幽々奇譚A Nocturnal Field Guide

Vol. I — Nocturne夜の博物誌

都市伝説、心霊スポット、怪談、妖怪。
語り継がれてきた不思議を、原典と一次資料で読みなおす。

200篇の記録

目録へ

都市伝説にマジレス

Urban Legends

よく聞くあの話を、論文と公的機関の資料で確かめる。

57篇

  1. No.107「5Gの電波で新型コロナが広がる」説WHOの答えは「ウイルスは電波に乗って移動できない。5Gのない国でも広がっている」。5Gの電波と健康について、WHOが書いていること
  2. No.108アメリカ政府は宇宙人の円盤をかくしている?米国防総省の調査室AAROが1945年以降の記録を調べた答えは「宇宙人の技術だと確認された目撃は1件もない」。「宇宙船のかけら」はマグネシウムと亜鉛の合金だった
  3. No.111「人の体は7年で全部入れ替わる」は本当?核実験の炭素で細胞の「誕生日」を測ったら、大脳の一部の神経細胞は本人と同い年。心臓の筋肉の細胞も、一生で入れ替わるのは半分未満
  4. No.113火星の「人面岩」は宇宙人が作った?1976年の写真は解像度が低く、目や鼻は「影」と「データの欠け」。1998年と2001年にNASAが撮り直すと、ただの丘だった
  5. No.114「13日の金曜日」は事故や病気が増える?1993年の英国の研究は「交通事故の入院が52%増」、でもフィンランドの全国データでは差なし。救急外来の約5万件、手術の約2万人の調査でも、ふつうの金曜日と変わらなかった
  6. No.116HAARP(ハープ)で地震や天気をあやつれる?運営するアラスカ大学の答えは「天気を作る層に電波はとどかない」。上空60〜80kmより上の電離圏を調べる、秘密ではない研究施設
  7. No.119フーバーダムのコンクリートには、作業員が埋まっている?管理する米国開拓局の答えは「ゼロ。だれも埋まっていない」。コンクリートは1回に5〜15cmずつしか上がらず、何人もの作業員が見守っていた。工事で亡くなった人の「公式」の数は96人
  8. No.122こっくりさんは狐や狸が動かしている?明治20年(1887年)、井上円了は全国から報告を集め、自分でも試して答えた。正体は「予期意向」と「不覚筋動」——思ったとおりに、知らないうちに手が動く。1853年にはファラデーも、西洋の「テーブル・ターニング」を実験で確かめていた
  9. No.124CERNの加速器LHCがブラックホールを作って地球が飲みこまれる?答えは「宇宙線が約45億年、地球の上で同じ実験を約10万回くり返してきた。地球はまだある」
  10. No.125「マンデラ効果」はパラレルワールドの証拠?名前のもとは「マンデラは1980年代に獄中で死んだ」という記憶。実際は1990年に釈放され、2013年に亡くなった。シカゴ大学の実験では、たくさんの人が「同じまちがい」を覚えていた
  11. No.128うま味調味料(MSG)は体に悪い?「中華料理店症候群」は1968年の医学雑誌への1通の手紙から。米国FDAは「一般に安全と認められる」、130人の二重盲検では、食事と一緒だと症状は出なかった
  12. No.134ツタンカーメンの「ファラオの呪い」は本当?墓の開封に立ち会った25人の亡くなった年齢は平均70歳、立ち会わなかった人は75歳で、差はなし。医学雑誌BMJの調査
  13. No.135雪男(イエティ)の正体は?「イエティの毛」などをDNAで調べたら、ヒグマ・ツキノワグマ、そして犬。ビッグフットの毛からは、アライグマ、牛、馬、人間も
  14. No.159アトランティス大陸は実在した?出どころはプラトンの対話篇『ティマイオス』と『クリティアス』だけ。話の中の話の中の話——エジプトの神官がソロンに語った「9000年前、一昼夜で海に沈んだ島」。しかも『クリティアス』は、ゼウスが話しはじめたところで終わっている
  15. No.160「犬の1歳は人間の7歳」は本当?ラブラドール・レトリバーのDNAの「年輪」を人とくらべたら、7倍のまっすぐな比例ではなかった。1歳はもう人の30歳ほど、そのあとはゆっくり進む
  16. No.161「金魚の記憶は3秒」は本当?エサが出るのは1日1時間だけ、と4週間覚えさせた実験では、金魚はエサの時間を見こして動いた。3日後のテストでも、覚えたことを思い出していた
  17. No.163レミングは集団で海に飛びこんで自殺する?アラスカ州魚類狩猟局の答えは「完全な都市伝説」。1958年のディズニー映画『白い荒野』の場面は、撮影する人たちが崖から落としていた——と1983年のカナダの放送局の調査
  18. No.164モアイは宇宙人が運んだ?考古学者の答えは「ロープで左右にゆらして『歩かせた』」。4.35トンの複製を18人で、100メートルを40分。石切り場の3D地図には、作りかけのモアイが426体、作業場が30か所
  19. No.165「モーツァルトを聞くと頭がよくなる」は本当?1993年の論文は「10分聞いた大学生の空間の課題の点が上がった」というもので、効果は10〜15分。16の研究をまとめると、差はIQにして1.4ポイント。言い出した研究者も「知能が上がるとは言っていない」
  20. No.167映画の途中に「コーラを飲め」を一瞬映したら、売上が上がった?1957年のサブリミナル広告の「実験」は、本人があとでデータのねつ造を認めた。その後の研究では、効果は「のどがかわいている人」などに小さく出るだけ
  21. No.168「舌の先は甘味、奥は苦味」の味覚地図は本当?もとは1901年のドイツの論文。差は「小さい」のに、1942年の教科書のグラフで「その場所でしか感じない」ように広まった。いまは「5つの味は舌のどこでも感じる」
  22. No.191「コウモリは目が見えない」は本当?米国地質調査所(USGS)の答えは「いいえ、見えます」。暗いところでよく見える目をもち、花の蜜を吸うコウモリの目には、人には見えない紫外線を感じる細胞もあった
  23. No.192カメレオンは周りの色に合わせて体の色を変える?アフリカ南部の21系統の小型カメレオンを調べたら、色を大きく変える種ほど「目立つ」合図を出していた。しくみは色素ではなく、皮膚の中のナノの結晶の「すき間」
  24. No.193「死んだあとも髪と爪は伸びる」は本当?答えはNO。伸びたように見えるのは、体が乾いて皮膚が縮むから。法医人類学者は「まったくのたわごと」——医学雑誌BMJの「医学の神話」の論文で読む
  25. No.194「病院でスマホを使うと医療機器が止まる」は本当?電波環境協議会の2014年の指針は「待合室や病室では使える」。実験で診療に影響が出た最大の距離は18cm、目安は「医療機器から1m程度」。手術室・ICUでは電源オフ
  26. No.199「サメはがんにならない。だからサメの軟骨はがんに効く」?米国国立がん研究所の答えは「サメにもがんは見つかっている」。進行がんの患者さんでくらべた2つの臨床試験では、サメ軟骨の製品で生存期間はのびなかった
  27. No.200「甘いものを食べると子どもが興奮して暴れる」は本当?23の研究をまとめた1995年の分析では、行動にも勉強の成績にも差なし。「砂糖を飲ませた」と聞かされた母親だけが、子どもを「落ち着きがない」と感じていた
  28. No.071「万里の長城は宇宙から見える唯一の人工物」にマジレスNASAは「宇宙生まれの神話」と書いている。月からは見えず、地球の周回軌道からも肉眼ではほぼ見えない。中国の宇宙飛行士も「見えなかった」。では、宇宙から見える人工物は?
  29. No.066ノストラダムスの「1999年7の月」原文に「人類滅亡」とは書いていない。1672年の英訳者は、この詩を「フランス王フランソワ1世」の話だと読んでいた。そして1999年は、ふつうにすぎていった
  30. No.052オーパーツにマジレス水晶どくろアステカの秘宝?宇宙から来た?顕微鏡で調べたら、大英博物館とスミソニアンのどくろには、昔の道具では作れない「回転する刃」のあとがあった
  31. No.0362012年12月21日に人類滅亡?マヤ暦は「終わり」ではなく「次の周期のはじまり」。惑星ニビルもなかった——NASAの科学者の答え
  32. No.037フィラデルフィア実験1943年、米海軍の軍艦が消えてワープした?海軍の答えは「記録はない。その時期、その船はフィラデルフィアにいなかった」
  33. No.022「魂の重さは21グラム」は本当?1907年の実験を原論文で読むと、21グラムだったのは6人中1人だけ。医師本人も「たくさんの実験が必要」と書いていた
  34. No.024エリア51に宇宙人はいる?CIAの答えは「いない。でも1950〜60年代のUFO目撃の半分以上は、うちの偵察機だった」。高度約1万8千mを飛ぶ銀色のU-2
  35. No.026金縛りは霊のしわざ?正体は「睡眠麻痺」。一生に一度は経験する人が一般の7.6%、学生では28.3%。体は眠っていて、脳だけ起きている状態
  36. No.028「雷は同じ場所に2度落ちない」はウソエンパイア・ステート・ビルには年平均23回。金属は雷を呼ばない、雷に打たれた人にさわっても感電しない——米国気象局と気象庁の答え
  37. No.002バミューダトライアングルで船や飛行機が消える?米国海洋大気庁「ほかの海より多いという証拠はない」
  38. No.003血液型で性格はわかる?日本とアメリカの1万人以上を調べたら、68項目中65項目で差なし。血液型が説明できるのは性格の0.3%未満
  39. No.004「人間は脳の10%しか使っていない」は本当?先生の約半分も信じていたけれど、脳はほぼ全部使われている
  40. No.005飛行機雲は「ケムトレイル」?専門家77人に聞いたら、76人が「証拠は見たことがない」
  41. No.006「地震雲が出たから大地震が来る」?気象庁は「雲は大気、地震は大地の現象。科学的な説明はされていない」。日時と場所を特定した地震予知は「デマ」
  42. No.007「早食いは太る」は本当?日本の調査で、食べるのが速い人ほどBMIが高い傾向。「お腹いっぱい食べる」も重なるとさらに。ただし、ゆっくり食べてやせるかの研究はまだ少ない
  43. No.008地球は平らだった?2,200年以上前、棒1本の影で地球の大きさを測った人がいる
  44. No.009満月の夜はお産が増える?56万件の出産を調べたら、月の満ち欠けとの関係はなかった
  45. No.010「二日酔いの原因はアセトアルデヒド」は本当?二日酔いの朝、血中からはほとんど検出されない。実はまだよくわかっていない二日酔いのしくみ
  46. No.011「水素水で活性酸素を消して健康に」?国民生活センターは「水素水に公的な定義はない」。フタを開けると水素は24時間で1割ほどに。消費者庁は「がん予防」などの表示に措置命令
  47. No.012「指をポキポキ鳴らすと関節炎になる」は本当?研究では関節炎との関係は見つかっていない。左手だけ60年鳴らし続けた医師も
  48. No.013ネッシーはいる?有名な写真はおもちゃの潜水艦だった。湖の水250本のDNAを調べたら、見つかったのは「ウナギ」
  49. No.014アポロの月面着陸はねつ造?月には今も「鏡」が置いてあって、毎日レーザーが当てられている
  50. No.015ピラミッドは宇宙人が作った?4,500年前の「現場監督の日誌」が見つかっていた
  51. No.016「爬虫類型の宇宙人が人間に化けて世界を支配している」説アメリカ人の4%が信じる?出どころと、なぜ信じたくなるのか
  52. No.017ロズウェル事件1947年、UFOは本当に墜落した?米空軍と米議会の調査がたどりついた「気球」の正体
  53. No.018「毛は剃ると濃くなる」は本当?答えはNO。太さも色も伸びる速さも変わらない。濃く見えるのは「切り口」のせい
  54. No.019「たばこはストレス解消になる」は本当?吸ってホッとするのは、ニコチン切れのイライラがおさまるだけ。禁煙に成功すると、ストレスは下がる
  55. No.020「ワクチンで自閉症になる」説もとの論文は撤回済み。デンマークの65万人調査でも、横浜の調査でも関係は見られなかった
  56. No.021ワクチンにマイクロチップ?アメリカ人の28%が信じた「ビル・ゲイツ追跡計画」説の出どころ
  57. No.001「人類第7世代」とは?ネットの都市伝説「ラケルタファイル」と、ネイティブアメリカンの「7世代先を考える」教えは、まったくの別物

心霊スポット

Haunted Places

場所の歴史を一次資料から。「出る」とは言いません。

19篇

  1. No.109「心霊スポット」と呼ばれることもある京都・化野念仏寺平安時代から葬送の地だった「あだし野」。山野に散らばっていた約8000体の石仏・石塔を、明治中期に地元の人たちが集めた「西院の河原」。8月の千灯供養は、無縁仏にろうそくを灯す行事
  2. No.110「心霊スポット」と呼ばれることもある青山霊園明治7年(1874年)9月1日に開園した都立霊園。港区は「日本で最初の公共墓地」と紹介。大久保利通の墓、忠犬ハチ公の碑も。ここは今も、家族がお参りに来る場所
  3. No.112「心霊スポット」と呼ばれることもある八王子の道了堂跡生糸で富を得た鑓水の商人が、絹の道の峠に建てたお堂のあと。いまは大塚山公園。八王子市は「夜間は非常に暗くなる」と注意
  4. No.118「1枚、2枚…」の皿屋敷、姫路城の「お菊井戸」じつは江戸時代の本では「釣瓶取井戸」。お菊井戸と呼ばれるようになったのは、大正のはじめに城が一般公開されたころから?兵庫県立歴史博物館の解説で読む播州皿屋敷
  5. No.127「心霊スポット」と呼ばれることもある京都・深泥池じつは1927年からの国の天然記念物。氷河期の生き残りの植物や虫がくらす、浮島のある高層湿原。こわい話より、1万年の自然の歴史を
  6. No.129「四谷怪談」のお岩さんをまつる於岩稲荷田宮神社もとは四谷左門町の田宮家の屋敷神。明治12年の火災で新川(いまの中央区)へ移り、戦後に四谷の旧地にも再建。中央区は「婿養子とともに家を再興したお岩の徳」をたたえる稲荷社と紹介
  7. No.133「心霊スポット」と呼ばれることもある鎌倉の「腹切りやぐら」元弘3年(1333年)5月22日、北条高時が一族郎党870余人とともに自害し、鎌倉幕府が終わった東勝寺の跡。発掘で北条氏の家紋「三鱗文」の瓦が出た、国の史跡
  8. No.162「心霊スポット」と呼ばれることもある京都・一条戻橋平安京の一条大路が堀川をわたる橋。死んだ父が一時もどってきた伝説から「戻橋」に。晴明神社によると、安倍晴明は式神を橋の下に封じ、いまも嫁入りや葬式の列はこの橋をわたらない
  9. No.166「あの世の入口」と呼ばれる京都・六道珍皇寺平安京の東の葬送の地「鳥辺野」への道すじ。この世とあの世の分かれ道「六道の辻」。昼は朝廷、夜は閻魔庁につとめたという小野篁の「冥土通いの井戸」。お盆の「六道まいり」はご先祖の霊を迎える行事
  10. No.169「入ったら出られない」と言われる千葉・市川の「八幡の藪知らず」市役所の向かいにある小さな竹藪。江戸時代の地誌には、平将門の家来が土の人形になった話、日本武尊の陣の跡という話、そして「森の土地だけが隣の行徳の持ち分だった」という話が並んでいた
  11. No.170「心霊スポット」と言われることもある埼玉・吉見百穴斜面にならぶ219の穴は、古墳時代の末(6世紀末〜7世紀後半)のお墓。明治20年に調べた坪井正五郎は「人が住んだ穴」と考え、学会誌で反論とやりあった。穴の中には、国の天然記念物のヒカリゴケ
  12. No.195「数えるたびに数が変わる」と言われる日光・憾満ヶ淵の「化け地蔵」大谷川の岸にならぶ約70体の地蔵。天海の弟子たちが寄進したと伝わる「並び地蔵」は、1902年の大洪水で多くが流された。名前の「かんまん」は、不動明王の真言の最後の句から
  13. No.196「死んだらお山に登る」と言われる青森・恐山貞観4年(862年)に円仁が開いたと伝わる霊場。宇曽利山湖のほとりの噴気と温泉は、気象庁が見守る活火山・恐山のしるし。イタコの口寄せが大祭に来るようになったのは、大正以降、とくに戦後
  14. No.197芥川の『羅生門』の舞台、京都・羅城門跡平安京の正門は幅約35m、高さ約21mの二重の楼閣。980年の暴風でたおれ、二度と建たなかった。いまは児童公園の中に、明治28年の石標が1本。門の上の毘沙門天は、東寺で国宝として残る
  15. No.198「九尾の狐」が化けた石、那須の殺生石2022年3月、しめ縄の巻かれた石が真っ二つに。那須町観光協会は「慰霊祭並びに平和祈願祭」をひらいた。「殺生」の正体は、いまも噴き出す火山ガス。芭蕉は「蜂や蝶が砂の色も見えないほど重なって死んでいる」と書いた
  16. No.042「心霊スポット」と呼ばれる小塚原刑場跡鈴ヶ森とならぶ江戸の刑場。4メートル近い「首切地蔵」、吉田松陰の墓、そして杉田玄白が『解体新書』を決意した「腑分け」の場所
  17. No.043「心霊スポット」と呼ばれる鈴ヶ森刑場跡1651年から1871年まで、東海道ぞいにあった江戸の刑場。八百屋お七もここで。いまは供養のお寺・大経寺の境内で、東京都の史蹟
  18. No.025「東京最恐の心霊スポット」と呼ばれる八王子城跡1590年、豊臣軍に1日で攻め落とされた北条氏の山城。じつは国の史跡で、日本100名城。夜ではなく、昼に歴史を歩こう
  19. No.029東京いちばんの「祟り」伝説、大手町の将門塚平将門の首が飛んできた?戦後のブルドーザーの事故の話も。今はビル街の中で地元の企業が守る、東京都指定旧跡

怪談

Ghost Stories

語り継がれた怪談を、原典で読む。

86篇

  1. No.115田中貢太郎「蟇の血」雨あがりの山の手の夜道。「電車の方へは、こう行ったらよろしゅうございましょうか」と声をかけてきた若い女を、送っていった先の古い屋敷。ガラス窓の向こうで老婆がにぎっていたのは、生きた疣だらけの蟇だった
  2. No.117田中貢太郎「八人みさきの話」土佐の少年たちがこわがった「七人御先」。そのはじまりは、長宗我部元親に死を命じられた吉良親実ら八人の怨霊だった。夜の仁淀川で、姿の見えない客を乗せた渡し守——「これは、蓮池左京殿でござるぞ」
  3. No.120岡本綺堂「百物語」雨の秋の夜、城の若侍たちは「化け物が出るか出ないか試してみよう」と百物語をはじめた。83番目、灯心を消しに行った帰りの暗い座敷の壁ぎわに、白い女の姿。だれも口にしないまま、100の話は終わった
  4. No.121田中貢太郎「竈の中の顔」箱根の湯治場で、毎日碁を打ちにくる痩せた旅の僧。山の上の庵をたずねると、茶釜をかけた竈の下から、蒼ざめた人の顔がすうと出てきた。宿の主人は声をふるわせた——「それを人に話すと、生命がありません」
  5. No.123岡本綺堂「こま犬」讃岐の村はずれ、戦国の城あとに残る「明神跡」。夜9時をすぎると、土の底からむせび泣くような声がする。「もし石が啼くとすれば、あの石らしい」——そう言った男が、その石に腰かけたまま冷たくなっていた
  6. No.126泉鏡花「眉かくしの霊」雪の木曽・奈良井宿の古い旅籠。だれもいないはずの湯殿で湯の音がして、白粉の香り。「入りますよ」「いけません」——離れ座敷の姿見の前で、懐紙で両方の眉をかくした美しい女がふりむいた。「……似合いますか」
  7. No.130岡本綺堂「西瓜」風呂敷をあけると、西瓜が女の生首に——そしてまた西瓜に。旧家の土蔵から出てきた200年前の写本の怪事を、友人は「群衆妄覚」と笑いとばした。西瓜を食うと祟られるという、その家の言い伝えも
  8. No.131岡本綺堂「水鬼」九州の尾花川に浮かぶ、薄白と薄むらさきの「幽霊藻」。若い女の肌にふれると祟るという。夏休みに帰省した学生が、闇の田舎道で道連れになった芸妓は、静かに言った。「わたくしはこれから警察へ行くんですよ」
  9. No.132岡本綺堂「停車場の少女」湯河原からひとり帰る国府津の駅。改札口の人ごみで、耳もとにささやく声——「継子さんは死にましたよ」。ふりかえると、左の眼に白い曇りのある15、6の娘。今朝別れたばかりの親友に、何が起きたのか
  10. No.136泉鏡花「夜釣」殺生をきらう女房にかくれて、鰻釣りの名人・岩さんは生暖かい風の夜に出かけたきり、帰らなかった。「父さんは帰らないけれどね、鰻が居るんだよ」——台所の手桶に、子どもたちが沢庵石で蓋をしたものは
  11. No.147幸田露伴「幻談」江戸の海で、夕暮れの水の中からひょいひょいと出ては引っこむ細い棒。船頭が手につかむと、それは見事な釣竿で、その根もとを握っていたのは——「ヤ、お客さんじゃねえか」
  12. No.148小泉八雲の怪談「死骸にのる男(THE CORPSE-RIDER)」離縁された悲しみと怒りで亡くなった女は、葬られないまま、夫の帰りを待っていた。陰陽師の命令は「遺体に馬のようにまたがり、髪を手綱のように握れ。朝まで、決して放すな」
  13. No.149小泉八雲の「振袖(FURISODÉ)」お祭りで見かけた美しい若侍に恋をして、同じ柄の振袖を仕立てた娘。娘が亡くなったあと、その振袖を買った娘たちも、次々に——江戸を焼きつくした「振袖火事」の言い伝え
  14. No.150小泉八雲の怪談「因果ばなし(INGWA-BANASHI)」死の床の大名の奥方は、若い側室のユキコに「庭の八重桜が見たい、背負って」とたのんだ。背中にすがった両手は、そのまま離れなくなった——17年以上つづいた、丑の刻の苦しみ
  15. No.151小泉八雲の「衝立の乙女(THE SCREEN-MAIDEN)」京の若い学者が古道具屋で買った一枚の衝立。そこに描かれた15、6の娘に恋をして、病の床に。老学者の教えは「名前をつけて、返事をするまで呼びつづけよ。返事をしたら、百軒の酒屋の酒を」
  16. No.152幸田露伴「観画談」病気の療養に奥州の山寺へ来た苦学生。大雨の夜、谷川があふれて連れていかれた小山の庵には、耳の聞こえない老僧と、壁いっぱいの古い絵。洋燈の光で絵の中の小舟の船頭を見つめていると、「乗らないか」と手招きされた
  17. No.171小川未明「赤い蝋燭と人魚」北の青い海の人魚は、生まれる子を人間の町で育ててほしいと、お宮の石段の下に産みおとした。蝋燭屋の老夫婦に育てられた娘が、白い蝋燭に赤い絵の具で描いた魚や貝——そして、最後の夜にすべて赤くぬった蝋燭
  18. No.172岡本綺堂「笛塚」天保のはじめ、月の河原。笛の名手の若侍が、芒のかげの乞食小屋から聞こえる笛の音にひきよせられた。「拙者はこの笛に祟られているのでござる」——持ち主から持ち主へ、禍いを運んだ一管の名笛
  19. No.173小泉八雲の「弁天の同情(THE SYMPATHY OF BENTEN)」京の尼寺の弁天堂の前で、風に吹かれて足もとに落ちた一枚の短冊。少女の筆の歌に恋をした若い学者が、七日参りの最後の夜に会ったのは——同じ人なのに、同じ人ではない花嫁
  20. No.174小泉八雲の怪談「イトウ・ノリスケの話(THE STORY OF ITŌ NORISUKÉ)」:秋の夕暮れ、宇治の山道で出会った11、2の少女。案内された木立ちの奥の古い屋敷には、琴の音と、月の光のような姫君。花嫁の父の名を聞いたとき、若侍の血は凍った——数百年前に亡くなった平家の武将だった
  21. No.175小泉八雲の「鏡の少女(THE MIRROR MAIDEN)」日照りの京で、ひとつだけ涸れない古井戸。水面にうつった19、20の娘が、紅をさしながらふりむいてほほえんだ。嵐の三晩目、丑の刻に戸をたたいた声——「弥生でございます」
  22. No.176小泉八雲の怪談「和解(THE RECONCILIATION)」出世のために妻を離縁して京を去った若い侍。何年もたって、悔いて帰った月夜の荒れ家で、妻は昔のままの姿で灯りの下に座っていた。夜明けまで語りあかして、目をさますと——
  23. No.177岡本綺堂「くろん坊」幕末の美濃の山奥、谷のそばの一軒家。若い僧が夜ふけに出ていったあと、闇の中から聞こえてきたのは、乾いた物が打ちあうような「からから」という笑い声——谷の木の枝にかかった、ひとつの髑髏の因縁話
  24. No.178岡本綺堂「猿の眼」明治のはじめ、上野広小路の夜店で、落ちぶれた士族から買った木彫りの猿の面。見つかったとき、その両眼は白い布で目かくしされていた。隅田川ぞいの離れに泊まった客の夜、柱の面の眼が青い火のように光る
  25. No.179田中貢太郎「立山の亡者宿」先月死んだ女房に、もう一度だけ逢いたい。江戸の消火夫・小八が三両あまりをこしらえてたずねた、越中立山のふもとの宿。「亡者が通っても、決して詞をかけてはなりません」——夜明けの谷に、白装束の背の高い女があらわれた
  26. No.180岡本綺堂「利根の渡」享保のはじめ、利根川の房川の渡し。浅黄の頭巾をかぶった座頭は、雨の日も風の日も岸に立ち、乗り降りの旅人にたずねつづけた——「もし、このなかに野村彦右衛門というお人はおいでなされぬか」
  27. No.067岡本綺堂「穴」明治10年、芝高輪の荒れた古屋敷。夜ふけの草むらで、父が転げおちた穴の底には、ひとりの女が息をひそめていた。空き地に掘られた九つの穴——だれが、なんのために?
  28. No.068岡本綺堂「麻畑の一夜」南洋の小さな島の麻畑で、夜のうちに人が消える。骨も血のあとも残らず、七、八人で寝ていても、だれも気づかない。雷雨の夜、ひとりの青年が麻畑を抜けて河のほうへ——見えないものの正体は
  29. No.069田中貢太郎「義猫の塚」嵐の海で板切れにしがみついていた子猫を、和尚は自分で舟を出してまで助けた。10年後、縁側の猫たちが話していた——「近いうちに、うちの和尚さんの身に、変ったことがありそうだから」
  30. No.070岡本綺堂「五色蟹」伊豆の温泉場で見つけた、紅・むらさき・青に光る小さな蟹。マッチ箱から逃げだした蟹は、隣の座敷の女学生たちのところへ。午前2時の湯船に浮かぶ女の首——地元の漁師は言った。「およしなさい。祟りがある」
  31. No.072岡本綺堂「白髪鬼」弁護士試験の答案を書こうとすると、机の前に「髪の白い女」があらわれる。まっ昼間、ほかの受験者には見えない。4回つづけて落ちた先輩が、下宿の二階で打ちあけた秘密と、その後に起きたこと
  32. No.073田中貢太郎「岩魚の怪」毒流しで魚をとろうとする村の男たちの前に、白い法衣の僧があらわれて「殺生はやめるが好い」。黍団子をひと息にのみくだし、谷川に口をひたして水を飲んだ僧。その夜、さばいた大岩魚の腹から出てきたものは
  33. No.074岡本綺堂「兜」関東大震災で家財をすべて焼かれた一家に、ひとつだけもどってきた古い兜。届けにきたのは、左の眼の下に小さい痣のある女——幕末の辻斬りから彰義隊の落武者まで、60年にわたって人の手をめぐった兜の因縁話
  34. No.075岡本綺堂の一幕劇『影』十三夜の晩、石橋山の古戦場に近い炭焼小屋に立ち寄った、人柄のよさそうな東京の旅人。人なつっこい7歳の子は「怖いよう」と父にしがみつき、熱海の芸者は、ランプの消えた暗がりで見た旅人の「影」にぞっとする
  35. No.076岡本綺堂「影を踏まれた女」十三夜の前の晩、「影や道陸神」の子どもたちに影を踏まれた17歳の娘・おせき。それから月も日の光もこわがるようになり、1年後、行者の蝋燭の火で壁にうつった娘の影は——江戸の怪談
  36. No.077小泉八雲『怪談』の「蓬莱(HŌRAI)」床の間にかけた「蜃気楼」の掛け軸に見えるのは、死も痛みも冬もない仙人の島・蓬莱。中国の書物の言い伝えは本当ではないけれど、蓬莱には「いちばん不思議なもの」がある、と八雲は書く
  37. No.078小泉八雲の怪談「耳無芳一の話」琵琶の名手・芳一のもとに、夜ふけに甲冑の侍が迎えにくる。「壇ノ浦の戦の話をお語りなされ」——連れていかれたのは、平家の墓のあいだだった。全身に経文を書かれた夜、ただひとつ書きわすれられたもの
  38. No.079岡本綺堂「河鹿」梅雨の箱根、谷底の湯宿。真夜中、明かりの消えた隣の座敷から聞こえてきたのは「パパア」「ママア」という悲しい声。床の間に飾られていたのは、亡くなった9歳の娘が待ちわびていた人形だった
  39. No.080岡本綺堂「鐘ヶ淵」八代将軍吉宗の命で、隅田川の淵の底に沈むという鐘をさぐった水練の名手3人。「何も見あたりませぬ」「鐘が沈んでおります」——その夜、ふたたび淵にもぐった2人は、組みあったまま浮かんでいた
  40. No.081田中貢太郎「累物語」承応2年、下総の羽生村。婿養子の与右衛門は、妻の累を絹川に突き落として殺した。迎える後妻はつぎつぎに病死し、20年後、娘お菊の口から語りだしたのは——「わしはお菊じゃない、わしは累じゃ」
  41. No.082岡本綺堂「木曽の旅人」御嶽山のふもとの杣小屋。すしと酒をふるまう愛想のいい若い旅人に、6つの子はふるえ、利口な黒犬は狂ったように吠えた。大人には何も見えなかった——その夜、森で鳴った銃声
  42. No.083田中貢太郎「狐と狸」千年を生きた狐と狸が、少年の書生に化けて、物知りで知られる張華に議論をいどむ。「やめてくれ」と止めた墓の鳥居の神。猟犬を見ても平気な二人の正体をあばいたのは、千年の神木の火だった
  43. No.084田中貢太郎「おいてけ堀」本所七不思議のひとつ。鮒がたくさん釣れる池で、帰ろうとすると「おいてけ、おいてけ」と声がする。「狸か、狐か、口惜けりゃ出て来やがれ」と笑いとばした釣り好きの若者・金太が、逃げこんだ茶店で見たもの
  44. No.085田中貢太郎の短い怪談2編夜の田んぼ道で鬼火を追いかけた武士。火玉は一軒の農家の小窓へ——「お武家さんが見つけて、斬りに来たから」(鬼火を追う武士)。亡くなった母親が子どもの枕もとへ来ようとして、裾にふれた炭取りがぐるりと動いた(炭取り)
  45. No.086田中貢太郎「狼の怪」山で日が暮れた若い猟師の喉元を、だれかがなめた。つかんだ手は、青い衣の若い女。乳母と二人きりで谷陰に暮らす無邪気な娘と、いっしょに住むことになった猟師が、狼を退治しようと毒をしかけた道で見たもの
  46. No.087岡本綺堂「離魂病」江戸の御家人・西岡が町で3度見かけた、16歳の妹にうり二つの娘。妹はずっと家にいたはずなのに——盂蘭盆の夜、その娘が門の前を通りすぎたとき、妹は窓辺で冷たくなっていた。「自分で自分の姿を見るときは死ぬ」
  47. No.088岡本綺堂の戯曲『青蛙神』十五夜の晩、3年前の旅の男が預けた箱から跳びだしたのは、三本足の青い蝦蟆。「どんな願いでも屹と成就する」——貧しい農夫が祈った「八千両」は、思いもよらない形でとどけられた
  48. No.089田中貢太郎「死人の手」日の暮れた峠の一軒家。「女房が死んだから、留守居をしておくれ」と主人は出かけていった。屏風のかげの亡骸から、蒼白い痩せた手がすうっと出て、枕団子をつかむ——そして縁の下からは、毛むくじゃらの手が
  49. No.091遠野物語の神隠し梨の木の下に草履をぬいだまま消えた娘が、30年あまりのち、老いさらぼえて帰ってきた——「人々に逢いたかりし故帰りしなり」。風のさわがしい日には「きょうはサムトの婆が帰って来そうな日」(8話)。白望の山の不思議、淵の底の機織りまで、柳田國男『遠野物語』を原文で読む
  50. No.093遠野物語の幽霊亡くなった曾祖母が通夜の炉ばたを通ると、裾にふれた丸い炭取がくるくるとまわった(22話)。大津波で亡くした妻と、霧の渚で再会した夫(99話)——柳田國男『遠野物語』を原文で読む
  51. No.094岡本綺堂「月の夜がたり」貸家の三畳に、横向きに坐る婆さん。二十六夜待ちの人ごみの、行く先々にその婆さんが立っている(二十六夜)。八月十五夜の明月の晩にだけ、梯子の下にぼんやり立つ人の姿(十五夜)——月の夜の三つの怪談
  52. No.095『雨月物語』の「青頭巾」愛した童子を亡くし、悲しみのあまり鬼になった山寺の住職。旅の禅僧・快庵は、鬼の前で一晩を過ごし、自分の青い頭巾をかぶせて二句の禅の言葉をあたえた。1年後、草むらの中から聞こえてきたのは——上田秋成の怪談
  53. No.096『雨月物語』の「浅茅が宿」戦乱の世、「秋には帰る」と都へ出た夫を、妻は荒れはてた家で7年待った。ようやく帰った夜、やつれた妻と再会して眠った夫が、朝目をさますと——上田秋成の怪談
  54. No.097『雨月物語』の「仏法僧」高野山の奥の院で一夜を明かす父と子。「ブッパン、ブッパン」と鳴く霊鳥の声のあと、真夜中にあらわれたのは、関白・豊臣秀次とその家臣たちの酒宴だった——上田秋成の怪談
  55. No.098『雨月物語』の「貧福論」金をためるのが何より好きな武士・岡左内の枕もとに、夜ふけ、小さな老人があらわれた。「私は、ふだんあなたが大事になさる黄金の精霊です」——お金と幸せをめぐる一夜の問答。上田秋成
  56. No.099『雨月物語』の「蛇性の婬」雨やどりで傘を貸した美しい未亡人・真女児。もらった太刀は神社から盗まれた宝物だった。どこまでも追ってくる彼女の正体は、年を経た白い大蛇——最後は道成寺の「蛇が塚」へ。上田秋成の怪談
  57. No.100『雨月物語』の「吉備津の釜」婚礼の前の占いで、吉備津神社の釜は鳴らなかった。夫にだまされ捨てられた妻・磯良は怨霊となり、42日間のお札の物忌み。最後の夜、「夜が明けた」と思って戸をあけた夫は——上田秋成の怪談
  58. No.101『雨月物語』の「菊花の約」「九月九日、重陽の節句に帰る」——病から救ってくれた学者と義兄弟の約束をした武士は、城に閉じこめられ、約束の日の夜、亡霊になってやってきた。「魂は一日に千里を行く」上田秋成の怪談
  59. No.102『雨月物語』の「夢応の鯉魚」魚の絵の名人・興義は、病で死んで3日後に生きかえった。「私は鯉になって琵琶湖を泳いでいた」——釣られ、まな板にのせられるまでの不思議な体験。上田秋成の怪談
  60. No.103『雨月物語』の「白峯」讃岐の山中、崇徳院の御陵で経をよむ西行の前に、「円位、円位」と呼ぶ声。あらわれた崇徳院の怨霊は「近ごろの世の乱れは自分のしわざだ」。夜通しの論争と、鬼火の中の魔王の姿——上田秋成の怪談
  61. No.104岡本綺堂「鰻に呪われた男」温泉場の川で、釣りあげた鰻を生きたまま食べた男。その人と結婚した19歳の娘が、新婚旅行の宿で「生きたままで……」と口をすべらせた夜、夫は消えた。2年半後、千住の鰻屋で見つかった片眼の職人
  62. No.105岡本綺堂「妖婆」雪の番町、「鬼婆横町」の大溝のふちに、頭から真っ白に雪をかぶった老婆が坐っていた。素通りした者、声をかけた者、銭を投げた者、刀で斬りつけた者——4人の若侍のその後
  63. No.106岡本綺堂「指輪一つ」関東大震災のあと、東京へ向かう満員の汽車。家族8人の行くえがわからない本所の男・西田さんに助けられて降りた木曽の宿で、夜の風呂場に若い女のすすり泣き——そこに落ちていた、裏に「みつ」と彫られた指輪
  64. No.056岡本綺堂『番町皿屋敷』割れば手討ちになる家宝の皿。腰元のお菊は、それをわざと割った。主人・青山播磨の心がかわっていないか、たしかめるために——皿屋敷の怪談を、恋の物語として書いた小説
  65. No.057小泉八雲の怪談「忠五郎のはなし」毎晩、屋敷をぬけだす若い足軽。川のほとりで美しい女に「夫になって」とさそわれ、水の底の光かがやく御殿へ。「ぜったい人に話さないで」——その約束をやぶった夜から
  66. No.058小泉八雲の怪談「蠅のはなし」親の供養のため、きれいな着物も着ずにお金をためた女中の玉。死んで10日後、真冬なのに大きな蠅が主人の頭のまわりを飛ぶ。翅に紅をぬって遠くへ放しても、赤い蠅はもどってきた
  67. No.059小泉八雲の怪談「葬られたる秘密」亡くなった若い母が、毎晩、二階の箪笥の前にあらわれる。着物も帯も、ぜんぶお寺におさめたのに。和尚が引き出しの底の紙をはがすと、一通の手紙が出てきた
  68. No.060小泉八雲の怪談「生霊(いきりょう)」医者にも治せない病気の若い番頭。「毎晩、女の影がのどをしめに来る。それは生きている人の憎しみ——この家のおかみさんです」。正体は、死者ではなく、生きた人の心だった
  69. No.061小泉八雲の怪談「常識」修行をつんだ高僧のもとに、毎晩、白い象に乗った普賢菩薩があらわれる。いっしょに見た猟師は、その菩薩に矢を射た。「わたしのような者にまで見えるのは、おかしい」
  70. No.062小泉八雲の怪談「雉子(きじ)のはなし」亡くなった舅が夢で「明日、わたしはあぶない。助けてくれ」。その日、狩りに追われた雉子が家にとびこんできた。妻はかくして助けたが、帰ってきた夫は——
  71. No.063小泉八雲の怪談「おかめのはなし」病気で死ぬ前、妻おかめは夫にたのんだ。「わたしが死んだら、ほかの人と結婚しないと約束して」。夫は約束した——その日から、夫はやせおとろえていく。毎晩、おかめがとなりに来ていたのだ
  72. No.064小泉八雲の怪談「死霊(しりょう)」死んだ代官の財産をうばおうと、うその報告をした下役たち。家族が国を追われる、そのとき、女中が代官の声で「帳簿を持ってこい」。一つのまちがいもなく、帳簿を正しはじめた
  73. No.065小泉八雲の怪談「幽霊滝の伝説」「今夜ひとりで幽霊滝へ行けたら、今日つむいだ麻をぜんぶあげる」。かけに乗ったお勝は、子どもを背負って夜の滝へ。賽銭箱に手をのばしたとき、「おい、お勝」と声がした
  74. No.053小泉八雲の怪談「茶碗の中」お茶の中に、知らない美しい侍の顔がうつっていた。若党はそれを顔ごと飲みほしてしまう。その夜あらわれた男は「今朝、ひどい害を加えたな」——そして物語は、とちゅうで切れている
  75. No.054小泉八雲の怪談「かけひき」「殺されたら、必ずたたってやる」とさけぶ男に、侍は言った。「では、首を切られたあと、目の前の飛び石にかみついて見せよ」。たたりを封じた、ひとことの知恵
  76. No.055小泉八雲の怪談「乳母桜」病気の娘のために、21日間お寺に通って祈った乳母。娘はすっかり治ったが、その夜、乳母がたおれた。「わたしが身代わりになれるよう、お願いしたのです」
  77. No.046小泉八雲の怪談「安芸之介の夢」杉の木の下で昼寝をした男は、夢の中で「常世の国」の王女と結婚し、島を23年治めた。目がさめると——杉の根もとには、大きなアリの巣があった
  78. No.047小泉八雲の怪談「青柳のはなし」雪の山小屋で出会った美しい娘・青柳は、歌で心を返す人だった。5年の幸せな結婚のあと、「私は人間ではありません。柳の木の命が私の命です」
  79. No.048小泉八雲の怪談「十六桜」伊予の国に、毎年旧暦1月16日、雪の季節にだけ咲く桜がある。かれてしまった桜を愛した老いた侍が、自分の命とひきかえに咲かせた木だった
  80. No.049小泉八雲の怪談「鏡と鐘」お寺の鐘のために出した母の形見の鏡だけが、どうしても溶けなかった。「この鐘を鳴らしてこわした人に、大金をあたえる」——無間山の鐘と、最後に出てきた「つぼの中身」
  81. No.050小泉八雲の怪談「お貞のはなし」15歳で肺病で亡くなった許嫁は「この世で、また会えます」と言い残した。17年後、伊香保の温泉宿で給仕に出た娘は、なつかしい声で「私の名はお貞です」と答えた
  82. No.040小泉八雲の怪談「食人鬼(じきにんき)」山道に迷った僧・夢窓国師。泊めてくれなかった庵の老僧、夜中に村を出ていく人々、遺体の部屋に入ってきた「ぼんやりした大きな影」——その正体は、つとめを怠った昔の僧だった
  83. No.041小泉八雲の怪談「おしどり」夫のおしどりを射た猟師の夢に、泣きながらあらわれた美しい女。「明日、赤沼へ行けばわかります」——翌朝、ひとりで泳ぐ雌のおしどりがまっすぐ近づいてきた
  84. No.035怪談『牡丹灯籠』カランコロンと駒下駄の音、牡丹の灯籠をさげた美しい幽霊。三遊亭円朝の原文を読むと、最後に「幽霊のしわざは、自分がこしらえた」と明かす男が出てくる
  85. No.027小泉八雲の『怪談』「耳なし芳一」「雪女」は1904年に英語で出版された本から。ギリシャ生まれの作家が、妻セツと暮らした日本で書いた、亡くなる半年前の一冊
  86. No.034日本一有名な怪談『四谷怪談』じつは1825年に「忠臣蔵」と2日がかりでセット上演された歌舞伎。髪がぬけ落ちる「髪梳き」、戸板返し、提灯抜け——こわさを生んだ舞台のしかけ

妖怪

Yōkai

日本の妖怪を、一体ずつ。古い本と絵から。

38篇

  1. No.137日本の妖怪安達ヶ原の鬼婆福島・二本松に伝わる「いわて」の話。都の姫を救いたい一心で奥州へ下った乳母は、知らずにわが娘を手にかけ、鬼になった。もとをたどると、平安時代の1首の「からかいの歌」に行きつく?
  2. No.138日本の妖怪稲生物怪録(いのうもののけろく)寛延2年(1749年)7月の1か月、備後の三次(みよし)の武家の家に、毎晩ちがう怪異。最後の晩にあらわれた裃(かみしも)の男は「三千世界の魔王」を名のり、木の槌を置いて雲の中へ——『三次実録物語』を原文で読む
  3. No.139日本の妖怪姿のない「口笛の怪声」明治27年(1894年)、山梨の山あいの村で、空中から口笛のような声が人の問いに答え、年齢を言い当て、機の糸を断ち切った。妖怪を研究した井上円了が現地で調べた報告書を、原文で読む
  4. No.140日本の妖怪猫又(ねこまた)「奥山には人を食う猫又がいる」「いや、年をとった猫がこの辺でも猫又になる」。そのうわさにおびえた法師の夜道に、ついに猫又が——『徒然草』第89段のオチは、自分の飼い犬だった
  5. No.141日本の妖怪鵺(ぬえ)頭は猿、胴は狸、尾は蛇、手足は虎。じつは『平家物語』では、この化け物の名前は書かれず「鳴く声が鵺に似ていた」だけ。夜ごと御所をおおう黒雲を、源頼政が1本の矢で射落とす
  6. No.142日本の妖怪不知火(しらぬい)夏の終わりの真夜中、八代海の沖に、だれがともしたのかわからない火が並んで明滅する。明治・大正の井上円了は「潮の打ち合う光」と考え、令和の高校生は「空気のレンズ」で光が曲がる蜃気楼の一種と観測した
  7. No.143日本の妖怪狸(たぬき)とムジナは同じ?ちがう?人を化かす2つの獣の名前をめぐって、柳田國男は「中部のタヌキは関東のムジナ」。ムジナには穴熊も入っていた——柳田國男「狸とムジナ」を原文で読む
  8. No.144日本の妖怪手長足長足の長い人が、手の長い人を背負って海で魚をとる。福島・新地の「手長明神」は、山の上から長い手をのばして海の貝を食べ、その殻が貝塚になった——じつは国の史跡に名前が残る巨人
  9. No.145日本の妖怪姫路城の天守にすむ「天守夫人」と、角のある山伏・朱の盤坊、なんでも舐めとる舌長姥——泉鏡花『天守物語』(1917年)の妖怪たち。「百年以来、お天守五重までは、生あるものの参った例はありませぬ」
  10. No.146遠野物語ヤマハハ(山姥)留守番の娘の家に「開けろ、開けないなら蹴やぶるぞ」。柴の束、萱の束、沼にうつった影、そして木の唐櫃——逃げる娘と追うヤマハハの昔話。柳田國男は『山の人生』で「山姥を妖怪なりとも考えがたきこと」と書いた
  11. No.153日本の妖怪狐火(きつねび)火のあるはずのない夜の野に、ぽうっと灯る火。狐が人の骨をくわえて息を吐くと火になる?——明治の妖怪学者・井上円了は「はなはだ疑わしい」。箱根の夜道で円了自身が見た「怪火」の正体は、マッチを擦る電報の配達人だった
  12. No.154日本の妖怪偽汽車(にせぎしゃ)夜の野原を走る汽車の前から、火を吐き汽笛を鳴らして、来るはずのない列車が向かってくる。止まれば止まり、走れば走る。思いきって突っこむと手ごたえがなく、翌朝、線路には古ギツネが——明治の鉄道とともに広まった新しい妖怪
  13. No.155日本の妖怪鬼(おに)のうわさ応長のころ、「伊勢の国から、鬼になった女を連れて都へ来た」。昨日は西園寺、今日は院の御所の門へ——京じゅうが20日ばかり鬼見物に走りまわったのに、たしかに見た人はだれもいなかった。『徒然草』第50段
  14. No.156日本の妖怪オサキ(尾裂・管狐)二十日鼠くらいの小さな狐で、尾の先が二つに裂けている。飼い主の目にしか見えず、夜のうちに蚕を盗む——上州・武州・信州で語られた「オサキ」を、明治の妖怪学者・井上円了の本で読む。円了が「弊害が最もはなはだしい」と書いた理由も
  15. No.157日本の妖怪鮫人(さめびと)墨のように黒い体、鬼のような顔、エメラルドのような緑の目。竜宮を追われ、近江の瀬田の長橋にうずくまっていた「鮫人」は、海の者は本当に悲しいときしか泣けない、と言った。その涙は、紅い宝石になる——小泉八雲「鮫人の恩返し」
  16. No.158日本の妖怪天狗礫(てんぐつぶて)夜な夜な、どこからともなく家に小石が降ってくる。狐が後ろ足で石をけとばすのか、天狗が投げるのか——明治の妖怪学者・井上円了が新聞記事を集めて調べた「投石の怪」の正体は、いつも人だった
  17. No.181日本の妖怪団三郎狢(だんざぶろうむじな)佐渡・相川の山の岩屋に住むという、ムジナの親分。石を投げつけた男が家に帰ると、自分とそっくりの男がもう座敷で食事をしていた——井上円了が佐渡で聞き、岩屋をたずねて書き残した話
  18. No.182日本の妖怪船幽霊(ふなゆうれい)船のない海に船の形が見え、櫓の音や人の呼び声が聞こえる。小泉八雲が伯耆の海で聞いたのは、盆の16日の夜、海からのびる長い手と「桶をくれ」の声。渡す桶は、底を抜いてから
  19. No.183日本の妖怪ガゴとモウコおばけは何と鳴く?東京の子は「オーバーケー」、東北や北陸では牛のように「モー」、九州や四国では「ガゴ」「ガンゴ」。柳田國男は、もとは「かもう(噛もう)」と名のって出てきたのでは、と考えた
  20. No.184日本の妖怪ギバ(頽馬・提馬風)夏の日盛り、旋風のようなものが来て、馬のたてがみが一本一本立ち、赤い糸のような光がさしこむと、馬はまもなく倒れる。玉虫色の小さな馬に乗った女が馬の顔に組みつく、とも——寺田寅彦は「空中の放電では」と考えた
  21. No.185日本の妖怪孕(はらみ)のジャン高知の浦戸湾、夜半に「ジャーン」と鳴りひびいて海の上を過ぎていく、だれも姿を見たことのないもの。それが通ると魚がさわいで、その夜はもう釣れない——物理学者・寺田寅彦は「地鳴りではないか」と考えた
  22. No.186日本の妖怪人魂(ひとだま)夜空をすっと横切る火の玉。『万葉集』にも「人魂のさ青なる君」と詠まれた。明治の横浜と長崎の「人魂騒ぎ」の正体はガラスに映ったランプの光、昭和の寺田寅彦は「目の錯覚では」と考えた
  23. No.187日本の妖怪鎌鼬(かまいたち)道を歩いていると、急に鎌で切ったような傷ができている。血は流れず、痛みも少ない——明治の井上円了は「越後に最も多い」と書き、物理学者の寺田寅彦は「旋風に飛ばされた木や竹のかけらが当たるのでは」と考えた
  24. No.188日本の妖怪葛の葉(くずのは)命を助けてもらった信太の森の白狐は、女の姿で男の妻になり、子を産んだ。正体を知られた日、障子に書き残したのは「恋しくば たづね来て見よ 和泉なる 信太の森の うらみ葛の葉」——折口信夫が読み解いた「信太妻」
  25. No.189日本の妖怪狸の腹鼓(たぬきのはらつづみ)秋の晴れた夜ふけ、どこからか「トントン」と太鼓の音。近づくほど遠くなる——井上円了が記録した山形・庄内の騒ぎの正体は、鍛冶屋のふいごの音だった。柳田國男は、汽車が通れば汽車の音、学校ができれば学校の騒ぎをまねると言われた狸を書いている
  26. No.190日本の妖怪海坊主(うみぼうず)霧の夜の九十九里の沖にあらわれた大入道は、歩けば歩き、止まれば止まり、手をあげれば手をあげた——井上円了が記録した正体は「霧にうつった自分の影」。泉鏡花が語った房州の黒い坊主、漁師が見た「顔の長さ四尺」の海坊主も
  27. No.090遠野物語の「猿の経立」と「御犬の経立」松脂と砂で毛皮を固め、鉄砲の弾も通らない猿。岩の上で首を押しあげるように吠える、馬の子ほどの狼。子どもをおどす「六角牛の猿の経立が来るぞ」——柳田國男『遠野物語』36〜47話を原文で読む
  28. No.092遠野物語の狐友だちの姿で相撲をいどみ、懐の餅を持っていった狐(94話)。鉄砲の筒にいつのまにか土をつめた狐(60話)。毎日油揚をそなえて、首をおさえられるほど狐と仲よくなった学者(21話)——柳田國男『遠野物語』を原文で読む
  29. No.051遠野物語山男・山女山の奥に住む、背の高い人たち。岩の上で長い黒髪をすく白い顔の女、竹やぶでいびきをかく大男と3尺の草履。笛吹峠は「必ず山男山女に出会う」とおそれられ、道が変えられた
  30. No.044遠野物語マヨイガ(迷い家)山奥でふと出会う、だれもいないりっぱな家。湯がわく鉄瓶、ならんだお膳。「何か持ち帰れば幸せになれる」——でも欲ばって探しに行った人たちは、門さえ見つけられなかった
  31. No.045遠野の神さまオシラサマ娘と馬の悲しい恋から生まれた神。『遠野物語』69話では、馬の首に乗ったまま娘は天へ。桑の木で作った神像は「姉神・妹神」の3体だった
  32. No.038遠野の天狗は「大男」柳田国男『遠野物語』(1910年)に残る天狗の話。山頂で金銀をひろげる三人、赤い衣で羽ばたく僧の姿、天狗森の赤い顔の大男
  33. No.039日本の妖怪雪女小泉八雲の「雪女」の舞台は武蔵の国。吹雪の小屋で老人を凍らせ、若い木こりには「誰にも言うな」と約束させて見逃す。10人の子の母になっても年をとらなかった妻「お雪」の正体は
  34. No.023妖怪アマビエの正体1846年の瓦版に1枚だけ残る「海から現れた光るもの」。原文に書かれていたのは「豊作」と「病がはやったら私の姿を写して見せよ」
  35. No.030遠野の河童は「顔が赤い」柳田国男『遠野物語』(1910年)に残る河童の話。川岸の足あと、馬を引きこもうとして失敗した河童、くるみの木のあいだからのぞく赤い顔
  36. No.031日本の妖怪のっぺらぼう目も鼻も口もない顔。小泉八雲「貉(むじな)」の舞台は、東京・赤坂の紀国坂。逃げこんだ先のそば屋も「こんな顔だったかい?」——正体はムジナ
  37. No.032日本の妖怪ろくろ首首がのびる?いいえ、小泉八雲の『ろくろ首』では首が「体からはなれて飛ぶ」。弱点は「胴体を動かされること」。侍あがりのお坊さんが5つの首と戦う話
  38. No.033日本の妖怪座敷わらし住む家は栄え、出ていくと家がかたむく。『遠野物語』では「12、3歳くらいの子どもの姿をした神」。紙のがさがさ、鼻を鳴らす音

図版の出典

月岡芳年『日本略史 素戔嗚尊』(1887年、パブリックドメイン/ウィキメディア・コモンズ)、鳥山石燕『画図百鬼夜行』(国立国会図書館デジタルコレクション)、春梅斎北英の役者絵(1832年)・アントニオ・テンペスタ「ヘラクレスとケルベロス」(1608年)(メトロポリタン美術館、パブリックドメイン)。各記事の図版の出典は、それぞれの記事に記載しています。

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