幽々奇譚A Nocturnal Field Guide

YōkaiNo.139

日本の妖怪姿のない「口笛の怪声」明治27年(1894年)、山梨の山あいの村で、空中から口笛のような声が人の問いに答え、年齢を言い当て、機の糸を断ち切った。妖怪を研究した井上円了が現地で調べた報告書を、原文で読む

明治26年の11月中旬から、山梨県北都留郡のある村の家で、姿の見えない「口笛のような声」が人と問答し、年齢を言い当て、よその家の出来事を告げ、機(はた)の糸を断ち切る——という怪事が評判になりました。村では「狐や狸が憑いた」という説と「わざとやっている」という説に分かれます。招かれて現地へ向かったのが、哲学館を開き、妖怪を研究していた井上円了。東京朝日新聞に4回にわたってのった報告(青空文庫)を、順に読みます。

2026年10月22日

目次
  1. プロフィール(井上円了の報告より)
  2. 村じゅうの評判になった「声」
  3. 「狐が憑いた」か、「わざと」か
  4. 円了、現地へ
  5. 円了の「試験」
  6. 円了の「鑑定」:7つの理由
  7. 円了自身が書いた「ただし書き」
  8. まとめ

プレ男明治時代に、姿の見えない声がしゃべる家があったんだって!質問すると答えてくれるらしい。

メル美それを、わざわざ東京から調べに行った学者さんがいたんだよね。どうやって調べたのか知りたい。

こんにちは、Dr. Taro です。 日本の妖怪、今回は姿の見えない「口笛の怪声」です。妖怪を研究した哲学者・井上円了が、明治27年(1894年)に哲学館で話した調査の報告「甲州郡内妖怪事件取り調べ報告」を、青空文庫の本文で読んでいきます。報告は東京朝日新聞に、明治27年5月8日・9日・11日・12日の4回にわたってのりました。

この記事では、報告に出てくる一般の家の人たちの名前は書きません。

プロフィール(井上円了の報告より)

名前 名前はない。「口笛のごとき怪声」
あらわれた場所 山梨県北都留郡(いわゆる「郡内」)の山あいの村の、ある家
時期 報告の前年の11月中旬から(明治26年)
姿 「形もなく影もなく」、目にも見えず、手でもさわれない
できること(とされたこと) 人と問答する、年齢を言い当てる、よその家の出来事を告げる、心の中を言い当てる、吉凶を予言する、病気の薬を教える、機の糸を断ち切る

村じゅうの評判になった「声」

メル美声だけならまだしも、機の糸を切られるのは、家の仕事にひびくから本当に困るね。

「狐が憑いた」か、「わざと」か

円了、現地へ

円了の「試験」

プレ男わざわざ行ったのに、声を聞けなかったんだ…。

円了の「鑑定」:7つの理由

円了は、聞き取った話をもとに、これは「偽怪」——人がつくった妖怪——だろうと考え、理由をあげていきます。

  1. 声の出どころがわからないのは、ふしぎではない:近所の子どもたちが口笛でまねをすると、上手な子は本物と区別がつかないほどだった。西洋には、口や舌を動かさずに声を出す「腹話術(ベントリロキズム)」がある。人は声の位置を耳だけでなく、話す人の口が動くのを目で見て知る。口が動かなければ、位置はわかりにくい
  2. 予言や言い当ては、村の中のことばかり:ふだん付き合いのある人の年齢なら知っていて当然。歯痛の薬に「雷で裂けた木のかけら」と答えたのも、そのあたりで広く伝わる民間療法だった。ある草の名を聞かれて答えられなかったこともある
  3. 機の糸が切れたのは、いつも彼女がいたとき:糸が切れたことも、彼女が「いま機にこんなことが」と告げて、はじめて家の人が知った
  4. 声は少しずつ「上達」した:はじめは声がするだけ。やがて、問う人があらかじめ決めた方法で、当たっているときだけ一声で答えるようになり(年齢は声の数で答えた)、明治27年の2月ごろからようやく五十音を言い分けて話せるようになった。狐狸なら、なぜ最初から話さないのか
  5. 声の言葉は、その土地の同じ年ごろの仲間どうしの言葉と同じ:声は彼女の知らないことは知らず、声の話でわからないところは彼女に聞くと説明してくれた
  6. 声と彼女の話は、同時には出ない:必ず前後する
  7. 実家にいる間は、声はしなかった:そして声は「機を織らせるなら糸を切る」と告げ、そのとおりになった。機織りができないなら、養家も「本人の望みにまかせるほうがよい」と考えるようになっていた

円了自身が書いた「ただし書き」

井上円了は、本人の言葉や視覚に異常がないことを確かめて「狐が憑いた」という説をしりぞけました。ただし、怪声は自分では聞けておらず、結論は半日の観察と聞き取りからの推測で、本人が明言しなければ本当のところはわからない、と自ら書いています。

メル美「わからないことは、わからない」ってちゃんと書いてるのがいいね。それに、実家に帰りたかった女の子の気持ちを思うと、ちょっとせつない。

まとめ


参考文献

  1. 井上円了. 甲州郡内妖怪事件取り調べ報告(底本:井上円了 妖怪学全集 第6巻、柏書房、2001年。初出:東京朝日新聞 第2834、2835、2837、2838号、1894年5月8、9、11、12日). 青空文庫. https://www.aozora.gr.jp/cards/001021/card49268.html (閲覧日:2026年10月22日)

この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診断・治療に代わるものではありません。 気になる症状や不安がある場合は、医療機関にご相談ください。

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