
プレ男「耳なし芳一」って、名前は知ってるけど、ちゃんと読んだことないんだ。

メル美小泉八雲の『怪談』の中の一編だよ。どうして「耳なし」なのか、くわしく見てみよう。
今回は、小泉八雲の『怪談』から「耳無芳一の話」(THE STORY OF MIMI-NASHI-HOICHI)です。青空文庫の戸川明三訳(底本:第一書房『小泉八雲全集第八卷家庭版』1937年)で読みました。本文中の『』の言葉は、この訳からの引用です。
※この作品には、耳をちぎられて血が流れる場面があります。
壇ノ浦の怨霊
- 物語は、こう始まります。700年以上も昔、下ノ関海峡の壇ノ浦で、平家と源氏の長い争いの最後の戦いがありました。平家は、一族の女性や子ども、幼い帝(安徳天皇)とともに、すっかりほろびた
- それから700年、その海と浜辺は怨霊にたたられていた、と八雲は書きます。闇夜には無数の鬼火が波の上をとび、風の立つ日には、海から戦の叫びのような声が聞こえる
- 死者をなぐさめるために建てられたのが、赤間ヶ関の阿彌陀寺。墓地には、入水した帝と臣下たちの名を刻んだ石碑が立てられました
琵琶の名手・芳一
- 幾百年か前、この赤間ヶ関に、芳一という目の見えない琵琶法師がいました。平家と源氏の物語を語るのが得意で、壇ノ浦の戦の歌をうたうと「鬼神すらも涙をとどめ得なかった」といいます
- 阿彌陀寺の住職は芳一の腕に感心し、寺に住まわせていました
甲冑の侍
- ある夏の夜、住職が法会で出かけているあいだ、縁側で琵琶を練習していた芳一の前に、だれかが立ち止まります。『芳一!』——侍が下の者を呼びつけるような声でした
- 「高い身分の殿様」が、芳一の演奏を聞きたいと言っている、と侍。手を引くその手は鉄のようで、足どりのカタカタいう音から、侍が甲冑を着ていることがわかりました
- 大きな門をくぐり、広い庭をすぎ、果てしのない板敷を通って、大きな部屋へ。絹のすれる音、宮中の言葉でささやく大勢の声
- 老女らしい声が言います。『壇ノ浦の戦の話をお語りなされ——その一条下が一番哀れの深い処で御座いますから』
- 芳一が、二位の尼が幼い帝を抱いて入水する場面を語ると、聞く人々はみな、長く長く苦しむような声をあげ、取りみだして泣き悲しみました
- 老女は言います。これから6日のあいだ、毎晩来て演奏してほしい。殿様はお忍びの旅なので、だれにも話してはならない

プレ男宮中の言葉で話す人たちが、壇ノ浦の話を聞いて泣く…。もしかして…。
墓地の琵琶
- 毎晩寺をぬけだす芳一を心配した住職は、下男たちにあとをつけさせます。雨の暗い夜、芳一の姿は見失われましたが、浜辺の道から帰ってくると、阿彌陀寺の墓地から、さかんに琵琶の音が聞こえてきました
- 提灯で照らすと、芳一が、雨の中、安徳天皇の墓の前にひとりすわって、壇ノ浦の合戦の曲を高く語っていました。まわりの墓の上には、死者の鬼火がろうそくのように燃えていた
- 『芳一さん!——芳一さん!』と呼んでも、芳一は『この高貴の方方の前で、そんな風に私の邪魔をするとは容赦はならんぞ』
全身に書かれた経文
- 住職は芳一に言います。お前は人の家ではなく、墓地の中、平家の墓のあいだで夜をすごしていたのだ。一度死んだ人の言うことを聞いたからには、また聞けば、『その人達に八つ裂きにされる事だろう』
- 住職と納所(寺の役僧)は、芳一を裸にして、胸、背、頭、顔、首、手足、足の裏にまで、般若心経の文句を書きつけました
- 『どんな事があっても、返事をしたり、動いてはならぬ』
「ただその耳が二つあるばかりだ」
- その夜、足音が近づき、『芳一!』と呼ぶ声。芳一は石のように動かずにいます
- 縁側にあがる重い足音が、すぐそばで止まりました。『ここに琵琶がある、だが、琵琶師と云っては——ただその耳が二つあるばかりだ!……よし殿様へこの耳を持って行こう』
- 芳一は、鉄のような指で両耳をつかまれ、引きちぎられました。それでも声をあげませんでした

メル美経文の書かれていなかった耳だけが、怨霊に見えていたんだね…。
「耳だけが残っていた!」
- 夜明け前に帰った住職は、縁側で血を流しながら座っている芳一を見つけます
- 『お前の身体中くまなく経文を書いたに——耳だけが残っていた! そこへ経文を書く事は納所に任したのだ』。それを確かめておかなかったのは自分が悪かった、と住職は言いました
- 芳一の傷は、医者の助けでほどなくなおります。この話は広まって、芳一は有名になり、たくさんの人が芳一の語りを聞きにきて、芳一は金持ちになりました。そしてこのときから、「耳無芳一」という呼び名ばかりで知られるようになった——物語はここで終わります

「耳無芳一の話」で、住職は芳一の全身に般若心経を書きますが、耳に書くことは納所に任せ、確かめていませんでした。経文のない耳だけが、迎えにきた侍に見えてしまったのです。
まとめ
- 「耳無芳一の話」は、小泉八雲『怪談』の一編
- 壇ノ浦で平家がほろびてから、赤間ヶ関の海と浜辺は怨霊にたたられていた
- 目の見えない琵琶法師芳一は、甲冑の侍に連れられ、「高貴の方々」の前で壇ノ浦を語る
- 連れていかれていたのは、安徳天皇の墓の前だった
- 全身に般若心経を書かれた夜、書きわすれられた耳だけが、ちぎりとられる
- 八雲の鏡と鐘、八雲の『怪談』全体は小泉八雲『怪談』、平家のほろびを予言する怨霊は『雨月物語』の白峯もどうぞ
参考文献
- 小泉八雲(戸川明三訳). 耳無芳一の話(底本:『小泉八雲全集第八卷家庭版』第一書房、1937年). 青空文庫. https://www.aozora.gr.jp/cards/000258/card42927.html (閲覧日:2026年10月12日)
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