
プレ男「こま犬」って、神社の入口にいる、あの狛犬?

メル美そう。でも狛犬が出てくるのは、物語のいちばん最後なの。
今回は、岡本綺堂の短編「こま犬」です。青空文庫の本文(底本:原書房『異妖の怪談集 岡本綺堂伝奇小説集 其ノ二』)で読みました。初出は『現代』1925年(大正14年)11月です。本文中の「」の言葉は、青空文庫の本文からの引用です。
※この作品には、人が亡くなる場面や、自ら命を絶つ場面が出てきます。
「青蛙堂鬼談」の拾遺
- 冒頭で語り手の「わたし」は、春の雪の宵に小石川の青蛙堂で聞いた怪談を「青蛙堂鬼談」に書いたが、その夜の話はまだたくさんある、と書きます。その拾遺としてまとめたのが「近代異妖編」で、「こま犬」はその一編です
- 語るのはS君。去年、父の十七回忌のために、8年ぶりで郷里の四国・讃岐のA村へ帰ったときの話です
小袋ヶ岡の啼き声
- 5月、小雨のつづくなかで法事がすみ、40〜50人の客に料理を出す席で、こんな話が出ます。「あの小袋ヶ岡の一件はほんとうかね」
- 村はずれの小袋ヶ岡は、天正のころ、長曽我部方の小袋喜平次秋忠が小さな城をかまえた場所だと伝えられています。浮田(宇喜多)秀家・小西行長の軍に攻められて落城し、岡の中ほどの小袋明神の社だけが焼けずにのこりました
- その明神も、明治のはじめの大水で社も神体も流され、祭神のはっきりしない神社は再建されないまま。社殿の土台石だけが残る場所は「明神跡」と呼ばれていました
- その明神跡のあたりで、このごろ夜9時すぎになると、不思議な啼き声がする。人でも鳥でも虫でもなく、獣の声らしく、「池の底でむせび泣くような悲しい声」。東から聞こえるかと思えば西から、と方角も定まらず、村の青年団が交代で探っても正体がわからない
- S君の兄は、蛇だ、梟だ、獣だ、こんどは「石が啼く」と言いだした者もいる、と笑います。「夜啼石」の伝説から思いついたのだろう、と
昼の明神跡で出会った二人
- 雨のあがった午後、S君はなんとなく小袋ヶ岡へ足を向けます。栗の林の細い道で出会ったのは、町の肥料商・山木の娘、辰子(20歳)。あいさつをかわして、すれちがいました
- 荒れはてた明神跡で、土台石らしい大きな石を見つけたとき、うしろの草むらから、縞の洋服にステッキの痩せた男(28、9歳くらい)があらわれます
- 「いったい、ほんとうでしょうか」と聞くS君に、男は「ほんとうかも知れません」と、思いのほかまじめに答えます
- そしてステッキで、青すすきのかげに傾いて埋まっている四角い大きな石を指しました。「もし果して石が啼くとすれば、あの石らしいのです」。理由をたずねると、「ただ、なんとなくそういう気がしたのです」

メル美理由もないのに「あの石らしい」って…。この人、何か感じていたのかな。
同じ石に腰かけて
- その夜、青年団が大勢で探険に出ます。翌朝、兄が駐在所で聞いてきた知らせは、町の中学の理科の教員Mが、明神跡の石に腰かけたまま冷たくなっていた、というものでした。死因ははっきりしません。年ごろも人相も、S君がきのう会った男によく似ていました
- 兄は「昔ならば明神の祟りとでもいうのだろう」と苦々しく言います
- つぎの夜、こんどは辰子が、同じ石に腰かけて亡くなっているのが見つかりました。自ら命を絶ったのでした
- 二人は思いあう仲だったのか、それぞれ別の事情があったのか。村ではいろいろな説が出ますが、わかりません。そして、まわりにいくつも石があるのに、なぜ二人とも同じ石を選んだのか
石の下から出てきたもの
- 村の人たちは相談して、その石を掘り出すことにします。細かい雨のふりだした日、青年団が総出で、駐在所の巡査も立ちあいました
- 四角い石はわりあい浅く、すぐに土から引き出せた。そのそばをさらに掘ると、小さな石の狛犬があらわれます
- 狛犬の首には、長さ一間あまりの黒い蛇が巻きついていました。蛇は人を見ても逃げず、狛犬の首をしめつけているように見えた。大勢は、なんだか憎らしいような怖ろしいような気持ちになって、夢中で蛇を打ち殺してしまいます
- 四角い石は、狛犬の台石だったのでした。狛犬なら一対のはずだと近くを掘ると、もうひとつの台石らしいものは見つかったものの、犬の形はついにあらわれませんでした
- MがS君にステッキで示した「あの石」は、たしかにこの台石だった。Mも辰子も、狛犬の埋められた土の上で、その石に腰かけて亡くなったのです
- S君はその後10日ほど滞在しましたが、狛犬が掘り出されてから、小袋ヶ岡に怪しい啼き声はきこえなくなったそうです

プレ男啼いていたのは、蛇にしめつけられていた狛犬だったのかな…。でも、はっきりとは書いてないんだね。
読みどころ
- 「怪談に興味のない語り手」:S君も兄も、こういう話には「全然無趣味」。そのS君が最後に「なんだか変な心持にもなって来た」と言うところに、こわさがあります
- 説明しない結末:啼き声の正体、二人が同じ石を選んだわけ、蛇がいつから巻きついていたのか。どれも「やはり判らない」とされ、ただ、狛犬が出たあと声がやんだことだけが書かれています
- 土地の歴史と結びついた怪異:戦国の城あと、明治の大水で流された明神、祭神のはっきりしない社が再建されなかったこと。忘れられた神社のあとに、怪異が起きる形になっています

作中では、二人が同じ石を選んだわけを「有意か無意か、そこに何かの秘密があるのか、そんなことはやはり判らない」としています。綺堂は、啼き声の正体をはっきり書いていません。
まとめ
- 「こま犬」は岡本綺堂の短編。初出は『現代』1925年11月。青蛙堂の怪談会の拾遺「近代異妖編」の一編
- 讃岐の村はずれ、戦国の城あとの明神跡で、夜ふけに聞こえる正体不明の啼き声
- 「あの石らしい」と言った中学教員と、町の娘・辰子が、同じ石に腰かけて亡くなる
- 石を掘ると、首に黒い蛇が巻きついた石の狛犬。掘り出したあと、啼き声はやんだ
- 綺堂の木曽の旅人、河鹿、青蛙神もどうぞ
参考文献
- 岡本綺堂. こま犬(底本:『異妖の怪談集 岡本綺堂伝奇小説集 其ノ二』原書房、1999年). 青空文庫. https://www.aozora.gr.jp/cards/000082/card43545.html (閲覧日:2026年10月22日)
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