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プレ男狐火って、狐の嫁入りの行列のあかりのこと?

メル美夜の野原に見える、ふしぎな火のことみたい。明治の学者が、その正体をいろいろ調べているんだって。
日本の妖怪、今回は狐火(きつねび)です。妖怪を研究した井上円了の『迷信解』(明治37年)と『おばけの正体』(緒言は大正3年)で、青空文庫の本文を読みました。円了は、狐火を「火のあるまじき所に火光を見る」怪火のひとつとして取りあげています。
プロフィール(井上円了『迷信解』『おばけの正体』より)
| 名前 | 狐火 |
| なかま | 鬼火、竜灯、天狗火、不知火、蓑火など、「怪火」とよばれるもの |
| 言い伝え | 狐が人の骨を口にくわえて息を吐くと、火になってあらわれる |
| 円了の見立て | 言い伝えは「はなはだ疑わしい」。見まちがいや人のいたずらが多く、それを除いた本当の怪火も、空中にただよう燐の火だろう |
「人の骨をくわえて息を吐く」?
- 円了の『迷信解』によると、民間では、狐は石を投げたり、拍子木をうったり、火を吐いたり、戸をたたいたりすると言われていました
- そのうえで円了は、世にいう狐火は「狐が人骨を口にはさんで息を吐くとき、火となって現れる」という説があるが、これは「はなはだ疑わしい」と書いています
- 円了は、狐にほかの動物よりすぐれた不思議な知恵があるとは信じられない、とも書いています
怪火の多くは「見まちがい」と「いたずら」
- 円了は、怪火のなかには、見まちがいから生まれた「誤怪」と、人がわざと仕組んだ「偽怪」がまじっている、と言います
- 誤怪の例として円了があげるのは、夜ふけに火葬場の近くを通った人が、地蔵堂の前に燃えあがる火を見て怨霊の火だと思ったが、こわごわ近づくと、堂に泊まっていた人が寒さをしのぐためにたき火をしていた、という話です。原因をたしかめずに人に話せば、本物の妖怪として後世に伝わってしまう、と円了は書いています
- 偽怪は、物好きな人が人を驚かそうとして、火のあるはずのない所に火をつけ、狐狸や天狗のしわざだと思わせるようなもの。その例も各地で聞く、とされています
箱根の夜道で円了が見た火
- 『おばけの正体』には、円了自身の体験も書かれています。二十歳をすぎたころ、夏休みに元箱根の農家の座敷を借りて勉強していたときのことです
- 夜、散歩に出て帰りが遅くなり、大夕立にあいました。茶屋で提灯と傘を借りて、真っ暗な林の中を歩いていくと、人の住んでいない薪小屋の隅から、ピカリと光っては消える火が見えます。三、四回くり返したあと、光は消え、小屋の隅に黒いものが動いていました
- 狐火や天狗火のことは聞いていたけれど、そんな怪火ではないだろう、と思いつつ、なんとなくこわくなる。高い山だから熊かもしれない——その黒いものがこちらへ歩いてきたので、逃げようとしたとき、相手から声をかけられました。「どうぞ提灯の火をいただきたい」
- 正体は、電報を配達した帰りの電信局の脚夫でした。大雨と風で提灯を消され、小屋でマッチをつけていたのですが、風ですぐ消える。そこへ円了の提灯が見えたので、火をもらおうと待っていたのです。黒く見えたのは、頭から全身にかぶった真っ黒な油紙でした
- 円了はそのとき「化け物の正体見れば脚夫かな」と詠んだ、と書いています

メル美「幽霊の正体見たり枯れ尾花」のもじりだね。円了先生、ちゃんとオチをつけてる。
山腹の鬼火と「蜘蛛火」
- 『おばけの正体』の「鬼火の正体」の項では、北海道の新聞にのった話を紹介しています。ある地方で深夜、山腹に怪火があらわれ、鬼火か天狗火かと評判になった。若者たちが探検に行き、そっと近づいてみると、秋の夜寒にたえかねた老人が、枯れ木を集めてたき火にあたっていた、というものです
- 「蜘蛛の火」の項では、大和国磯城郡の纏向村のあたりに「蜘蛛火」という怪火があり、数百の蜘蛛がひとかたまりの火になって空を飛び、近づくと命をとられる、と恐れられていた、と書いています
- 円了の研究会の会員が見たという報告では、夏の夕方、火の玉が尾を引き音を立てて飛んできて、庭の大木のあたりに落ちたように見えた。月の光でさがすと、だいだいほどの大きさの焼けた土のかたまりが落ちていた。円了は、蜘蛛火は隕星(流れ星)だと述べています
円了の結論:「燐の火」
- 円了は『迷信解』で、誤怪や偽怪を除いても、なお本当の怪火があることは疑いない、と書きます。そして、蛍の光や光る朽ち木はだれも怪しまないのに、狐火や鬼火は恐れられる、と指摘します
- そのうえで、鬼火・狐火・竜灯・天狗火などは、みな空中にただよう燐火(りんか)だろう、と説明しました。燐の気が水素と合わさって燐化水素となり、空気の酸素にふれて光る、生き物に多くふくまれる燐が、墓地や、水がよどんで草木や魚虫の腐る沼などから出てくる、というのが円了の説明です
- 人が追いかけると、その動きで空気がゆれて火も動くので、逃げたりついてきたりするように見える。静かに近づけば、火は動かない——円了は、本で読んだ話を引いて、こう説明しています

井上円了は、狐が人の骨をくわえて火を出すという説を「はなはだ疑わしい」とし、怪火の多くは見まちがいや人のいたずらだと書きました。箱根で円了自身が見た火の正体も、マッチを擦る電報の配達人でした。
この妖怪の読みどころ
- 「こわい」と思った瞬間に妖怪が生まれる:円了の箱根の体験は、こわいと思う気持ちが、マッチの光と黒い油紙を「怪火」と「熊」に見せてしまう過程を、そのまま記録しています
- ふつうの火と怪しい火:円了は、蛍の光はだれも怪しまないのに、狐火は恐れられる、と書きます。同じ光でも、場所や時間や言い伝えが、それを妖怪にしていきます
- 狐火の言い伝えのある場所:東京・王子には、大晦日の夜に狐たちが狐火をともして集まったという言い伝えがあり、広重の浮世絵にも描かれています(王子稲荷神社)
- 海の上の怪火なら不知火、夜の田んぼ道の火の玉なら田中貢太郎の鬼火を追う武士もどうぞ
まとめ
- 狐火は、火のあるはずのない夜の野山に見える火。鬼火・竜灯・天狗火などと同じ「怪火」のひとつ
- 「狐が人の骨をくわえて息を吐くと火になる」という説を、井上円了は「はなはだ疑わしい」とした
- 怪火には、たき火などの見まちがい(誤怪)と、人のいたずら(偽怪)が多くまじっている
- 円了が箱根で見た怪火の正体は、マッチを擦る電信局の脚夫。「化け物の正体見れば脚夫かな」
- 本当の怪火も、円了の説明では空中にただよう燐の火。大和の「蜘蛛火」は流れ星だった
- 同じ円了の本にある狐の話は「オサキ」で
参考文献
- 井上円了. 迷信解「第三段 狐惑、狐憑きのこと」「第一二段 怪火、怪音および異物のこと」. 青空文庫. https://www.aozora.gr.jp/cards/001021/card49373.html (閲覧日:2026年10月22日)
- 井上円了. おばけの正体「第四項 空き小屋の光り物」「第一五項 鬼火の正体」「第一六項 蜘蛛の火」. 青空文庫. https://www.aozora.gr.jp/cards/001021/card49355.html (閲覧日:2026年10月22日)
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