
プレ男出世のために奥さんと別れて、あとで後悔する話…。耳が痛い人、多そう。

メル美題名は「和解」。でも、ただの仲なおりの話じゃないみたい。
今回は、小泉八雲の『Shadowings』(1900年)に入っている「THE RECONCILIATION」です。英語の原文を Project Gutenberg で読みました。題名の「和解」と、本文中の「」の言葉は、英語の原文から Claude が訳したものです。
どんな話?
| 題名 | THE RECONCILIATION(和解) |
| 作者 | 小泉八雲(ラフカディオ・ハーン) |
| 収録 | 『Shadowings』(1900年)の「STORIES FROM STRANGE BOOKS」の1編め |
| もとになった本 | 八雲の注では『Konseki-Monogatari』 |
| 舞台 | 京都と、侍がつとめた遠い国 |
| 主な人物 | 京都の若い侍/離縁された最初の妻/二番目の妻 |
出世のための離縁
- 京都の若い侍は、主家がほろびて貧しくなり、遠い国の国守のもとへつとめに出ることになりました
- 都を発つ前、侍は妻を離縁します。妻はよくできた、美しい人でした。ほかの家と縁を結んだほうが出世しやすい、と考えたのです
- 侍は、それなりに名のある家の娘と結婚し、新しい任地へ連れていきました
つのる悔い
- 若さゆえの浅はかさと、貧しさのつらい経験のせいで、侍には、自分が軽々しく捨てた愛情の値うちがわかっていなかった、と八雲は書きます
- 二度めの結婚は幸せではありませんでした。新しい妻は冷たく、自分のことばかり。侍は京都の日々を思いだしては悔やみ、自分がまだ最初の妻を愛していることに気づきます
- やさしい話し方、ほほえみ、どこまでも辛抱づよかったこと。夢には、苦しい年月、夜も昼も機を織って家計を助けてくれた姿や、自分が置いていったさびしい小部屋で、すり切れた袖で涙をかくしている姿があらわれました
- 妻はほかの夫をもたないだろう、自分を許してくれるだろう——侍は心の中でそう信じて、京都へ帰ったら妻をさがし、許しを乞い、つぐないをしようと決めます。けれど、年月はすぎていきました
9月10日の夜
- ようやく国守の任期が終わり、侍は自由の身になりました。子どものいなかった二番めの妻は実家に帰し、京都へいそぎます。旅の服を着がえる間も惜しんで、まっすぐ妻のもとへ
- 着いたのは夜ふけ、9月10日の夜。町は墓地のように静まりかえっていましたが、明るい月の光で、家はすぐに見つかりました
- 屋根には丈の高い草がのび、人の住むけはいがありません。戸は内から締まっておらず、入ると、畳もない空っぽの部屋に冷たい風が吹きこみ、床の間の壁の破れ目から月が差していました
- それでも侍は、いちばん奥の、妻が好んでいた小さな部屋へ。ふすまのむこうに、灯りのけはいがありました
灯りの下の妻
- ふすまをあけると、妻がいました。紙の行灯の明かりで、縫い物をしています。目があうと、妻はうれしそうにほほえんで、たずねるだけでした。「いつ京都へお帰りに? あの暗い部屋をぬけて、どうやってここまで来られたの?」
- 年月は、妻を少しもかえていませんでした。いちばん大切な思い出の中と同じように、美しく若いまま
- 侍は妻のそばに座って、すべてを話しました。自分勝手だったことをどれほど悔いたか、どれほどつらかったか。何度も何度も許しを乞います
- 妻はやさしく、自分を責めるのはやめてと言いました。わたしはあなたの妻にふさわしくないと、いつも思っていた。別れたのは貧しさのためだとわかっていたし、いっしょにいたあいだ、あなたはいつもやさしかった。あなたの幸せを祈らない日はなかった。こうしてほんのひととき会えるだけで、何よりの幸せです、と

メル美「ほんのひととき」って、妻のほうが言うんだね…。
「七たび生まれかわるまで」
- 「ほんのひととき!」と侍は笑います。「七たび生まれかわるまでと言っておくれ。おまえがいやでなければ、ずっといっしょに暮らす。もう貧しさをおそれることはない。あしたには荷物も召使いもここへ来て、この家を美しくしよう」
- 妻はたいそうよろこび、侍が去ってからの京都のできごとを話しました。ただ、自分の悲しみのことだけは、話そうとしませんでした
- 夜がふけると、妻は侍を、南向きのあたたかい部屋へ案内します。むかし、二人が新婚のころの部屋でした。「手伝ってくれる人はいないのかい」「いいえ。召使いをおく余裕がなくて、ずっとひとりで暮らしていました」と妻は明るく笑います
- 二人は横になっても眠らず、昔のこと、いまのこと、これからのことを、夜が白むまで語りあいました。そして侍は、思わず目を閉じて眠りました
朝の光の中で
- 目をさますと、雨戸のすきまから日の光が差しこんでいました。侍は、朽ちかけた床のむきだしの板の上に寝ていたのです
- 夢だったのか。いいえ、妻はそこにいて、眠っていました。かがみこんで見た侍は、悲鳴をあげます。眠っている人には、顔がなかったのです
- 目の前にあったのは、経かたびらだけに包まれた女の亡骸でした。骨と、長くもつれた黒髪のほかは、ほとんど何も残っていないほどの

夜明けまで語りあった妻は、朝の光の中では、骨と長い黒髪だけが残る亡骸でした。近所の人によると、妻が亡くなったのは、侍が去ったその年の秋の、9月10日でした。
9月10日に亡くなった人
- ふるえながら日の光の中に立ちつくすうちに、氷のような恐怖は、たえがたい絶望と痛みにかわっていきました。侍は、あざけるような疑いの影にすがります
- このあたりを知らないふりをして、妻が住んでいた家への道をたずねました。たずねられた人は答えます
- 「あの家には、だれもいませんよ。何年か前に都を出ていった侍の奥さんの家でした。旦那さんは、よそへ行く前に、ほかの人と結婚するために奥さんを離縁したんです。奥さんはひどく思いつめて、病気になりました。京都に身よりもなく、世話をする人もいなくて、その年の秋に亡くなりました。9月10日に……」
- 話は、そこで終わります
読みどころ
- 同じ日付:侍が帰りついたのは9月10日の夜。妻が亡くなったのも、何年も前の9月10日でした。最後の一行で、二つの日付が重なります
- 妻は何も責めない:妻は最後まで侍を責めず、自分の悲しみも語りません。それを知ったうえで朝の光景を読むと、題名の「和解」がいっそう重く感じられます
- 暗い部屋をぬけて:「あの暗い部屋をぬけて、どうやってここまで」という最初のひとことは、読みかえすと、奥の小部屋だけに灯りがともっていたことのふしぎさを示しています
- 似た筋の話:長く留守にした夫が、待っていた妻と再会して一夜をすごし、朝になると——という筋は、上田秋成『雨月物語』の「浅茅が宿」にもあります。亡くなった人がもう一度会いにくる話には、八雲の「お貞のはなし」も。同じ『Shadowings』からは「衝立の乙女」を紹介しています
まとめ
- 「THE RECONCILIATION」は、小泉八雲『Shadowings』(1900年)の一編。八雲の注では『Konseki-Monogatari』から
- 京都の若い侍が、出世のためによくできた妻を離縁し、遠い国で再婚するが、悔いがつのる
- 任期が明けて帰った9月10日の夜、荒れ家の奥の小部屋で、妻は昔のままの姿で迎え、二人は夜明けまで語りあう
- 朝、侍のそばにあったのは、骨と黒髪だけの亡骸だった
- 妻は、侍が去ったその年の秋、9月10日に亡くなっていた
参考文献
- Lafcadio Hearn. Shadowings(Boston: Little, Brown, and Company. Copyright 1900). “The Reconciliation”. Project Gutenberg. https://www.gutenberg.org/ebooks/34215 (閲覧日:2026年10月22日)
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