
プレ男子どもが急に、知らない人をこわがって泣く…。そういうことって、あるよね。

メル美この劇では、それにちゃんと理由があったの…。
今回は、岡本綺堂の一幕の戯曲『影』(かげ)です。青空文庫の本文(底本:メディアファクトリー『飛騨の怪談 新編 綺堂怪奇名作選』)で読みました。初出は『舞台』1936年(昭和11年)7月号です。本文中の「」の言葉は、青空文庫の本文からの引用です。
※この作品には、人を殺した事件と、自ら命を絶つ場面が出てきます。
十三夜の炭焼小屋
- 時は「現代」、秋の夜。相模の国、石橋山の古戦場に近い杉山の、わらぶきの炭焼小屋。月が明るく、梟が鳴いています
- 炭焼の重兵衛のところに、7歳の末っ子太吉が泊まりにきていました。ところが今夜にかぎって、太吉は寝床から這いだしてきて言います。「怖いよう」
- 遠くから、小唄を歌う声。「惚れて通うに何怖かろう」——その声が近づくと、太吉はたまらなくなって、奥へ逃げこみ、障子を閉めてしまいます
東京の旅人
- やってきたのは、25、6の、人柄のいやしくない旅人。洋服に登山帽、ゲートル、リュックサック。箱根を越えて甲州へ出るつもりだと言います
- 1か月ほど前、ちょうど十五夜の晩に家を飛びだし、東北、会津、越後、北国とまわって、東海道を汽車でもどり、今夜は熱海で降りた、と
- 旅人は、汽車で買った鮓の折詰を子どもにと出してくれます。ところが、ふだんは知らない人にもすぐ「おじさん、おじさん」となつく太吉が、旅人を一目見ると、土間のすみで小さくなってふるえるばかり
- 旅人は言います。「わたしはこの子ばかりじゃあない、誰にでも嫌われるような人間に出来ているんです」「取分けて女には嫌われたり、だまされたり……」

プレ男やさしそうな人なのに、子どもだけがこわがっている…。
芸者のおつや
- そこへ、熱海の芸者おつやが、少し酔って転がりこんできます。主人と喧嘩して飛びだした、5、6日かくまってほしい、と
- 旅人が出した酒で、おつやはすっかり陽気になり、旅人にも泊まっていけとすすめます。「邪魔なおじさん達を先へ寝かして仕舞って、あんたとあたしと差向いで、ゆっくり夜明しをしましょうよ」
- おつやが太吉を寝かしにいったとき、強い山風が吹きこんで、ランプの火が消えました
「トテモ凄いのよ」
- 暗くなった小屋の中。障子をあけて出ようとしたおつやは、急にぞっとして、しばらく口がきけなくなります
- 明かりがもどると、おつやは重兵衛を外へよびだし、蒼ざめた顔でささやきました。「焚火の前にいるあの人の影が……。トテモ凄いんで、ぞっとしたのよ」
- 「影が薄いというのか」「影が薄いんじゃない、凄いのよ。太ァちゃんの怖がるのも無理はない。あの人、確に唯の人じゃあないわ」
- おつやは、警察がやかましいからと理由をつけて、旅人の泊まりをことわります。旅人は「宿屋へも泊らずに、夜通し歩くことにしましょう」と、さびしく笑って去っていきました。重兵衛は、悪いことをしたような気がしてなりません
十五夜の晩に
- まもなく、村の青年団の二人が、提灯を持ってやってきます。「人殺しの犯人が今夜この山へ入り込んだと云うのだ」
- 東京・日本橋の酒屋の息子が、先月17日、旧暦の十五夜の晩に、なじみのカフェーの女給を向島へ連れだして、ピストルで撃ち殺し、店の金を持って逃げている——
- 二人が飛びだしていくと、山の奥でピストルの音。やがて駐在所の巡査が来て告げます。犯人は、巡査に一発撃ったあと、「今度は自分の額を撃って倒れた」

メル美十五夜の晩に家を出た、って言っていたのは…そういうことだったんだ。
「何かの影が附いていたのかなあ」
- おつやは言います。「あの人のうしろには殺された女の魂が、影のように附き纏っていたのかも知れないわ」「それでなけりゃあ死神だわ」
- 太吉は言います。「ああ、怖かったよ。あの人、屹とお化けだよ」
- はじめは笑っていた重兵衛も、つぶやきます。「今夜にかぎって、太吉が無暗にあの人を怖がるのは、なんだか不思議だと思っていたが……。やっぱりあの人には……。何かの影が附いていたのかなあ」
- 「ああ、なんにしても忌な晩だ」。梟の声、山風の音。焚火がしだいに暗くなって——幕

『影』では、おつやがランプの消えた暗がりで、焚火の前の旅人の影を見て「影が薄いんじゃない、凄いのよ」とおびえます。その影がなんだったのかは、劇の中でもはっきりとは語られません。
まとめ
- 『影』は岡本綺堂の一幕の戯曲。初出は『舞台』1936年7月号
- 十三夜の晩、石橋山の古戦場に近い炭焼小屋に、東京の若い旅人が立ち寄る
- だれにでもなつく7歳の太吉が、旅人だけを「怖いよう」とこわがる
- ランプが消えた暗がりで、芸者おつやは旅人の影にぞっとする——「凄いのよ」
- 旅人は、十五夜の晩に女給を撃って逃げていた男だった
- 「何かの影が附いていたのかなあ」
- 綺堂の青蛙神、影を踏まれた女、兜もどうぞ
参考文献
- 岡本綺堂. 影(一幕)(底本:『飛騨の怪談 新編 綺堂怪奇名作選』メディアファクトリー). 青空文庫. https://www.aozora.gr.jp/cards/000082/card49680.html (閲覧日:2026年10月12日)
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