
メル美「河鹿」は、箱根の湯宿で聞く河鹿の声から始まる怪談なの。

プレ男その声を聞くと寂しくなる人がいるんだって。どうしてだろう?
今回は、岡本綺堂の短編「河鹿」(かじか)です。青空文庫の本文(底本:ちくま文庫『怪奇探偵小説傑作選1 岡本綺堂集 青蛙堂奇談』)で読みました。初出は『婦人公論』1921年(大正10年)7月号で、初出時の題は「隣座敷の声」です。本文中の「」の言葉は、青空文庫の本文からの引用です。
※この作品には、子どもが亡くなる話が出てきます。
箱根の谷底の湯
- 語り手のC君は、5、6年前に箱根の湯の宿で、同行のS君から聞いた話だと前置きします
- 石高路を谷底までおりていく、自動車も横づけできない静かな宿。河鹿の声を聞きながら、S君は言います。「僕もあの河鹿の声を聞くと、なんだかいやに寂しい心持になることがある」
隣の三人づれ
- 5年前、S君がたった一度、6月の梅雨のころにこの宿へ来たときのこと。泊まり客はS君ひとりでした
- 1週間ほどおくれて、三人づれの女客がやってきて、S君の隣の座敷を借ります。20歳ばかりの女中、16歳ぐらいのお嬢さん、そして母親らしい40前後の上品な奥さん
- 三人はどこへも出ず、一日とじこもって、口ひとつきかない。笑い声も聞こえない。奥さんの顔は「水のように蒼白かった」
「パパア」「ママア」
- ある夜、細かい雨が降りつづき、S君はなぜか眠れません。午前1時近く、書物を取ろうとしたとき——
- どこかで「パパア」という声。人間の声ではないらしい、河鹿の声でもない、「はらわたにしみ透るような」悲しい声です
- つづいて「ママア」。声は、隣の座敷から聞こえていました
- そっと障子をあけて縁側をうかがうと、隣の障子は真っ暗で、内はひっそりしている。その暗い障子の中で、また「ママア」——S君は自分の座敷へ逃げこみ、布団をかぶりました

プレ男みんな寝ているはずの真っ暗な部屋から、「パパア」「ママア」…。こわすぎる!
人形の話
- 翌日、町からの帰りの坂道で、S君は隣の女中と一緒になり、事情を聞きだします
- 奥さんは外交官の妻。夫はヨーロッパに赴任していて、9歳の末娘のもとへ、手をあげると声の出る人形を送ってきた。右の手をあげると「パパア」、左の手をあげると「ママア」
- 娘はその人形をかわいがっていましたが、はずみで腕を折ってしまい、声が出なくなります。日本ではなおせないので、ヨーロッパの父のもとへ送りかえして、修理をたのみました
- 年が明けてまもなく、娘は流行性感冒にかかり、1週間ばかりで亡くなってしまいます。病気のあいだも「人形はまだとどかないかしら」とくりかえし、熱の高いときには、人形の口まねをして「パパア」「ママア」とさけんでいたといいます
- 娘の三十五日をすぎたころ、修理された人形が届きました。人形は仏前に供えられましたが、その声を聞くと娘の最期を思いだすので、だれも手を動かそうとしなかった
- 奥さんは悲しみのあまりふさぎこみ、転地のために箱根へ来た。人形も、箱に入れて持ってきて、座敷の床の間に飾ってある——というのです
「やっぱり真実なのでしょうか」
- S君がゆうべの声のことをささやくと、女中は声をふるわせました。東京にいるときにも、奥さんが夜中にそういう声を聞いたと言っていたが、神経のせいだとだれも信じなかった。「それではやっぱり真実なのでしょうか」
- 「あの人形に死んだお嬢さんの魂が残っているのでしょうか」。おびえる女中に、S君は、奥さんが夜中に起きて自分で人形をいじったのかもしれない、と言いました
- 河鹿の声を聞きちがえたのか、奥さんが暗闇で人形を泣かせたのか、それとも人形が自然に父母を呼んだのか——「それは今に判らない」

メル美こわい話だけど、それ以上に悲しい話だね…。
その年の秋の末
- 三人は3日ほどのち、ここは寂しすぎると、ほかへ移っていきました
- その年の秋の末、S君は、ある外交官の夫人が病死したという新聞記事を見つけて、ふたたびぞっとします
- 「あの人形はどうしたかとここへくるたびに思い出すが、おそらくお母さんの手に抱かれて暗い土の底へ一緒に葬られてしまったろう」——物語はここで終わります

「河鹿」のS君は、真夜中の声の正体について、河鹿の声の聞きちがいか、奥さんが人形を泣かせたのか、人形が自然に父母を呼んだのか、「それは今に判らない」と語ります。
まとめ
- 「河鹿」は岡本綺堂の短編。初出は『婦人公論』1921年7月号、初出時の題は「隣座敷の声」
- 梅雨の箱根の谷底の湯宿。隣の座敷の、陰気なほどつつましい三人づれ
- 真夜中、明かりの消えた隣室から「パパア」「ママア」
- 9歳で亡くなった末娘が待ちわびていた、声の出る人形が床の間に
- 声の正体は「それは今に判らない」。秋の末、奥さんの死を知らせる新聞記事
- 綺堂の鐘ヶ淵、離魂病、影を踏まれた女もどうぞ
参考文献
- 岡本綺堂. 河鹿(底本:『怪奇探偵小説傑作選1 岡本綺堂集 青蛙堂奇談』ちくま文庫、筑摩書房). 青空文庫. https://www.aozora.gr.jp/cards/000082/card56161.html (閲覧日:2026年10月12日)
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