
プレ男「水鬼」って、水の中の鬼?川で何かが出てくる話かな。

メル美出てくるのは鬼じゃなくて、川に浮かぶ小さな花なんだって。
今回は、岡本綺堂の短編「水鬼」(すいき)です。青空文庫の本文(底本:原書房『異妖の怪談集 岡本綺堂伝奇小説集 其ノ二』)で読みました。初出は『講談倶楽部』1924年(大正13年)9月です。本文中の「」の言葉は、青空文庫の本文からの引用です。
※この作品には、少女がだまされて売られる話、人が殺される場面、身投げが出てきます。
不知火に近い町と、尾花川
- 語り手は、40近い紳士のA君。学生時代、いまから15、6年前の話だと前置きします
- A君の郷里は九州で、不知火の名所に近いところ。町から一里ほどの村はずれに、土地の人が「尾花川」と呼ぶ川があります(ほんとうの名は唐人川。堤に芒が茂っていたので尾花川と呼ぶのだろう、とA君は言います)
- その年、A君は7月12日に夏休みで帰省し、停車場から乗合馬車に乗りこみました。乗客はほかに2人。質朴な農家の青年と、派手づくりの、芸妓らしい若い女。兄妹のようでした
消えた妹
- 途中で、炎天にしいたげられた馬車馬が倒れてしまいます。みんなで水を飲ませて介抱しているうちに、女の姿が消えていました
- 青年はさけびます。「畜生。また逃げたか。」
- 青年は、川沿いのKB村の勝田良次。いっしょに歩いて帰る道で、A君は話を聞きます。妹のおむつは14の秋に家を飛びだし、熊本に近い町の料理屋で酌婦をしていた。連れもどしても、またすぐ飛びだす。5年あまり音信不通のあと、門司で芸妓をしているが、体が悪いので実家で養生したいと手紙が来た。それで迎えに行った帰りだった——
幽霊藻
- 8月なかば、A君は尾花川へ釣りに出かけ、水の上に漂う小さな花を見つけます。土地では「幽霊藻」「幽霊草」と呼ぶ浮き草です
- 花は薄白と薄むらさきの二種で、曇ったような色。細い青白い長い葉は、水の中から手をあげて招いているようにも見える
- 伝説では、壇ノ浦から落ちのびた平家の官女が、この川の水を飲もうとして足をすべらせ、水の底に吸いこまれた。そのあと浮かびだしたのが幽霊藻で、薄白は官女の小袖、薄むらさきは袴の色だといいます
- 毒草ではない。けれども、「その花が若い女の肌に触れると、その女はきっと祟られる」という言い伝えがあって、毒草以上に恐れられていました

メル美男の人にはなんの関係もない、若い女の人だけに祟る花…。なんだか意味ありげだね。
堤の上の二つの白い影
- 釣りをしているA君の前に、町の薬屋のせがれで薬剤師の市野弥吉があらわれます。小学校の友だちで、A君と同じ年。「きりぎりすを捕りに来た」と言うのに、網も籠も持っていません
- 市野が堤をあがっていくと、芒のかげに二つの白い影。もう一つは女のうしろ姿でした。A君には、なぜかそれが、馬車から消えたあの芸妓のように思われます
- 釣れないまま帰る宵闇の道。暗いなかから、幽霊のようにふらふらとあらわれた若い女が、A君の名を呼びました。やはり、勝田の妹でした
「わたくしはこれから警察へ行くんですよ」
- 町まで一緒に、とたのむ女に、A君が「今夜も市野君のところへ?」とたずねると——「もう今頃は死んでしまったでしょう」
- 女は落ちついた声で、剃刀で市野の喉を斬り、川へ突き落としたこと、これから自首しに行くことを話します。そして、市野は「一生のかたき」だと言うのです
おむつの身の上話
- 7年前、14歳のおむつの店に、19歳の市野が釣りの帰りによく寄っていました。ある日、市野は冗談半分に、魚籠の中の幽霊藻をおむつの胸もとに押しこみます
- その晩、おむつの枕もとに、白い着物に紫の袴の美しい官女がすわって、寝顔をのぞく夢を見ました。その日から、おむつはむやみに市野が恋しくなります
- 市野と相談して家を飛びだしたおむつは、市野が受けとったお金とひきかえに、いかがわしい茶屋に売られてしまいます。市野は一度も会いに来ず、そのあいだに福岡の薬学校へ行ってしまっていました
- 家に帰り、あんな男のことは思い切ろうと決めると、また官女の夢。すると市野が恋しくてたまらなくなり、家を飛びだしては、途中で悪い人間にだまされて売られる——それが何度もくりかえされ、流れ流れて門司の芸妓になり、重い病気にかかったのでした
馬が倒れたわけ
- 帰郷の日、馬車の窓から、路ばたの百姓家にいる市野の姿を見つけた。はっと思ったとたん、「まあ不思議ですね、馬車の馬が急に膝を折って倒れてしまいました」
- 市野は昔のことをあやまり、おむつも許すことにしました。ところが翌朝、川に浮かぶ幽霊藻を見ると、なつかしいような気持ちになって、おむつは自分でその藻をふところに入れてしまいます。すると、また市野が恋しくなった
- 「元のとおりになってくれ」と責めるおむつに、市野は今夜、病気を治す「秘密の薬」を手わたそうとします。毒薬だと見ぬいたおむつは、帯にしのばせていた剃刀で——
尾花川の幽霊藻
- 「ゆうべも、いつもの官女が枕もとへ来ました。」警察へ向かう道で、女はそう言いました
- A君は参考人として呼びだされ、上京は10月にのびます。女は翌年4月、刑の執行猶予を言いわたされました
- けれども病気は重くなり、6月末の雨の晩、女は尾花川の堤から身を投げます。書置きはありませんでした
- 川しもで見つかったその体には、幽霊藻が一面にからみついて、網にかかった魚のように見えた——物語はここで終わります

A君は、若い女が幽霊藻の伝説にとらわれてそんな夢を見るのは「不思議のようで不思議でない」と思いながら聞いていました。それでも最後に、川しもで見つかった体には幽霊藻が一面にからみついていた、と語られます。
まとめ
- 「水鬼」は岡本綺堂の短編。初出は『講談倶楽部』1924年9月
- 舞台は九州、不知火に近い町の尾花川。平家の官女のたましいといわれる幽霊藻は、若い女の肌にふれると祟るという
- 乗合馬車から消えた芸妓・おむつ。14歳のとき、市野に幽霊藻を胸もとへ押しこまれてから、くりかえし官女の夢を見た
- 「わたくしはこれから警察へ行くんですよ」——闇の道で語られる身の上話
- 平家の伝説が出てくる怪談なら、小泉八雲の耳無芳一の話もどうぞ。綺堂の河鹿、離魂病、停車場の少女も
参考文献
- 岡本綺堂. 水鬼(底本:『異妖の怪談集 岡本綺堂伝奇小説集 其ノ二』原書房). 青空文庫. https://www.aozora.gr.jp/cards/000082/card43546.html (閲覧日:2026年10月22日)
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