
プレ男「菊花の約」って、きれいな題名だね。どんな約束なの?

メル美菊の節句に会おう、っていう男どうしの約束なの。命をかけて守られるんだって。
今回は、上田秋成の『雨月物語』巻之一「菊花の約」(きっかのちぎり)です。青空文庫の「現代語訳 雨月物語」(上田秋成著、鵜月洋訳。底本:角川文庫『改訂 雨月物語 現代語訳付き』)で読みました。本文中の「」の言葉は、この現代語訳からの引用です。
※この話には、自ら命を絶つ場面や、人を斬る場面があります。
「交際は軽薄な人と結んではならない」
- 物語は、こう始まります。春に青々と茂る柳も、秋風がひと吹きすれば散ってしまう。「交際は軽薄な人と結んではならない」。軽薄な人はまじわりやすいが、離れるのもはやいからだ——
病の武士を救った学者
- 播磨の国加古の宿に、丈部左門(はせべさもん)という学者がいました。書物のほかは何もいらないという清貧の人で、年老いた賢い母と暮らしていました
- ある日、左門は、知人の家に泊まった旅の武士が、たちの悪い高熱で苦しんでいると聞きます。家の主人は「はやり病は人をそこなうから近寄らないほうがいい」と止めますが、左門は笑って、「死生命あり」(人の寿命は天命の定めるところ)と言い、病人の部屋に入りました
- 左門は自分で薬を考えて煎じ、粥を炊いて食べさせ、「まるで兄弟にたいするように」手厚く看病します。武士は涙を流して感謝しました
- 武士の名は赤穴宗右衛門(あかなそうえもん)。出雲の国の人で、仕えていた城主が討たれ、故郷へ帰る途中で病にたおれたのでした
義兄弟の契りと「九月九日」
- 二人は話すうちに心がぴったりと合い、義兄弟の契りを結びます。赤穴が5歳年上なので兄。赤穴は、左門の老母を自分の母としてあがめました
- 初夏、赤穴は出雲のようすを見に帰ることにします。「いつお帰りになりますか」とたずねる左門に、赤穴は答えました。「九月九日、重陽の佳節をもって帰ってくる日ときめましょう」
- 左門は「当日、私は、一枝の菊花に、気持だけの粗酒を用意してお待ち申しあげております」と念をおし、二人は別れました

プレ男9月9日の重陽の節句に、菊を生けて待つ約束。だから「菊花の約」なんだね。
約束の日、朝から夜まで
- 9月9日。左門はいつもより早く起き、家をきれいにそうじして、黄菊白菊を小瓶に生け、なけなしのお金で酒と肴を用意します
- 母は「出雲は百里も離れているのだから、きょうとはかぎらない。来てから支度しても遅くはない」と言いますが、左門は「赤穴は信義を重んずる武士ですから、かならず約束をたがえることはありません」
- よく晴れた日でした。旅人が行きかい、昼がすぎ、夕日が沈んでも、赤穴は来ません。母に「家に入って休み、また明日を待ちなさい」と言われ、母を先に休ませた左門は、もう一度だけ外に出てみます
- 月も山の端に入り、もうこれまでとあきらめて戸をしめようとしたとき——おぼろな黒い影の中に人の姿が見え、風に吹かれるようにこちらへやってきます。赤穴宗右衛門でした
「私はもはやこの世の人間ではありません」
- 左門はおどりあがって喜び、客間に案内して酒肴をすすめますが、赤穴はうなずくだけで、ものも言いません。袖で顔をおおい、料理の匂いをさけるようにします
- しばらくして、赤穴はようやく口を開きました。「けっして怪しみ驚かないで下さい。じつは、私はもはやこの世の人間ではありません。けがれた死霊が、かりに人間の姿をしてあらわれたのです」
- 故郷の出雲では、みな新しい城主・尼子経久になびいていました。赤穴は従弟の赤穴丹治の取りなしで経久に会いますが、仕える気になれず、去ろうとします。ところが経久は気に入らず、丹治に命じて赤穴を城に閉じこめたのです
- 約束を破れば、左門にうそつきと思われる。けれど、逃げだす方法がない。そのとき、古人の言葉を思い出しました。「人は一日に千里を行くことはできないが、魂は一日に千里を行くことができる」
- 「私は、自害し、今夜、陰風にのって、はるばると菊花の約に馳せ参じたのです」——そう言って涙を流し、「どうか母上によく孝養をつくして下さい」と言うと、かき消すように見えなくなりました

メル美約束を守るために、命を絶って魂になって来るなんて…。こわいより、悲しい。
信義には信義を
- 左門は母に事情を話し、出雲へ向かいます。飢えても食べず、寒さも気にかけず、十日ののちに富田の城下に着きました
- 左門は赤穴丹治をたずね、中国の故事を引いて、こう責めます。兄の宗右衛門は旧主への恩を守り、菊花の約のために命を捨てた。おまえは尼子にこびて、血縁の宗右衛門を非業の死に追いやった。「私はいま信義のためにわざわざここにきたのだ。貴様はまたここで、不義のために長く汚名をのこすがいい!」——そう言うなり、左門は丹治を一太刀で斬り、姿をくらましました
- この話を伝え聞いた尼子経久は、二人の信義のあついまじわりに深く感動し、左門の跡を追わせなかった、と物語は結ばれます

「菊花の約」で、赤穴は「魂は一日に千里を行くことができる」という古人の言葉を思い出し、九月九日の約束を守るために、亡霊となって左門のもとにやってきます。
まとめ
- 「菊花の約」は、上田秋成『雨月物語』巻之一の一編
- 播磨の学者丈部左門が、病の武士赤穴宗右衛門を救い、二人は義兄弟に
- 約束は「九月九日、重陽の佳節」。左門は菊を生け、朝から夜まで待つ
- 城に閉じこめられた赤穴は「魂は一日に千里を行く」と、自ら命を絶ち、亡霊となって約束を守る
- 左門は出雲へ行き、信義にそむいた丹治を斬る。物語は「交際は軽薄な人と結んではならない」で始まり、結ばれる
- 同じ『雨月物語』の浅茅が宿、小泉八雲の乳母桜もどうぞ
参考文献
- 上田秋成(鵜月洋訳). 現代語訳 雨月物語(底本:角川文庫『改訂 雨月物語 現代語訳付き』KADOKAWA). 青空文庫. https://www.aozora.gr.jp/cards/001271/card60609.html (閲覧日:2026年10月12日)
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