
メル美熊本の海には、夜中に正体のわからない火が並ぶ「不知火」っていう現象があるんだって。

プレ男「しらぬい」って、「知らない火」ってこと?それ、鬼火とか人魂のなかま?
こんにちは、Dr. Taro です。 日本の妖怪、今回は海にあらわれるふしぎな火、不知火(しらぬい)です。明治・大正に妖怪を研究した井上円了の『おばけの正体』(大正3年・1914年。青空文庫)と、令和の高校生が日本気象学会のジュニアセッションで発表した観測の予稿を、読みくらべます。
プロフィール
| 名前 | 不知火(しらぬい)。宇土高校の予稿では「不知火現象」 |
| あらわれる場所 | 熊本県の八代海(不知火海)。観測は宇城市不知火町の永尾神社から |
| あらわれる時期 | 八朔(はっさく、旧暦の8月1日)の前後の、真夜中 |
| 見え方 | 1つの光が分かれたり、つながって横長に見えたりする。ゆらいで明滅する光が2列に並ぶ(宇土高校の観測) |
| 正体(いまの報告) | 気温の異なる空気の中を通る光が曲がる「異常屈折」による、蜃気楼の一種。光源は、昔は漁火、いまは街の灯りなど |
この海の火が、昔の天皇の舟を岸へみちびいたという「火の国」の伝説は、火の国と霧の国の記事で紹介しています。
井上円了の「正体さがし」(1914年)
海へこぎ出した小学校長
- 円了は、筑後の柳河で、ある小学校長から聞いた話を紹介しています
- 校長は、不知火を確かめようと、火の出る季節に漁船をやとい、夕方から海へこぎ出しました。はじめは見えませんでしたが、沖へ出てあたりを見わたすうちに、はるか遠くに火があらわれ、だんだん数がふえていきました
- 「これこそ不知火に違いない」と近づかせようとすると、船頭はこわがっている様子。説きふせて近づくと、火は上がったり下がったり動いていて、その間に黒い形のものが点々と見えます
- 気味悪く思いながら進むと、人の話し声が聞こえてきました。黒い形は人でした。そこは海の中の浅瀬で、引き潮のときに近くの村から男女の漁師が大勢やってきて、海藻を採っていたのです
- 円了は、「そればかりが不知火でもあるまいけれども、かかる火も不知火として伝えているに違いない」と書いています

プレ男近づいてみたら、人が明かりを持って働いていた。わかってみると、こわくないね。
「潮が打ち合って光る」説
- 円了は、熊本の八代郡長の話も紹介しています。郡長はたびたび不知火を見たことがあり、八代の浜で、夕日が沈むとき、海の中の浅い州に両方から潮が来て打ち合い、そこに日の光が斜めに差して波が光るありさまが、不知火によく似ていた、といいます
- 円了自身も、不知火の季節に島原半島に滞在し、一晩見物に出かけましたが、見ることはできませんでした
- ほかの人の話では、不知火は「暗い夜で、満潮の時刻に限る」。そこで円了は、満潮のとき海水どうしが打ち合って、塩分の摩擦で光るのを見て不知火と名づけたのだろう、夜に舟をこぐと海水が光るのと同じ理屈だ、と考え、「この説をとって、不知火の正体としたい」と書きました
令和の高校生の観測
熊本県立宇土高校の生徒たちは、何年もかけて実際に不知火を観測し、日本気象学会のジュニアセッションで発表しています。公開されている予稿(2020年・2021年の2本)から紹介します。
まずは「知らない」から
- 宇土高校の生徒206人へのアンケートで、「不知火がどんな現象か知っていますか」に「知っている」と答えたのは42人、「知らない」は163人でした
- 宇城市役所の人、永尾神社の神主さん、地元の人、見に来た観光客への聞き取りでも、「聞いたことはあるが、実際に見たことがない」という声。また、近年は夏の時期は禁漁で漁が行われていない、という話も聞いています
観測でわかったこと
- 観測場所は、宇城市不知火町の永尾神社とその海岸。7月〜10月の深夜、満潮から干潮にかけて、八代の方向を中心に観測しました
- 2020年の予稿では、不知火が観測されたのは午前0時〜2時の間。いちばんよく見えた日は、気温と海水温の差がいちばん大きかった日でした
- 2021年の予稿では、見え方は「海面下に光源が反転し、ゆらいで明滅する光が2列に並んで見える」。10km前後はなれた光で見られ、1時間ほどで見えにくくなり、干潮の時刻には見えにくくなりました。いちばんよく撮れたのは2020年10月3日の午前2時
- 八朔のころは、表面の海水温が高く、海水温と最低気温の差が1年の中で大きくなる時期。そして干潮時には、不知火海に干潟が広く現れ、海水と砂地が点々と並びます。この干潟が気温のムラを生み、光を曲げる原因になっている、と生徒たちは考えています
正体は「光の屈折」
- 予稿のまとめは「不知火現象は気温の異なる空気が原因で起こる光の屈折現象である」
- 生徒たちは、不知火は海面近くの気温差(空気の密度差)による異常屈折だと、1994年に立石巌、山下太利が報告していることも紹介しています。光源は、民家の灯りや漁火など。そしていまの光源は、昔の漁火より明るい街灯りなので、昔とはちがう条件でも見えるのではないか、とも書いています

メル美遠くの灯りが、空気のレンズで曲がって、分かれたり並んだりして見えるんだ。それを高校生が自分たちで観測したって、すごい!

宇土高校の観測では、不知火は八朔のころの深夜、ゆらいで明滅する光が2列に並んで見え、気温の異なる空気による光の屈折現象だとまとめられています。光源はいまは街の灯りなどです。
昔と今、何がちがった?
- 円了は「満潮のとき」と聞き、「潮が打ち合う光」と考えました。宇土高校の観測では、満潮から干潮にかけて見え、干潮の時刻には見えにくくなりました。
- 円了も、すべてを言いきったわけではありません。小学校長の話のように、人の灯りが不知火として伝えられていることもある、と書いていました。光源が人の灯りだという点は、いまの報告と重なります
- 「ふしぎな火を、近づいて、測って、確かめる」。100年をへだてて、同じことをした人たちがいたわけです
見に行くときは
- 観測は真夜中の海辺です。1人で行かない、暗い海に近づきすぎない、私有地や立入禁止の場所に入らないようにしましょう
- 観測場所の神社では、夜に騒がない、ゴミを残さない。近くに住む人の迷惑にならないように
まとめ
- 不知火は、八朔(旧暦8月1日)のころの真夜中、八代海の沖に、ゆらいで明滅する火が並んで見える現象
- 井上円了(1914年)は、近づいたら海藻を採る漁師の灯りだった話を紹介し、正体は「潮が打ち合う光」という説をとった
- 宇土高校の観測(日本気象学会ジュニアセッション)では、光源が反転し2列に並ぶ光が、0〜2時ごろ、10km前後先に見えた
- 正体は、気温の異なる空気による光の屈折(異常屈折)。干潟が気温のムラを生む、と考察
- 井上円了の妖怪調査は、口笛の怪声も。空のふしぎにマジレスした地震雲もどうぞ
参考文献
- 井上円了. おばけの正体 第18項「不知火の探検」・第19項「不知火の説明」(緒言は大正3年6月). 青空文庫. https://www.aozora.gr.jp/cards/001021/card49355.html (閲覧日:2026年10月22日)
- 熊本県立宇土高等学校(小澤琳、迫田裕太). 知らない現象(不知火現象)を科学する(講演番号PJ20-23). 日本気象学会. https://www.metsoc.jp/default/wp-content/uploads/2020/05/PJ20-23.pdf (閲覧日:2026年10月22日)
- 熊本県立宇土高校 科学部地学班. 知らない現象(不知火現象)を科学する3(講演番号JS1-15). 日本気象学会. https://www.metsoc.jp/default/wp-content/uploads/2021/05/JS1-15.pdf (閲覧日:2026年10月22日)
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診断・治療に代わるものではありません。 気になる症状や不安がある場合は、医療機関にご相談ください。