※この作品には、殺人と、犯人が自ら命を絶つ場面が出てきます。

プレ男山奥の一軒家に、知らない旅人がたずねてくる…。それだけでちょっとこわい。

メル美しかも、子どもと犬だけが、何かに気づいていたらしいの。
今回は、岡本綺堂の怪談「木曽の旅人」(きそのたびびと)です。青空文庫の本文で読みました。青空文庫の図書カードによれば、初出は1897年(明治30年)の「文藝倶樂部」です。本文中の「」の言葉は、青空文庫の本文からの引用です。
さびれた軽井沢の宿で
- 語り手のT君が、若いころの思い出を語ります。明治24年の秋、父と紅葉見物に出かけ、さびれきった軽井沢の宿にとまりました
- 冷たい雨の夕方、宿の炉ばたに、五十近い大男がやってきます。杣(そま)の重兵衛。五年ほど木曽の山奥にいて、この夏、故郷に帰ってきたのでした
- 山奥でこわいことはなかったかとたずねるT君に、重兵衛は、猟師が「えてもの」にからかわれる話をします。猿の年を経たものだとも言われるが、正体を見た者はいない。猟師の目にだけ、いないはずの鴨が見えて、それを追っていってしまう、と
- そして、「たった一度、なんだか判らずに薄気味の悪かったこと」を語りはじめます
杣小屋の夕暮れ
- 重兵衛は、6つの息子・太吉と二人きりで、御嶽山の黒沢口からさらに一里ほど奥の杣小屋に暮らしていました
- 九月末の夕方、ふだんは大あらしにも雷にもおどろかない太吉が、急に顔色を変えて父の膝にしがみつきます。「お父さん、怖いよう」
- 森の奥から、唄うような悲しい声がきれぎれに聞こえていました。重兵衛は「弱虫め」としかり、「天狗でも山の神でもえてものでも何でもここへ出て来てみろ」と、火のついた枝をふりまわして小屋の入口へ飛びだします
- そこに立っていたのは、ひとりの旅人でした。唄の主はこの人だったのです
愛想のいい旅人
- 旅人は二十四、五の若い男。色が少し蒼ざめ、頬がやせていますが、円い目は愛嬌があり、洋服に中折帽、肩に雑嚢という身軽なかっこう。福島のほうから来て、御嶽を越して飛騨へ行くと言います
- 旅人は、子どもがいるのに気づくと、海苔巻のすしを出してくれました。さらに、大きい壜詰の酒まで
- けれど太吉は、隅で小さくなったまま、どうしても近づきません。旅人の声を聞くと、またふるえて、父の背中にしがみつきました。気の短い重兵衛は、太吉を木の枝でたたいてしまいます

メル美ふだんは何もこわがらない子が、この人にだけおびえてるんだね…。
吠えたてる黒犬
- そこへ、猟師の弥七が、大きな黒い犬をつれてやってきます。犬は、小屋に一歩ふみこもうとしたとたん、うなりはじめました
- 重兵衛と弥七は酒を飲み、すしを食べます。旅人は、すすめられても、笑って首をふるだけ
- 弥七が犬に握り飯を投げてやると、犬は旅人の顔を見るなり、狂うように吠えたけって飛びかかろうとしました。太吉は泣きだします
- 帰りぎわ、弥七は重兵衛を表に呼びだしてささやきます。「今夜の客人は怪物(えてもの)じゃねえかしら」。この春、小屋をうかがいにきた大猿を、この黒がさとって咬み殺したこともあったのです
- 弥七は試しに空へ鉄砲を一発撃ちますが、旅人はくずれもせず、焚火の前に座ったままでした
「泊めてくれませんか」
- 重兵衛も、旅人を薄気味悪く感じはじめます。そばの大鉈に目をやり、いざとなったらと身がまえました
- 旅人は、今夜ここに泊めてくれないかとたのみます。重兵衛がことわると、旅人の目は、にわかに獣のようにけわしく変わった、と重兵衛には見えました
- 旅人は福島のほうへ引きかえすと言って、小屋を出ていきました。太吉は生きかえったように起きてきて、「あの人、きっとお化けだよ。人間じゃないよ」

プレ男やっぱり「えてもの」だったのかな…?
森の銃声
- 戸を閉めようとしたところへ、筒袖の男がやってきて、「二十四五の洋服を着た男は来なかったかね」
- 男がその方角へ急ぐと、まもなく森のなかで鉄砲の音がつづけて聞こえました。かけつけると、旅人がピストルをにぎって倒れていました
- 重兵衛があとで聞いた話では、旅人は甲府の人間でした。一週間ほど前、諏訪の温泉宿に、いやがる様子の若い女を無理につれてきたらしい男女がとまっていた。宿を出たあと、その女が殺されて路ばたにすてられているのが見つかり、つれの男に疑いがかかって、探偵が木曽路まで追ってきたのです
- 筒袖の男はその探偵でした。追いつめられた旅人は、探偵に二発撃ったがあたらず、自分の喉を撃って死んだ、と重兵衛は語ります
子どもと犬には、見えていた?
- 宿の亭主は言います。「じゃあ、その男のうしろには女の幽霊でも付いていたのかね」
- 重兵衛は答えます。「いや、俺にはまったくなんにも見えなかった。弥七にも見えなかったそうだ。が、小児はふるえて怖がる。犬は(中略)吠える。なにか変なことがあったに相違ない」
- T君の父は、「大人に判らないことでも小児には判る。人間に判らないことでも他の動物には判るかも知れない」
- 子どもと犬をおそれさせたのは、旅人の背負っている重い罪の影か、それとも殺された女の姿か。T君には判断がつきません。ただ、うしろが見られるような心持ちがして、太吉が父にとりついたように、父のそばへ寄っていった——外には、暗い雨が降りつづけていました

岡本綺堂の「木曽の旅人」で、重兵衛にも弥七にも何も見えませんでしたが、6つの太吉はふるえ、黒犬は吠えつづけました。何がそうさせたのか、物語は答えを出さずに終わります。
まとめ
- 「木曽の旅人」は岡本綺堂の怪談。初出は1897年「文藝倶樂部」(青空文庫の図書カード)
- 明治24年、さびれた軽井沢の宿で、杣の重兵衛が語る
- 御嶽山の奥の杣小屋に、すしと酒をふるまう若い旅人
- 6つの太吉はふるえ、猟師の黒犬は狂ったように吠えた。大人には何も見えない
- 旅人の正体は、女を殺して追われていた男だった
- 子どもと犬をおそれさせたのは、罪の影か、殺された女の姿か——答えは出ない
- 岡本綺堂の影、河鹿、田中貢太郎の死人の手もどうぞ
参考文献
- 岡本綺堂. 木曽の旅人. 青空文庫. https://www.aozora.gr.jp/cards/000082/card43574.html (閲覧日:2026年10月12日)
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診断・治療に代わるものではありません。 気になる症状や不安がある場合は、医療機関にご相談ください。