目次

プレ男かまいたちって、鎌を持ったイタチが風に乗ってきて、人を切る妖怪だよね?

メル美明治の妖怪学者と、昭和の物理学者が、それぞれ正体を考えているんだって。
日本の妖怪、今回は鎌鼬(かまいたち)です。妖怪を研究した井上円了の『迷信解』(明治37年)と『迷信と宗教』(序は大正5年)、物理学者・寺田寅彦の随筆「化け物の進化」(昭和4年)を、青空文庫の本文で読みました。
プロフィール(井上円了・寺田寅彦の本より)
| 名前 | 鎌鼬(かまいたち)。西国では「風鎌(かざかま)」とも(寺田が引く『雲萍雑誌』) |
| 姿 | 形はない。体に風がふれたと感じるだけ(円了『迷信解』) |
| 起こること | 道を歩いていると、鎌で切られたような傷が急にできる |
| 多い土地 | 円了は「越後地方に最も多い」、寺田が引く『伽婢子』は「関東地方」 |
| 円了の見立て | 理学で説明がつくので妖怪ではない |
| 寺田の見立て | 旋風で飛ばされた木や竹のかけら・砂つぶが当たって切れるのだろう |
「鎌で切られたような傷」
- 円了は『迷信と宗教』の「北陸の迷信」の段で、越後の七不思議はいまではもう不思議ではないと知られたが、今も妖怪のしわざとされているのが鎌鼬だ、と書いています
- 道を歩いているとき、突然、鎌で切られたのと同じような傷ができる。傷口はひらいているのに、血は流れない。これを「鎌鼬に切られた」という
- 多くの人は、空中に目に見えない怪物がいるせいだと言っている——円了はこう紹介しています
- 『迷信解』では、鎌鼬には形があるわけではなく、体に風がふれたと感じるだけで、かみそりで切ったような傷ができる、と説明しています。こちらでは「血が多く出るということ」と書かれていて、本によって言い伝えの中身が少しちがいます
円了が紹介した説明:「空気の中に真空ができる」
- 『迷信解』で円了は、当時の説明をこう紹介しています。空気が変動して空気の中に真空ができることがある。そこに人の体の一部がふれると、その部分だけ外からの気圧がなくなり、体の内側の気がそこへほとばしり出て、皮膚が破れる
- 円了は「かく聞いてみれば、妖怪とするに足らざることが分かる」と結んでいます
- 『迷信と宗教』でも、その道理は「今日にては理学上より説明せられてある」から妖怪ではない、と書いています
寺田寅彦の異論:「真空では足は破裂しない」
- 物理学者の寺田寅彦は、随筆「化け物の進化」で、昔の人が書き残した化け物の記録は、昔の人に不思議と思われた事実の記録と見ることができる、と書きます。その例として取りあげたのが鎌鼬でした
- 寺田が引く『伽婢子(おとぎぼうこ)』では、関東に多い現象で、旋風が吹きおこって通行人にあたると、ももが縦にさけて、かみそりで切ったように口がひらく。痛みはひどくなく、血は少しも出ない。さらに「名字の正しい侍にはこの害がなく、身分の低い者は金持ちでもあてられる」とも書いてある、と紹介しています
- 寺田は、ある学術雑誌で「旋風の中では気圧がひどく下がるので皮膚がさける」という説を読んだ記憶がある、としたうえで、これは「物理学者には少しふに落ちない」と書きます。かなり真空になっても、ゴム球のように脚が破裂することはありそうもない、というのです
- 寺田の考えは、強い風で、道に落ちている木や竹のかけら、砂つぶなどが速い速度でぶつかり、皮膚が切れるのだろう、というものでした
- 根拠として寺田は、アメリカの気象学の雑誌にのっていた例をあげます。麦わらの茎が大きな旋風で吹きつけられ、かたい板戸に矢のように突きささった写真です。麦わらが板戸に入るくらいなら、竹のかけらが人の肉を破ってもおかしくない、と寺田は書いています

プレ男麦わらが板に刺さるの!?風ってそんなに強いんだ。
「侍はやられない」のはなぜ?
- 『伽婢子』の「身分の低い者があてられる」という話にも、寺田は答えています。身分の低い人のほうが人数がずっと多いなら、それだけで当然そうなる。そのうえ、脚を出して歩く機会が多いなら、なおさらだ、と
- 関東に多いという点も、統計がないのでわからないが、小さな「塵旋風(ちりせんぷう)」は武蔵野のような平野に多いらしいので、まったく根拠がないわけでもないかもしれない、と書いています
- 寺田は、この話に「時代の反映が出ていておもしろい」とも書いています
「説明できても、神秘は減らない」
- 寺田は、怪異を科学で説明することに反感をもつ人もいるが、それは誤解だ、と書きます。科学で一通り説明できても、その現象の神秘は少しも減らず、むしろ深くなる
- 鎌鼬の説明も「問題の構成」であって「解決」ではなく、本当の科学の研究はそこから始まる。そして、だれがいつどこで鎌鼬にあうかを予言することは、どんな科学者にも永久にできない、と結んでいます

井上円了は鎌鼬を「理学で説明がつくから妖怪ではない」とし、寺田寅彦は「旋風で飛ばされた木や竹のかけらが当たるのでは」と考えました。寺田は、説明がついても現象の神秘は減らず、本当の研究はそこから始まる、と書いています。
この妖怪の読みどころ
- 同じ妖怪でも、説明がちがう:円了が紹介した「真空」の説に、寺田は物理学者として首をかしげました。どちらも「妖怪ではない」と考えた点は同じですが、理由がちがいます
- 言い伝えにも時代が出る:「名字の正しい侍は切られない」という古い本の一文を、寺田は人数と服装で説明しました
- 円了が同じ段で紹介した越後の怪火「蓑火」や、夜道の怪火については「狐火」、馬を襲う旋風の魔物については寺田の「怪異考」を読んだ「ギバ」もどうぞ
まとめ
- 鎌鼬は、道を歩いていると急に鎌で切られたような傷ができる怪異。形はなく、体に風がふれるだけ
- 井上円了は「越後に最も多い」と書き、空気の中に真空ができて皮膚がさけるという当時の説明を紹介した
- 寺田寅彦は、真空の説は「ふに落ちない」とし、旋風で飛ばされた木や竹のかけら・砂つぶが当たって切れるのだろうと考えた
- 「侍はやられない」という古い本の話も、寺田は人数と、脚を出して歩くかどうかで説明した
- 寺田は、説明がついても神秘は減らず、本当の研究はそこから始まると書いた
参考文献
- 井上円了. 迷信解「第一二段 怪火、怪音および異物のこと」. 青空文庫. https://www.aozora.gr.jp/cards/001021/card49373.html (閲覧日:2026年10月22日)
- 井上円了. 迷信と宗教「第二三段 北陸の迷信」. 青空文庫. https://www.aozora.gr.jp/cards/001021/card49374.html (閲覧日:2026年10月22日)
- 寺田寅彦. 化け物の進化(昭和4年). 青空文庫. https://www.aozora.gr.jp/cards/000042/card2346.html (閲覧日:2026年10月22日)
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診断・治療に代わるものではありません。 気になる症状や不安がある場合は、医療機関にご相談ください。