幽々奇譚A Nocturnal Field Guide

YōkaiNo.182

日本の妖怪船幽霊(ふなゆうれい)船のない海に船の形が見え、櫓の音や人の呼び声が聞こえる。小泉八雲が伯耆の海で聞いたのは、盆の16日の夜、海からのびる長い手と「桶をくれ」の声。渡す桶は、底を抜いてから

船幽霊は、海で死んだ人の霊が船に近づいてくるとされる妖怪です。井上円了は『迷信と宗教』で、五島では海の上に船のない所に船の形を見たり、櫓の音や人の呼び声を聞いたりすることを船幽霊と呼ぶこと、伊豆大島の「日忌み」の夜には船幽霊が来ると信じられていたことを書きました。小泉八雲は『知られぬ日本の面影』で、盆の16日の夜、沖に残った船のまわりに死者が立ちあがり「桶をくれ」と手をのばす、桶は底を抜いてから渡す、という言い伝えを書いています。

2026年10月22日

嵐の海をゆく大きな船。空には黒い亡霊の影がいくつも描かれている
歌川国芳「大物浦平家の怨霊」1843〜47年ごろ、木版画の三枚続。海の上の船を、空にうかぶ平家の亡霊が取りかこむ場面。メトロポリタン美術館所蔵(JP1565、パブリックドメイン)。船幽霊そのものを描いた絵ではありません
目次
  1. プロフィール(井上円了・小泉八雲の本より)
  2. 五島の船幽霊:「船のない所に船の形」
  3. 伊豆大島の「日忌み」の夜
  4. 小泉八雲が聞いた「桶をくれ」
  5. 円了の見立て:「幽霊の正体見たり枯れ尾花」
  6. この妖怪の読みどころ
  7. まとめ

プレ男船幽霊って、「ひしゃくを貸せ」って言って、船に水を入れて沈めるやつでしょ?こわっ。

メル美小泉八雲が聞いた話では、ひしゃくじゃなくて「桶」なんだって。底を抜いてから渡すらしいよ。

日本の妖怪、今回は船幽霊(ふなゆうれい)です。妖怪を研究した井上円了の『迷信と宗教』(序は大正5年)と『迷信解』(明治37年)を青空文庫で、小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の『知られぬ日本の面影』第2集(英語、1894年)をプロジェクト・グーテンベルクの英語の原文で読みました。

プロフィール(井上円了・小泉八雲の本より)

名前 船幽霊(舟幽霊)
出る所 海の上
起こること 船のない所に船の形が見える、櫓(ろ)の音や人の呼び声が聞こえる(五島。円了『迷信と宗教』)
八雲が聞いた話 盆の16日の夜、沖にいる船のまわりに死者が立ちあがり、「桶をくれ」と長い手をのばす
身の守り方 桶は、底を抜いてから渡す(八雲)
円了の見立て 幻視や思いちがいから起こるもので、「幽霊の正体見たり枯れ尾花」のたぐい(『迷信解』)

嵐の海をゆく大きな船。空には黒い亡霊の影がいくつも描かれている

歌川国芳「大物浦平家の怨霊」1843〜47年ごろ、木版画の三枚続。海の上の船を、空にうかぶ平家の亡霊が取りかこむ場面。メトロポリタン美術館所蔵(JP1565、パブリックドメイン)。船幽霊そのものを描いた絵ではありません

五島の船幽霊:「船のない所に船の形」

伊豆大島の「日忌み」の夜

小泉八雲が聞いた「桶をくれ」

メル美断っちゃだめで、でも底は抜いておく。死者を追いはらうんじゃなくて、やさしく受け流す感じなんだね。

円了の見立て:「幽霊の正体見たり枯れ尾花」

井上円了は、五島で海の上の見えない船や櫓の音を「船幽霊」と呼ぶことを記録し、こうした怪談は幻視や思いちがいから起こると書きました。小泉八雲は、盆の16日の夜に死者が「桶をくれ」と手をのばし、桶は底を抜いてから渡す、という言い伝えを書き残しています。

この妖怪の読みどころ

まとめ


参考文献

  1. 井上円了. 迷信と宗教「第一〇段 離島の迷信 一(伊豆七島)」「第一一段 離島の迷信 二(壱岐、対馬五島)」. 青空文庫. https://www.aozora.gr.jp/cards/001021/card49374.html (閲覧日:2026年10月22日)
  2. 井上円了. 迷信解「第一三段 妖怪雑種のこと」. 青空文庫. https://www.aozora.gr.jp/cards/001021/card49373.html (閲覧日:2026年10月22日)
  3. Lafcadio Hearn. Glimpses of Unfamiliar Japan: Second Series, Chapter Six “By the Japanese Sea” and its notes. Project Gutenberg. https://www.gutenberg.org/ebooks/8133 (閲覧日:2026年10月22日)
  4. The Metropolitan Museum of Art. Utagawa Kuniyoshi, Ghosts of the Taira at Daimotsu Bay, 1843–47(JP1565、Open Access/パブリックドメイン). https://www.metmuseum.org/art/collection/search/55743 (閲覧日:2026年10月22日)

この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診断・治療に代わるものではありません。 気になる症状や不安がある場合は、医療機関にご相談ください。

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  1. 妖怪海坊主(うみぼうず)霧の夜の九十九里の沖にあらわれた大入道は、歩けば歩き、止まれば止まり、手をあげれば手をあげた——井上円了が記録した正体は「霧にうつった自分の影」。泉鏡花が語った房州の黒い坊主、漁師が見た「顔の長さ四尺」の海坊主も
  2. 妖怪不知火(しらぬい)夏の終わりの真夜中、八代海の沖に、だれがともしたのかわからない火が並んで明滅する。明治・大正の井上円了は「潮の打ち合う光」と考え、令和の高校生は「空気のレンズ」で光が曲がる蜃気楼の一種と観測した
  3. 妖怪鮫人(さめびと)墨のように黒い体、鬼のような顔、エメラルドのような緑の目。竜宮を追われ、近江の瀬田の長橋にうずくまっていた「鮫人」は、海の者は本当に悲しいときしか泣けない、と言った。その涙は、紅い宝石になる——小泉八雲「鮫人の恩返し」