求めていた掘出し物も、結局この世にあらわれずに終るらしい」と物語は結ばれます

「穴」の父は、空き地に掘られた穴は、元の主人の家族が埋めたものを掘りだそうとしたのだろうと考えます。けれど、何が埋められていたのかは、最後までわかりません。
まとめ
- 「穴」は岡本綺堂の短編。初出は『写真報知』1925年9月
- 明治10年、芝高輪の旧幕臣の古屋敷。夜ふけの草むらの穴の底に、女
- 空き地には九つの穴。草をかぶせた落とし穴のよう
- 隣の英国公使館の犬と騎兵ハドソン。穴を掘る人影
- 元の持ち主の妻おいねと、中間だった権七。新聞の女殺しの記事、あらしの夜の崖くずれ
- 何が埋められていたのかは、だれにもわからない
- 綺堂の兜、河鹿、鐘ヶ淵もどうぞ
参考文献
- 岡本綺堂. 穴(底本:『蜘蛛の夢』光文社文庫、光文社). 青空文庫. https://www.aozora.gr.jp/cards/000082/card45500.html (閲覧日:2026年10月12日)
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