
メル美絵に恋をする話なんだって。こわい話じゃないの?

プレ男推しのポスターに話しかける気持ちなら、ちょっとわかる…。
今回は、小泉八雲の『Shadowings』(1900年)に入っている「THE SCREEN-MAIDEN」です。英語の原文を Project Gutenberg で読みました。題名の「衝立の乙女」と、本文中の「」の言葉は、英語の原文から Claude が訳したものです。
どんな話?
| 題名 | THE SCREEN-MAIDEN(衝立の乙女) |
| 作者 | 小泉八雲(ラフカディオ・ハーン) |
| 収録 | 『Shadowings』(1900年)の「STORIES FROM STRANGE BOOKS」 |
| もとになった本 | 八雲の注では『Otogi-Hyaku-Monogatari』(御伽百物語)。作者は Hakubai-En Rosui |
| 舞台 | 京都の室町という通り |
| 主な人物 | 若い学者 Tokkei(トッケイ)/年老いた学者/衝立の絵の娘 |
「絵が生きる」という話
- 八雲はまず、もとの本の作者の言葉を紹介します。中国や日本の本には、あまりに美しくて見る人にふしぎな力をおよぼす絵の話がたくさんある。花や鳥や人の姿が、紙や絹から抜けだして、自分の意思で本当に生きるようになるのだ、と
- そして、近ごろの世でも、菱川吉兵衛(Hishigawa Kichibei)の描いた「菱川の姿絵」の評判は広く知られている、と続けます
- 八雲の注によると、この画家は17世紀の後半に活躍し、1680年ごろに名をあげて、浮世絵の挿絵の流れを開いたといってよい人です
古道具屋の衝立
- 京都の室町に住む若い学者 Tokkei は、ある晩、人をたずねた帰りに、古道具屋の店先に出ていた古い一枚の衝立(ついたて)に目をひかれます
- 紙を張っただけの衝立ですが、そこに娘の全身の姿が描かれていました。値段はとても安く、Tokkei は買って帰ります
- ひとりの部屋で見なおすと、絵は前よりずっと美しく見えました。15、6歳の娘の、本物の肖像のよう。髪も目もまつ毛も口もとも、ほめようのないほど細やかに描かれています。いまにも話しかければ返事をしそうでした
絵への恋
- 見つめているうちに、Tokkei は絵の魅力にとりつかれていきます。「こんなに美しい人が、本当にこの世にいたのだろうか。ほんのひととき抱きしめられるなら、命も、千年の命もさしだすのに」
- 絵の人のほかには、だれも愛せないと思うほどでした。けれど、その人がもし生きていても、もう絵とは似ていないはず。もしかしたら、自分が生まれるずっと前に亡くなっているかもしれません
- 思いは日ごとにつのり、食べることも眠ることもできず、好きだった学問も手につきません。何時間も絵の前に座って話しかけ、とうとう病気になって、死ぬのではないかと思うほどになりました

プレ男寝られない、食べられないって、もう「推し」どころじゃないね。
老学者の教え
- Tokkei の友人に、古い絵のことにも若い心のことにもくわしい、年老いた学者がいました。見舞いに来て衝立を見ると、何が起きたのかすぐにわかります。Tokkei は打ちあけました。「こんな人が見つからなければ、ぼくは死ぬ」
- 老学者は言います。「その絵は菱川吉兵衛が、生きた人を前にして描いたものだ。描かれた人はもうこの世にいない。けれど、吉兵衛は姿だけでなく心も描いた、だから絵の中に魂が生きているといわれている。あなたはその人と結ばれることができると思う」
- 「その人に名前をつけなさい。毎日絵の前に座って、その人のことだけを思い、つけた名前でやさしく呼びつづけるのだ。返事をするまで」
- 「返事をしたら、百軒のちがう酒屋で買った酒を一杯さしあげなさい。そうすれば衝立から出てきて、酒を受けとるだろう。そのあとどうすればいいかは、たぶん本人が教えてくれる」
「はい」
- Tokkei はすぐに絵の前に座り、ある娘の名前で、何度も何度もやさしく呼びかけました。どんな名前だったかは、もとの本の作者が書きわすれている、と八雲は言います
- その日も、次の日も、その次の日も、返事はありません。それでも Tokkei はあきらめず、何日もたったある晩、とつぜん絵が名前に答えました。「はい」
- 急いで、百軒の酒屋の酒を小さな杯に注いで、うやうやしくさしだします。娘は衝立から歩みでて、畳の上を歩き、ひざまずいて杯を受けとり、ほほえんでたずねました。「どうして、そんなにわたしを好きになってくださったの?」

老学者の教えは、絵の娘に名前をつけて、返事をするまで呼びつづけ、返事をしたら百軒の酒屋の酒をさしあげる、というものでした。何日もたったある晩、絵は「はい」と答えます。
七たび生まれかわるまで
- もとの本の作者によると、娘は絵よりずっと美しく、爪の先まで美しく、心も気だてもやさしかったそうです。Tokkei が何と答えたかは記されていない、想像するしかない、と八雲
- 「でも、すぐにわたしにあきてしまうのでは?」「生きているかぎり、決して!」「そのあとは?」。日本の花嫁は、ひと世かぎりの愛では満足しない、と八雲は書きそえます
- 二人は「七たび生まれかわるまで」いっしょにいることを誓います。娘は言いました。「もし冷たくされたら、衝立にもどります」
- 八雲は、Tokkei はきっといい人だったのだろう、と書きます。花嫁は二度と衝立にもどらず、衝立の上の娘がいた場所は、白いまま残りました
- もとの本の作者は、最後にこう嘆いています。「こんなことは、この世にめったに起こらない」
読みどころ
- こわくない怪談:幽霊も化け物も出てきません。絵の中の人が出てくるのは、まごころで呼びつづけた人のところへだけ。百物語の本に入っていながら、恋の成就の話になっています
- 衝立の白い余白:娘が出てきたあと、衝立には娘のいた場所だけが白く残る。二人がしあわせに暮らしたことを、その余白が語っています
- 「冷たくされたら、もどります」:結ばれたあとも、娘はいつでも帰れる。その一言が、愛を保つための約束になっています
- 人ではないものと結ばれる話は、八雲の「青柳のはなし」にも。古い絵の中の人に呼ばれる話としては、幸田露伴の観画談があります
まとめ
- 「THE SCREEN-MAIDEN」は、小泉八雲『Shadowings』(1900年)の一編。八雲の注では『御伽百物語』から
- 京都・室町の若い学者 Tokkei が、古道具屋で娘の描かれた衝立を買い、絵に恋をして病の床に
- 老学者の教え:名前をつけて返事をするまで呼びつづけ、返事をしたら百軒の酒屋の酒を
- ある晩、絵は「はい」と答え、娘は衝立から出てくる。二人は七たび生まれかわるまでを誓う
- 花嫁は二度と衝立にもどらず、娘のいた場所は白いまま残った
参考文献
- Lafcadio Hearn. Shadowings(Boston: Little, Brown, and Company. Copyright 1900). “The Screen-Maiden”. Project Gutenberg. https://www.gutenberg.org/ebooks/34215 (閲覧日:2026年10月22日)
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