
メル美「生霊」は生きている人の霊だったけど、こんどは「死霊」。死んだ人の霊の話だよ。

プレ男うらみをはらしに出てくる、こわい話?
今回は、小泉八雲『骨董(Kotto)』の「死霊(SHIRYŌ)」です。英語の原文(1903年のマクミラン社版)をプロジェクト・グーテンベルクで、日本語訳(田部隆次訳)を青空文庫で読みました。人名・地名は田部隆次訳の漢字をいまの字体にして使い、読みは青空文庫の図書カードによります。
死霊とは(八雲の注)
- 八雲の注によると、「死霊」は「死んだ人の霊」のことで、生きている人のすがたをさす「生霊」と区別してつかわれる言葉です
- 「幽霊」は、どんな種類の霊にもつかう、もっと広い言葉だといいます
- 生霊の話は、生霊の記事をどうぞ
あらすじ1:下役たちのたくらみ
- 越前の国の代官、野本弥治衛門が亡くなると、その下役たちは、なき主人の家族をだまそうとたくらみました
- 代官の借金を返すと言って、家のお金、宝物、家具をすべて自分たちのものにし、さらに、代官が財産以上の借金を不正にしていたように見せかける、うその報告をつくって、宰相に送ったのです
- 宰相はこれを信じて、野本の妻と子どもを越前の国から追放する命令を出しました。八雲によると、そのころは、代官が亡くなったあとでも、その不正の責任の一部を家族が負わされたのです
あらすじ2:女中が代官の声で
- 追放の命令が妻に告げられた、そのとき——家の女中が、とりつかれたようにふるえだしました。ふるえがおさまると、女中は立ちあがって、宰相の役人と下役たちにさけびます
- 「よく聞け!おまえたちに話しているのは娘ではない。わしだ。野本弥治衛門だ。死からもどってきたのだ。信じていた者たちのせいで、悲しみと大きな怒りをいだいて、もどってきたのだ」
- 「恩知らずの下役ども!よくもわしの財産をうばい、名をけがしてくれたな。……いま、わしの前で、役所と家の帳簿をしらべなおせ。目附の帳簿も持ってこさせよ。くらべてみるのだ!」
- その声も、ふるまいも、野本弥治衛門そのものでした。悪事をはたらいた下役たちは青ざめます

プレ男幽霊が「帳簿を持ってこい」って!会計のプロだ!
あらすじ3:一つのまちがいもなく
- 宰相の役人たちは、すぐに女中の言うとおりにさせました。役所の帳簿がすべてならべられ、目附の帳簿も運ばれてきます
- 女中は、計算をはじめました。一つのまちがいもなく、すべての帳簿をしらべ、合計を書き、うその記入をすべて正していきます。その字は、野本弥治衛門の字そのものでした
- しらべなおすと、借金などなかったばかりか、代官が亡くなったときには、役所の金庫に余りがあったこともわかりました。下役たちの悪事は、明らかになったのです
- すべてがおわると、女中は代官の声で言いました。「これでおわった。もうわしにできることはない。来たところへ帰ろう」
- 女中はそのまま横になって眠り、2日2晩、死んだように眠りつづけました。目をさましたとき、声もふるまいも若い娘のものにもどっていて、とりつかれていたあいだのことは、何も覚えていなかったといいます
その後
- この報告を受けた宰相は、追放の命令を取り消し、代官の家族にたくさんの品をおくりました
- 野本弥治衛門には、死後さまざまな名誉があたえられ、その家は長く政府にめぐまれて、たいそう栄えました。そして、下役たちは、当然の罰を受けたのです

メル美こわがらせるためじゃなくて、家族を守るために出てきた幽霊なんだね。
「代官」「宰相」「目附」の役職の説明は、八雲が英語でつけた注によります。

小泉八雲の「死霊」では、女中が代官の声と筆跡で帳簿を一つのまちがいもなく正し、借金どころか役所の金庫に余りがあったことを明らかにしました。
まとめ
- 「死霊」は、小泉八雲『骨董』の一編。「死霊」は死んだ人の霊、「生霊」と対になる言葉
- 越前の代官・野本弥治衛門の死後、下役たちがうその報告で財産をうばい、家族は追放されそうになる
- 女中が代官の声で「帳簿をしらべなおせ」とさけび、代官の字で、まちがいなく帳簿を正した
- 借金どころか、金庫には余りがあった。追放は取り消され、下役たちは罰を受けた
- 『骨董』の話はおかめのはなし、生霊、常識、幽霊滝の伝説もどうぞ
参考文献
- Lafcadio Hearn. Kotto: Being Japanese Curios, with Sundry Cobwebs(New York: The Macmillan Company, 1903). “Shiryō”. Project Gutenberg. https://www.gutenberg.org/ebooks/55473 (閲覧日:2026年10月10日)
- 小泉八雲(田部隆次訳). 死霊(底本:『小泉八雲全集第八卷 家庭版』第一書房). 青空文庫. https://www.aozora.gr.jp/cards/000258/card59427.html (閲覧日:2026年10月10日)
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