
メル美『雨月物語』って、江戸時代の怪談集だよね。「浅茅が宿」はどんな話なの?

プレ男帰りを待ちつづけた妻の話なんだって。こわいというより、せつない話らしいよ。
今回は、上田秋成の『雨月物語』巻之二「浅茅が宿」(あさじがやど)です。青空文庫の「現代語訳 雨月物語」(上田秋成著、鵜月洋訳。底本:角川文庫『改訂 雨月物語 現代語訳付き』)で読みました。本文中の「」の言葉は、この現代語訳からの引用です。
「今年の秋にはきっと帰るよ」
- 下総の国葛飾郡真間の里に、勝四郎という男がいました。祖父の代から豊かな家でしたが、のんきな性格で農業をきらい、貧しくなってしまいます
- 家運を立てなおそうと、勝四郎は残った田をすべて売って白絹を買いこみ、都へ商いに出ることにしました
- 妻の宮木は、美しく、しっかりした人。思いとどまるよういさめましたが、勝四郎の決心はかたく、宮木はかいがいしく旅じたくをととのえます
- 「朝夕私のことをお忘れにならないで、早く帰ってきて下さい」と言う宮木に、勝四郎は「葛の葉が風に吹かれて裏返る今年の秋にはきっと帰ってくるよ。気づよく待っていなさい」となぐさめて、旅立ちました
戦乱の関東で、待ちつづける妻
- その年——享徳4年の夏、鎌倉公方の足利成氏と管領の上杉氏が争い、関東一円は大混乱になります。人々は山に逃げ、若者は兵にかり出されました
- 宮木も逃げたいと思いましたが、「この秋に帰るから待て」という夫の言葉をたよりに、家にふみとどまります
- 秋になっても、夫からの便りはありません。宮木はこう詠みました
身のうさは人しも告げじあふ坂の夕づけ鳥よ秋も暮れぬと
- 美しい宮木に言いよる人もいましたが、宮木はかたく操を守り、戸をしめて会おうともしませんでした。下女も去り、たくわえもつきていきます
7年、帰れなかった夫
- いっぽう勝四郎は、都で白絹を売りつくして大もうけしました。ところが帰ろうとすると、故郷は戦の巷になったといううわさ
- 木曾街道で山賊に荷物を奪われ、東の国には新しい関所ができて通れないと聞き、「妻もおそらくは生きていまい」と思いこんで、都へ引き返します。その途中、近江で熱病にかかり、知人の家で看病されて、そのまま土地の人々と親しくなっていきました
- こうして7年が、夢のように過ぎてしまいます
- 世がまた乱れ、流行病が広がったとき、勝四郎は思いなおします。妻を忘れ故郷を忘れて長い年月を過ごしたのは、「不実なわが心から」だった。せめて墓をつくろう——そして五月雨のころ、故郷へ帰りました

プレ男7年は長すぎるよ…。宮木はずっと待っていたのに。
荒れはてた家に、灯り
- 故郷はすっかり荒れ、むかしの道も家もわかりません。けれど、雷に裂かれた松が星明かりに見え、それをめじるしに家にたどりつくと、家は残っていて、戸のすきまから灯りがもれていました
- せきばらいをすると、「どなたですか」——ふけてはいるけれど、まさしく妻の声でした
- 戸をあけた宮木は、垢にまみれて色黒く、目はくぼみ、髪も乱れて、昔の美しい宮木とは思えないほどのかわりようでした。宮木は、ものも言わずに泣きました
- 宮木は、恐ろしい世の中でも、言いよる男をしりぞけ、「狐やふくろうを友として」きょうまで待っていたと語り、「おめにかかれたいまは、長い間のうらみもすっかりはれて、うれしく存じます」と言います
- 勝四郎は「夜は短いのだから、また明日のことにして」となぐさめ、二人はともに眠りました
朝、目をさますと
- 明け方、なんとなく寒くて夜着をかけようとすると、さらさらと音がします。顔に冷たいものがこぼれ、目をあけると、屋根は風にめくられ、有明の月がほの白く見えていました
- 家は戸もないほど荒れはて、床のくずれたすきまから荻やすすきが生え、その朝露に袖がぬれていました。いっしょに寝たはずの妻の姿は、どこにもありません
- むかしの寝室の床をはずして土を盛った塚があり、そこに、古い紙をはった木の札が。妻の筆跡で、一首の歌が書かれていました
さりともと思ふ心にはかられて世にもけふまでいける命か
- 現代語訳では、「夫は約束の秋に帰ってこなかったが、それにしてもきっと帰ってくると思う心に、われとわが身からだまされて、なんと今日まで生きながらえてきたこの身がいとおしいことだ」
- 勝四郎は、ここではじめて妻の死をたしかめ、大声をあげて泣きたおれました

メル美きっと帰ってくると思う気持ちに、自分がだまされて生きてきた…。この歌、つらすぎるよ。
漆間の翁の話
- 近くに住む、昔から村にいる漆間の翁が、事情を話してくれました。戦がはじまり村人が逃げても、宮木だけは「秋に帰る」という約束を信じて家を出なかった。そして翌年の8月10日に亡くなり、翁が自分で土を運んで葬り、臨終の筆跡を墓のしるしにしたのだと
- 翁は、この里に昔いた、美しすぎて多くの人に恋され、入江に身を投げた真間の手児女(てこな)の話もします。宮木の心は、手児女よりもどれほど悲しかったことだろう、と
- 勝四郎は、思いあまって一首を詠みました。「いにしへの真間の手児奈をかくばかり恋ひてしあらん真間のてごなを」

「浅茅が宿」の宮木は、夫の「秋には帰る」という約束を信じて、戦乱の中、荒れた家で待ちつづけました。帰ってきた夫を迎えた夜の妻は、すでにこの世の人ではなかったのです。
まとめ
- 「浅茅が宿」は、上田秋成『雨月物語』巻之二の一編。舞台は下総の国・真間の里
- 夫・勝四郎は「今年の秋にはきっと帰る」と都へ。関東は享徳の戦乱に
- 妻・宮木は、言いよる男をしりぞけ、荒れた家で待ちつづける
- 7年後に帰った夫を、やつれた妻が迎え、二人は眠る。翌朝、家は廃屋、妻の姿はなく、塚と辞世の歌だけが
- 「さりともと思ふ心にはかられて世にもけふまでいける命か」
- 小泉八雲の怪談は乳母桜、幽霊と恋の話は牡丹灯籠、『雨月物語』の菊花の約もどうぞ
参考文献
- 上田秋成(鵜月洋訳). 現代語訳 雨月物語(底本:角川文庫『改訂 雨月物語 現代語訳付き』KADOKAWA). 青空文庫. https://www.aozora.gr.jp/cards/001271/card60609.html (閲覧日:2026年10月12日)
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