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プレ男「稲生物怪録」って聞いたことある。1か月ずっと妖怪が出つづけた家の話なんでしょ?

メル美舞台は広島県の三次なんだって。三次市には妖怪の博物館もあるみたい。
こんにちは、Dr. Taro です。 日本の妖怪、今回は稲生物怪録(いのうもののけろく)です。いくつもの本や絵巻で伝わっている物語ですが、ここでは青空文庫で読める『三次実録物語』(作者名は稲生武太夫)を原文で読みます。青空文庫の底本は『平田篤胤が解く 稲生物怪録』(角川書店、2003年)、その親本は三次市教育委員会の『妖怪 いま甦る 「稲生武太夫 妖怪絵巻」の研究』(1996年)です。
プロフィール(『三次実録物語』より)
| 舞台 | 備後の三次(いまの広島県三次市)の武家の家 |
| いつ | 寛延2年(1749年)7月1日の夜から7月晦日(みそか)まで |
| 語り手 | 「われ」。この記録は稲生武太夫の名で伝わる |
| 最後にあらわれたもの | 浅黄小紋の裃(かみしも)を着て刀をさした四角四面の男。「三千世界の魔王」「仮名 山本太郎左衛門」と名のる |
| 残していったもの | 木の槌(つち) |
はじまりは、比熊山の百物語
- 記録の前半には、語り手が、江戸帰りの相撲取り・三井権八と知りあう話があります
- 権八は「化け物などというものはない。絵本にかかれた化け物の姿も、みな作りごと」と言いながら、「ただし百物語をすれば、必ず化け物が出ると聞いた」と話します。青い紙で行燈を張り、灯心を百筋用意して、ひとつ話すたびに一筋ずつ消すというやり方です
- 二人は比熊山にのぼり、「三次殿の御墓」と言いつたえられる岩のそばで百物語をしました。こわい話が尽きると、作り話までして灯を消していきます
- 最後の一筋を消しても何も起こらず、夜が明けると二人は「いよいよ化物はなきものなり」と言って、山をおりました

メル美「化け物はいない」って確かめて帰ってきたのに…。それが始まりなんだ。
7月1日:障子がまっ赤に、黒い大きなもの
- 寛延2年7月1日。夕方から小雨がふり、遠くで雷が鳴っていた夜です。語り手はいつもどおり相撲から帰って寝ようとしますが、目がさえて眠れません
- 家来の権平は「今晩はなんともなくおそろしい。せめて頭だけでも蚊帳に入れてほしい」とせがみます
- やがて前の障子が松明を打ちかけたようにまっ赤になり、またまっ黒になり、家ががたがたとひびきます。障子を開けようとすると、外から両肩と帯をつかまれ、宙に引かれました
- 向こうには、牛なら五、六頭ほどもある、まっ黒なもの。たてに長い目が松明をふるように光っていました。語り手が刀をぬいてむかうと、それは床下へ這いこんでいきます
- 駆けつけた権八は、自分の家でも、十ばかりの小坊主で、目が一つある者が白い天目茶碗を持ってまわりを二、三べん回り、そのあと手足がすくんで動けなくなったと話しました
毎晩ちがう怪異(2日〜29日のいくつか)
記録は「扨、二日夜」「扨、三日の夜」……と、一日ずつ書かれています。その中からいくつかを紹介します。
- 2日:行燈の火がだんだん長くのびて天井に燃えうつり、屋根まで燃えだす。けれど語り手は「化け物のしわざだ。本当の火事なら外の人がさわぐはず」と放っておくと、ほどなく元どおりの天井にもどった
- 4日:お茶をわかそうとすると、瓶(かめ)の水が凍って動かない。茶釜のふたも開かない
- 5日:座敷の上に、八、九人でかかえるほどの赤い石。その石には目がいくつも、指もいくつもついていた
- 10日:来ていた相撲取りの頭が二つに割れ、中から赤子が這い出して、十ばかりがひとつの大きな目玉になる
- 22日:棕櫚箒(しゅろぼうき)が宙にうき、座敷じゅうをはいてまわる。四、五度くり返し、すみからすみまでほこりもないほどに
- 24日:四尺ほどの蝶が飛びこんできて、やがて小さな蝶の群れに分かれ、いつのまにか消えた
- 26日:床下で木遣りの声がして、女の首が宙に出てあちこち飛びまわる
- 29日:朝から東西南北すべての方角から風が家の中へ吹きこみ、日が暮れると星まで吹きこんでくる

プレ男毎日こんなのが来て、ずっと家にいたの!?ぼくなら初日に逃げる…。
- じっさい記録では、家来の権平は病気だと言って来なくなります。親類も「いっしょに住もう」とすすめますが、語り手は「少しのことをおそれて家を空けたと言われるのも口惜しい」と、ひとりで家にのこりました
晦日:裃の男は「三千世界の魔王」
- 7月晦日の夜。しばらく何も起こらず、「もう出しつくしたか」と思っていると、障子が一枚残らず開き、浅黄小紋の裃を着て刀をさした、四角四面の男が座っていました
- 男は「長々と御家へ参り、乱暴をしたおわびに、仮に人間の姿になって、わけを話しに来た」と言います。語り手が脇差で斬りつけても手ごたえはなく、「刃物で斬られる者ではない」。その声は石と石をたたくように、耳をつきぬける声でした
- そのあとも、こたつの灰がふくれあがって大きな頭になり、そこからミミズが這いだすという怪異が続きます(語り手はミミズが大きらいでしたが、歯をくいしばってこらえました)
- やがて男は、自分のことを話しはじめます
- 自分は出雲大社に願い出てゆるされ、三年前に日本へ渡ってきた「三千世界の魔王」である
- 自分におとらない魔王がもう一人いる。どちらを上にするかを決めるため、十六歳になった、とくに気の強い人間を、通力でいろいろに化けておどかし、百人の正気を失わせたほうが上になると約束した
- 「われは仮名山本太郎左衛門と申す。われ同様の魔王は、仮名信野悪太郎と申す」
- 唐・天竺・日本で、百人のうち八十五人は思うようにたぶらかしたが、語り手には秘術をつくしてもかなわなかった。これで悪太郎の下につくことになる、と歯ぎしりして悔しがった

メル美1か月の怪異は、魔王どうしの勝負のためだったんだ。それで、最後まで怖がらなかったから魔王の負け、と。
魔王が残した「木の槌」
- 魔王は「もし悪太郎が来たら、この槌で西南の間の縁を思いきりたたけ。すぐに自分があらわれる」と言い、槌を差し出します。そして「五十年たつまでは、親類にも見せてはならない」と言いのこしました
- 魔王が駕籠(かご)に乗ると、まわりには数しれない化け物が宙を歩いており、駕籠は雲の中へ入っていきました
- 語り手は「夢ではないか」と思い、縁に爪で傷をつけておきます。夜が明けると、爪のあとはたしかに残っていました
- 記録には続けて「槌之次第覚」という覚え書きがあり、槌を箱に入れて土に埋め、引っ越しのたびに掘り出しては埋めなおした経過が、年月日つきで書かれています。最後は享和2年(1802年)6月8日に国前寺(こくぜんじ)に預け、また本文の末尾には、この直書を弘化元年に国前寺へ納めたとあります
三次市と《稲生物怪録》
- 三次市には湯本豪一記念日本妖怪博物館(三次もののけミュージアム)があり、常設展示室「稲生物怪録」があります。三次市のニュースリリースでも、《稲生物怪録》は「三次を舞台にした」妖怪物語と紹介されています
- 三次市の発表(2024年8月22日)によると、市は個人の所蔵だった三次市重要文化財『稲生物怪録絵巻(堀田家本)』(全3巻、平成7年4月21日指定)の寄附を、2024年3月23日に受けました
- 同じ発表では、この堀田家本は《稲生物怪録》の作品としていま最も一般に知られている一方、ほかの系統の絵巻には見られない要素をもち、後に大きく創作が加えられた作品と考えられるとも説明しています
- つまり《稲生物怪録》には、いくつもの本や絵巻があり、それぞれ中身がちがいます。この記事で紹介した魔王の名「山本太郎左衛門」「信野悪太郎」も、青空文庫の『三次実録物語』での書き方です

『三次実録物語』では、寛延2年(1749年)7月1日から晦日まで毎晩怪異が続き、最後の晩に裃の男が「三千世界の魔王」「仮名 山本太郎左衛門」と名のって、木の槌を残して去ります。《稲生物怪録》には本や絵巻がいくつもあり、中身はそれぞれちがいます。
まとめ
- 《稲生物怪録》は、備後の三次(広島県三次市)を舞台にした妖怪物語。青空文庫の『三次実録物語』は稲生武太夫の名で伝わる
- 始まりは、相撲取りの権八と比熊山でした百物語。そのときは何も起こらず「化物はなきもの」と山をおりた
- 寛延2年(1749年)7月1日から晦日まで、燃える行燈・凍った水・目と指のある石・ひとりでにはく箒など、毎晩ちがう怪異
- 晦日に、裃の男が「三千世界の魔王」「仮名 山本太郎左衛門」と名のり、十六歳の気の強い人間を百人おどかす勝負に負けたと明かす
- 魔王は木の槌を残して雲の中へ。槌はのちに国前寺に預けられたと記録にある
- 三次市には三次もののけミュージアムがあり、三次市重要文化財『稲生物怪録絵巻(堀田家本)』を2024年に寄附で受けた
- 毎晩の怪異でも「気のせい?」と思うなら、金縛りにマジレスもどうぞ
参考文献
- 稲生武太夫. 三次実録物語(底本:平田篤胤が解く 稲生物怪録、角川書店、2003年。底本の親本:妖怪 いま甦る 「稲生武太夫 妖怪絵巻」の研究、三次市教育委員会、1996年). 青空文庫. https://www.aozora.gr.jp/cards/002176/card60788.html (閲覧日:2026年10月22日)
- 三次市. 三次市重要文化財『稲生物怪録絵巻(堀田家本)』の寄附受納と特別展示について(令和6年8月22日). https://www.city.miyoshi.hiroshima.jp/uploaded/attachment/23228.pdf (閲覧日:2026年10月22日)
- 三次市. ニュースリリース 三次もののけミュージアム春の企画展と関連イベントの開催について(令和5年2月9日). https://www.city.miyoshi.hiroshima.jp/uploaded/attachment/15096.pdf (閲覧日:2026年10月22日)
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診断・治療に代わるものではありません。 気になる症状や不安がある場合は、医療機関にご相談ください。

