※この作品には、登場人物が自ら命を絶つ場面と、動物が毒で死ぬ場面が出てきます。

プレ男試験のたびに幽霊が出てくるなんて…。それは受からないよ。

メル美しかも、まっ昼間の、人がたくさんいる試験場なんだって。
今回は、岡本綺堂の怪談「白髪鬼」(はくはつき)です。青空文庫の本文で読みました。初出は1928年(昭和3年)8月の「文藝倶樂部」です。本文中の「」の言葉は、青空文庫の本文からの引用です。
麹町の下宿
- 語り手はS弁護士。怪談などに興味のない人間だが、若いときにたった一度だけ、謎の解けない事件に出あった、と語りはじめます
- 15年ほど前、語り手の須田は、麹町の半蔵門に近い下宿から、神田の法律学校に通っていました。上品でおだやかな「奥さん」と、娘の伊佐子さんが切りもりする下宿です
- 同じ下宿の山岸は、三十前後。体格も顔色もよく、男らしく、郷里の実家からの送金で金づかいもいい人でした。伊佐子さんが山岸に心をよせているらしいことは、ほかの下宿人もみな気づいていました
酉の市の帰りに
- 11月はじめの晴れた夜、須田は四谷の酉の市で山岸に出あいます。山岸は、伊佐子さんへのおみやげに、小さな熊手と唐の芋を買っていました
- 帰り道、山岸は突然たずねます。「君は幽霊というものを信じますか」
- そして、夕飯がまだだという山岸に、須田は鰻屋の二階へつれていかれます
4回つづけて落ちたわけ
- 須田がふしぎでならなかったのは、学力も胆力もある山岸が、弁護士試験に4回つづけて落ちていることでした
- 鰻屋で、山岸は、今年かぎりで郷里に帰ると打ちあけます。そして、こう言いました。「その私が幽霊に責められて、とうとう自分の目的を捨てなければならない事になったんですよ」
- 試験場で答案を書こうとすると、「髪の毛の白い女」の姿があらわれる。まっ昼間で、窓の外は明るく、受験者は大勢いる。隣の人は平気で答案を書きつづけているから、ほかの人には見えないらしい
- 女は、山岸が書いている紙の上をじっとのぞきこむ。山岸は目がくらみ、頭がぼんやりして、めちゃめちゃの答案を出してしまう。下宿を変えても、席が毎年変わっても、女はかならずあらわれました

プレ男席が変わっても、ついてくるんだ…。
父の沈黙
- 3回目に落ちたあと、山岸は帰郷して、弁護士である父に、うっかり髪の白い女のことを話してしまいます。父は急にくちびるをきっと結び、「お前それは本当か」とたずねたきり、何も言いませんでした
- 今年も女はあらわれました。父は、自分も今年かぎりで登録を取り消して弁護士を廃業するから、お前も志望をあきらめるように、と言ってきたのです。「判らないながらも、なんだか判ったような気もする」と山岸は言います
- 須田は想像します。山岸の父が引きうけた訴訟の結果、ある髪の白い婦人が大きな不利益をこうむり、父をのろいながら死んだのではないか——けれど、それが実際にありうるかどうかは、大きな疑問だ、とも
鰻と黒猫
- 二人が食べきれなかった鰻の蒲焼は、折詰にして、伊佐子さんへのおみやげになりました
- 翌日、伊佐子さんは須田に言います。近所の黒い野良猫が、台所の戸棚の鰻を食べて死んだ。山岸さんは、おみやげだと言って、わたしたちを毒殺しようとしたのではないか
- 須田は、鰻はもともと自分たちの食べのこりだと熱心に説明しますが、伊佐子さんは疑いの目でにらみつづけます。奥さんも、娘がこのごろ妙に疑いぶかくなって困っている、と須田にこぼしました。山岸の郷里から、電報や手紙がたびたび来ていたのです

メル美伊佐子さん、山岸さんが帰ってしまうのがこわかったんだね…。
白い髪の婦人を乗せた自動車
- その夜、須田が外を歩きだすと、ヘッドライトの弱い一台の自動車とすれちがいます。車内には、髪の真っ白な婦人が乗っていました。自動車は風のように走りすぎ、どこへ行ったのかわかりませんでした
- 須田が下宿にもどると、伊佐子さんは、山岸の留守の部屋で劇薬を飲み、亡くなっていました。母にあてた書置には、「わたしは山岸という男に殺されました」
- 山岸は警察で調べられますが、伊佐子さんとの関係はなかったと言い、奥さんも同じように話しました。伊佐子さんは山岸の帰郷を悲しんで自ら命を絶ったものとされ、猫を殺したのも、薬の効き目をためすためだったのだろう、と考えられました
白く変わった髪
- 伊佐子さんの亡骸の髪は、しだいに色が変わり、納棺のときには、老女のような白い髪になっていました
- 通夜の席で、奥さんは話します。あの晩、家にもどると、表に自動車が停まるような音がした。出てみると、何もいなかった——
- 東京駅で、郷里へ帰る山岸を見送るとき、須田は自動車のことを話し、たずねます。髪の白い女は、試験場のほかでも見えるのか
- 山岸は平気で答えました。「堀川の家へ行ってからは、平生でも時々見えることがあります」「今だから言いますが、その女の顔は伊佐子さんにそっくりです」「わたしの眼には平生から真っ白に見えていましたよ」
- 須田が思わず身をかたくしたとき、発車のベルが鳴りました

岡本綺堂の「白髪鬼」で、山岸の試験場にあらわれた髪の白い女は、伊佐子さんにそっくりだったと山岸は語ります。それが何だったのかは、最後まで明かされません。
まとめ
- 「白髪鬼」は岡本綺堂の怪談。初出は1928年8月の「文藝倶樂部」
- 弁護士試験に4回つづけて落ちた山岸。答案を書こうとすると、「髪の白い女」が紙をのぞきこむ
- 郷里に帰ると決めた山岸と、山岸を思う下宿の娘伊佐子
- 鰻を食べた黒猫の死、白い髪の婦人を乗せた自動車
- 亡くなった伊佐子さんの髪は白く変わり、山岸は「その女の顔は伊佐子さんにそっくり」
- 岡本綺堂の妖婆、木曽の旅人、影もどうぞ
参考文献
- 岡本綺堂. 白髪鬼. 青空文庫. https://www.aozora.gr.jp/cards/000082/card43576.html (閲覧日:2026年10月12日)
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診断・治療に代わるものではありません。 気になる症状や不安がある場合は、医療機関にご相談ください。