
プレ男ギバ?はじめて聞く妖怪だ。

メル美人じゃなくて、馬をねらう魔物なんだって。物理学者の寺田寅彦が、正体を考えているよ。
日本の妖怪、今回はギバです。物理学者・寺田寅彦の随筆「怪異考」(昭和2年『思想』)を、青空文庫の本文で読みました。寺田は、ギバについての知識は、磯清『民俗怪異篇』の記事から得ただけで、自分で調べたわけではない、と断っています。
プロフィール(寺田寅彦「怪異考」より)
| 名前 | 頽馬(たいば)、提馬風(たいばふう)。濃尾地方では「ギバ」 |
| ねらうもの | 馬。襲われた馬は倒れて死ぬ |
| 出るとき | 4月から7月(美濃では5・6月に多い)。晴れたり曇ったりする日の、日盛り |
| 出る所 | 一里塚のような、決まった場所が多い |
| 身の守り方 | 襲われたら、半纏・風呂敷・むしろなどを馬の首からかぶせる。ふだんは馬に腹当てをさせる |
| 寺田の見立て | セントエルモの火のような、空中の放電と関係があるのでは |
2つの言い伝え
- 寺田が引く磯清の記述によると、ギバには2つの説があります
- ひとつは、旋風のようなものが襲ってきて、そのとき「馬のたてがみが一筋一筋に立って、そのたてがみの中に細い糸のような赤い光がさしこむ」と、馬はまもなく死ぬ。そのときすぐ刀を抜いて馬の行く手を切りはらうと、風がそれて馬を襲わない、というもの
- もうひとつは、「玉虫色の小さな馬に乗って、猩々緋(しょうじょうひ)のような着物を着て、金の瓔珞(ようらく)をいただいた」女が空から襲ってくる。その女は、乗っている馬の前足を被害の馬の口にあて、後ろ足を耳からたてがみにかけて踏みつける。つまり馬の顔にひしと組みつく。この現象は短い時間で消え、馬は倒れる、というもの
- 寺田は、この2つの説は磯氏も注意したように似ていて、科学の目で見ると、要するに「馬の頭のあたりに、何か異常な光の現象が起こる」ということだ、と読みます

メル美玉虫色の小さな馬に乗った女の人……。こわいけど、絵になりそうな妖怪だね。
いつ、どこで、どう防ぐか
- 時期は「濃州では4月から7月までで、とくに5、6月が多い。7月になりかかって秋風が立ちはじめると、ギバの難は影をかくす。武州・常州あたりでもやはり4月から7月」と言われていました
- 晴天には出ず、「晴れては曇り、曇っては晴れる、むら雲などが出たり入ったりする日に限って」出る。時刻は、朝8時前・夕方4時すぎには出ず、多くは日盛りだといいます
- 出る場所は、一里塚のような所の例があげられていて、おのずと決まっている傾向がある
- 馬を助けるには、襲いかかったときに、半纏でも風呂敷でもむしろでも、馬の首からかぶせるとよい。尾の上の背骨に針を打つこともするが、ものをかぶせることのほうが「針よりも大切なまじない」と考えられていた
- ふだんのギバよけには、「大津東町上下仕合」と白く染めぬいた腹当てを馬にさせる。このアブよけをした馬がギバで倒れたのを見たことがない、と言われていた
- 美濃では、ギバは白虻(しろあぶ)のような目に見えない虫だという説もあり、常陸ではその虫を「大津虫」と呼び、玉虫色で足長蜂に似ている、とされていました
寺田の仮説:旋風ではなく「放電」
- 寺田はまず、旋風の可能性を考えます。旋風なら、馬が急な気圧の低下で窒息するか、内臓をいためるのかもしれない。けれどそれでは、光の話や、ものをかぶせるまじないの意味がまったく説明できない
- これに対して、ギバを空中の放電によるものと考えると、
- たてがみが立ちあがる、光の筋が見える、玉虫色の光が馬の首をつつむ——こうした話が、すべて「生きた科学的記述」として意味をもってくる、と寺田は書きます
- 布や服で頭をおおい、腹を守るのは、電気の半導体で馬の体の一部をおおって、放電の電流がじかに体に流れるのを防ぐ、という意味に読める
- さらに、放電の現象は夏に多く、日中に多いことがよく知られているので、「4月から7月、日盛り」という時期ともよく合う
- 場所が決まっている点は材料がないが、調べてみたら、放電の多い場所と重なるのではないか、と寺田は想像しています
「馬は感電に弱い」
- ただし寺田は、この仮説の大事な試金石は、人には害のない程度の放電で、馬が倒れるかどうかだ、と書きます
- 文献もあるだろうが自分はまだよく知らない。ただ、馬が特に感電に弱いということだけは、馬の専門家に聞いて確かめた、といいます
- 実験室で高い電圧を使えば試せるが、それがそのまま野外にあてはまるかはわからない。結局は野外での正確な観察を待つ必要がある
- 寺田は、ギバが今もどこかの地方で知られているなら、出あった人の話をできるだけ集めたい、資料をくれる読者がいたら「大幸である」と結んでいます

寺田寅彦は、ギバの言い伝えにある「たてがみが立つ」「赤い光がさしこむ」「夏の日中に多い」「首に布をかぶせると助かる」といった点が、空中の放電と考えるとよく説明できる、と書きました。そのうえで、確かめるには野外での正確な観察を待つ必要がある、としています。
この妖怪の読みどころ
- 馬とくらした時代の妖怪:ギバは、人ではなく馬をねらう魔物です。馬が大切な働き手だった時代、馬を守るまじないや腹当てが、くらしの知恵として伝えられていました
- 細かい言い伝えが、仮説を支える:時期、時刻、天気、場所、防ぎ方。寺田は、言い伝えの細部が多いほど、正体の可能性をしぼりこめる、と考えました
- 同じ「怪異考」で寺田が取りあげた高知の海の怪音は「孕のジャン」、寺田が旋風で説明した「鎌鼬」、娘と馬の神さまの話は「オシラサマ」もどうぞ
まとめ
- ギバ(頽馬・提馬風)は、馬を襲って倒すと言われた魔物
- 旋風のようなものが来て、たてがみが立ち、赤い糸のような光がさしこむ。あるいは、玉虫色の小さな馬に乗った女が馬の顔に組みつく
- 4月から7月の日盛り、晴れたり曇ったりする日に多く、馬の首に布をかぶせると助かるとされた
- 寺田寅彦は、セントエルモの火のような空中の放電と考えると、光・時期・まじないがよく説明できる、という仮説を書いた
- 寺田は、確かめるには野外での正確な観察が必要だとし、資料を読者に求めた
参考文献
- 寺田寅彦. 怪異考(昭和2年11月『思想』). 青空文庫. https://www.aozora.gr.jp/cards/000042/card2344.html (閲覧日:2026年10月22日)
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