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プレ男船幽霊って、「ひしゃくを貸せ」って言って、船に水を入れて沈めるやつでしょ?こわっ。

メル美小泉八雲が聞いた話では、ひしゃくじゃなくて「桶」なんだって。底を抜いてから渡すらしいよ。
日本の妖怪、今回は船幽霊(ふなゆうれい)です。妖怪を研究した井上円了の『迷信と宗教』(序は大正5年)と『迷信解』(明治37年)を青空文庫で、小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の『知られぬ日本の面影』第2集(英語、1894年)をプロジェクト・グーテンベルクの英語の原文で読みました。
プロフィール(井上円了・小泉八雲の本より)
| 名前 | 船幽霊(舟幽霊) |
| 出る所 | 海の上 |
| 起こること | 船のない所に船の形が見える、櫓(ろ)の音や人の呼び声が聞こえる(五島。円了『迷信と宗教』) |
| 八雲が聞いた話 | 盆の16日の夜、沖にいる船のまわりに死者が立ちあがり、「桶をくれ」と長い手をのばす |
| 身の守り方 | 桶は、底を抜いてから渡す(八雲) |
| 円了の見立て | 幻視や思いちがいから起こるもので、「幽霊の正体見たり枯れ尾花」のたぐい(『迷信解』) |

歌川国芳「大物浦平家の怨霊」1843〜47年ごろ、木版画の三枚続。海の上の船を、空にうかぶ平家の亡霊が取りかこむ場面。メトロポリタン美術館所蔵(JP1565、パブリックドメイン)。船幽霊そのものを描いた絵ではありません
五島の船幽霊:「船のない所に船の形」
- 円了は『迷信と宗教』の「離島の迷信」の段で、長崎の五島では船幽霊の説が広く信じられている、と書いています
- 海の上の、船のない所に船の形を見る。あるいは櫓の音や人の呼び声を聞く。これをすべて船幽霊と呼んでいる、というのが円了の記録です
- つまり五島の船幽霊は、決まった姿の化け物というより、海の上の見えるはずのない船・聞こえるはずのない音をまとめた呼び名でした
伊豆大島の「日忌み」の夜
- 同じ段で円了は、伊豆大島の「日忌み」の風習も記録しています。毎年1月24日から25日を日忌みといい、その夕方には船幽霊が襲ってくると信じられていた
- そのため、昼間から戸を閉め、決して外へ出ない。牛を家の中に置くことも忌み、海の見えない山かげへつないでおく
- 由来について円了は、いくつかの俗説が伝わっているが「はっきりした原因は分からぬ」と書き、この風習は当時、大島の中でも泉津だけに残っていた、としています
小泉八雲が聞いた「桶をくれ」
- 八雲の『知られぬ日本の面影』第2集の第6章「日本海に沿うて(By the Japanese Sea)」は、旧暦7月15日、盆の日に伯耆(ほうき)の海岸の道を行くところから始まります
- 八雲によると、盆の3日間には海が荒れるといわれ、16日に精霊船(しょうりょうぶね)を流したあとは、だれも海に入らない。舟も雇えず、漁師はみな家にいる。その日の海は死者が帰っていく道で、「ホトケウミ」と呼ばれる
- それでも、必死に港を目指したのに間にあわず、16日の夜に沖に残ってしまう船があるかもしれない。すると死者が船のまわりに高く立ちあがり、長い手をのばして、「タゴ、タゴおくれ!」とささやく
- 八雲の注によると、これは「桶を、どうかください」という意味です
- 断ってはいけない。けれど、桶を渡す前に、その底を打ち抜いておかなければならない。もし底のある桶をうっかり海に落とせば、死者はすぐにそれで水をくんで船を沈めてしまう——八雲はこう書いています

メル美断っちゃだめで、でも底は抜いておく。死者を追いはらうんじゃなくて、やさしく受け流す感じなんだね。
- 八雲は、この名前を「船幽霊」とは書いていません。ただ、海で船に近づく死者の霊、桶を求める声、という点で、円了が記録した船幽霊と同じ「海の死者への怖れ」の言い伝えです
円了の見立て:「幽霊の正体見たり枯れ尾花」
- 円了は『迷信解』の「妖怪雑種」の段で、雪隠(せっちん)の化け物、舟幽霊、雪女などの怪談は、みな幻視や思いちがいから起こったもので、「幽霊の正体見たり枯れ尾花」のたぐいだから、説明するまでもない、と書いています
- 円了の『おばけの正体』には、霧にうつった自分の影を「海坊主」とまちがえた話もあります(海坊主)

井上円了は、五島で海の上の見えない船や櫓の音を「船幽霊」と呼ぶことを記録し、こうした怪談は幻視や思いちがいから起こると書きました。小泉八雲は、盆の16日の夜に死者が「桶をくれ」と手をのばし、桶は底を抜いてから渡す、という言い伝えを書き残しています。
この妖怪の読みどころ
- 「出る日」が決まっている:八雲の話は盆の16日の夜、伊豆大島の日忌みは1月24日から25日の夜。船幽霊は、海に出てはいけない日の言い伝えとむすびついていました
- 追いはらわずに、受け流す:断ってはいけないが、底を抜いて渡す。海で亡くなった人をおそれながらも、むげにしない気持ちが見えます
- 海のふしぎな火なら「不知火」、海から来た者の涙の話なら八雲の「鮫人の恩返し」もどうぞ
まとめ
- 船幽霊は、海の上で船や死者の霊が近づいてくるとされる妖怪
- 円了によると、五島では、船のない所に船の形を見たり、櫓の音や呼び声を聞いたりすることを、すべて船幽霊と呼んだ
- 伊豆大島の「日忌み」(1月24〜25日)の夜は船幽霊が来るとされ、昼から戸を閉めて外に出なかった
- 小泉八雲が伯耆の海で聞いた話では、盆の16日の夜、死者が「桶をくれ」と手をのばす。桶は底を抜いてから渡す
- 円了は、舟幽霊などの怪談は幻視や思いちがいから起こると考えた
参考文献
- 井上円了. 迷信と宗教「第一〇段 離島の迷信 一(伊豆七島)」「第一一段 離島の迷信 二(壱岐、対馬五島)」. 青空文庫. https://www.aozora.gr.jp/cards/001021/card49374.html (閲覧日:2026年10月22日)
- 井上円了. 迷信解「第一三段 妖怪雑種のこと」. 青空文庫. https://www.aozora.gr.jp/cards/001021/card49373.html (閲覧日:2026年10月22日)
- Lafcadio Hearn. Glimpses of Unfamiliar Japan: Second Series, Chapter Six “By the Japanese Sea” and its notes. Project Gutenberg. https://www.gutenberg.org/ebooks/8133 (閲覧日:2026年10月22日)
- The Metropolitan Museum of Art. Utagawa Kuniyoshi, Ghosts of the Taira at Daimotsu Bay, 1843–47(JP1565、Open Access/パブリックドメイン). https://www.metmuseum.org/art/collection/search/55743 (閲覧日:2026年10月22日)
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