
メル美月見の夜にまつわる怪談が、三つも入ってる作品なんだって。

プレ男十五夜は知ってるけど、「二十六夜」って何?
今回は、岡本綺堂の怪談「月の夜がたり」(つきのよがたり)です。青空文庫の本文で読みました。初出は1924年(大正13年)10月の「写真報知」です。本文中の「」の言葉は、青空文庫の本文からの引用です。
語り手のE君は、「七月の二十六夜、八月の十五夜、九月の十三夜について、皆一つずつの怪談を知っている」と、月の順に話していきます。この記事では、第一話と第二話を紹介します。第三話は、旗本屋敷の古い稲荷にまつわる話で、心中をふくむ悲しい結末なので、ここではくわしくふれません。
第一話 二十六夜:貸家の婆さん
- 明治8、9年ごろ、ある落語家から聞いた話です。まだ前座から少し毛の生えたくらいの身分で、師匠の家を出て、ひとりで暮らす家をさがしていました
- 8月末の残暑の日、下谷御徒町の横町で「この奥にかし家」という札を見つけます。二畳、三畳、六畳の手ごろな家
- ところが、奥の三畳に、ひとりの婆さんが横向きに坐っていました。留守番かと思って「御免なさい」と声をかけても、婆さんは振り向かない。何度呼んでも、返事がありません
- 路地の入口の荒物屋のおかみさんに、留守番の婆さんが返事をしないと話すと、おかみさんはにわかに顔色を変えました。「あ、おばあさんが……。また出ましたか」
- ひどくこわがりの落語家は、ふるえあがって逃げだしました

プレ男「また出ましたか」って、前にも出てたってこと!?
二十六夜待ちの人ごみで
- その夜は、旧暦の七月二十六夜。師匠のおかみさんにすすめられ、落語家は、月の出を待って拝む「二十六夜待」に出かけます
- 湯島天神の境内には、大勢の人。そのなかに、昼間のあの婆さんが立っていました
- 方角を変えて九段坂の上へ行くと、そこにも婆さんがいる。芝の愛宕山へのぼっても、高輪の海岸へ行っても、行く先々の人ごみに、きっとその婆さんが立っているのです。にらむわけでも、声をかけるわけでもないのに
- 月の出を待つどころではなく、人力車で帰ろうとすると、車夫が蝋燭を買いにいった荒物屋の、薄暗いところにも婆さんが立っていました
- 落語家は、師匠をひいきにしている三十間堀の大きな船宿にころげこんで泊めてもらいますが、わけを話すと、居あわせた芸者にまで臆病を笑われました。肝心の月の出るころには、蚊帳のなかで小さくなっていたのです
婆さんの正体は
- くやしくなって、もう一度御徒町へ行って近所のうわさを聞くと、その貸家で変死した者もなければ、葬式が出たこともない。前に住んでいた質屋の番頭は、同じ町内に引っ越して無事に暮らしている
- ただ、番頭が引っ越したのは盂蘭盆の前で、迎え火をたく13日の晩に、ひとりの婆さんがその空家に入るのを見た者がいた。その後も、ときどき婆さんの坐っている姿を見るというので、家主の酒屋の者が戸棚も床下もしらべましたが、何もあやしいものは見つかりませんでした
- 「どこの幽霊が戸惑いをして来たのか、それはわからない」
- その空家は、11月のある日、まっ昼間に突然燃えだして焼けてしまいました。それが一軒焼けですんだのも、なんだかふしぎに感じられた、と語られます

メル美お盆の迎え火の夜に入っていった婆さん…。だれのところに帰るつもりだったんだろう。
第二話 十五夜:梯子の下の人影
- 20年ほど前、芝の桜川町のあたりが市区改正で道を広げることになり、住人がみな立ちのいたときの話です
- ある煙草屋の主人が言いました。この家では、ときどき二階の梯子の下に、人の姿がぼんやりと見える。考えてみると、それは一年に一度、旧暦八月の十五夜にかぎられていて、その夜が雨や曇りなら出ない。明月なら、きっと出てくる
- 男らしいが、はっきりはわからない。何をするでもなく、ただぼんやりと立っているだけ。夜中にあらわれて、明け方には消えるので、家族はだれも知らなかった
- 家をとりこわすこの機会に、床下を調べてほしい——そう主人が言うので掘ってみると、梯子の下あたりの土の底から、五つの小さな髑髏があらわれました
- ただし、それは人間の骨ではなく、どれも獣の頭。三つは犬、二つは狢か狸ではないか、という鑑定でした。いつ、だれが、なぜ埋めたのかは、わからないままでした

岡本綺堂の「月の夜がたり」第二話で、旧暦八月十五夜の明月の晩にだけ梯子の下にあらわれる人影の下から見つかったのは、人ではなく五つの獣の頭でした。なぜそこに埋められていたのかは、最後までわかりません。
まとめ
- 「月の夜がたり」は岡本綺堂の怪談。初出は1924年10月の「写真報知」
- 二十六夜・十五夜・十三夜にまつわる三つの怪談
- 第一話:御徒町の貸家の三畳に坐る婆さん。「また出ましたか」。二十六夜待ちの人ごみの行く先々に、その婆さん
- 迎え火の夜に空家へ入った婆さんの正体は、わからないまま。空家は昼間に燃えた
- 第二話:八月十五夜の明月の晩だけ、梯子の下に立つ人影。床下から五つの獣の頭
- 岡本綺堂の指輪一つ、白髪鬼、妖婆もどうぞ
参考文献
- 岡本綺堂. 月の夜がたり. 青空文庫. https://www.aozora.gr.jp/cards/000082/card45488.html (閲覧日:2026年10月12日)
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