※この作品は、関東大震災で家族を失った人をえがいた物語です。

プレ男関東大震災のあとが舞台の怪談なんだ…。

メル美こわい話というより、家族を思う気持ちの話なの。読んでみよう。
今回は、岡本綺堂の怪談「指輪一つ」(ゆびわひとつ)です。青空文庫の本文で読みました。初出は1925年(大正14年)8月の「講談倶樂部」です。本文中の「」の言葉は、青空文庫の本文からの引用です。
飛騨で聞いた震災
- 語り手は、若い私立大学生のK君。大正12年の夏、友人と京都や大津に遊んだあと、ひとりで飛騨の高山へ足をのばしていました
- 高山に着いて1週間目に、東京の大震災の知らせを聞きます。郷里は中国地方で、震災とはほとんど関係がありませんでしたが、くわしいことがわかるほど神経がいらだち、ついに9月17日、東京へ向かうことにしました
満員の汽車で
- 名古屋で乗りかえた汽車は、身動きもできない満員でした。「からだが煎餅のように潰されてしまいます」と、となりの男が話しかけてきます
- 男は本所の人でした。本所の被害がとくにひどかったことを知っていたK君は、思わずぞっとします
- 男——西田さん——は、絞染屋の主人。震災のとき伊香保に出かけていて、帰ってみると、職人4人、妻、娘ふたり、女中ひとり、あわせて8人の行くえがわからない、と言いました
- それでも西田さんは、「これも運で仕方がありませんよ」「東京じゅうで何万人という人間が一度に死んだんですから、世間一統のことで愚痴も言えませんよ」と、さっぱりした顔をしていました。それが、K君にはかえって悲しく感じられます
木曽の宿へ
- 眠れない夜がつづいたうえ、すし詰めの車内で、K君は具合が悪くなってしまいます。西田さんは、「わたしも御一緒に降りましょう」と、ことわるK君をかかえるようにして、奈良井の駅で降りてくれました
- 案内されたのは、町なかの古い大きな宿。いまは養蚕などが本業で、宿屋は片手間のようで、泊まり客もほかにいないようでした
- 目がさめると、もう夜。西田さんは言います。「こうなったら一日半日を争っても仕様がありませんよ。助かったものならば何処かに助かっている」

プレ男自分の家族のことで大変なのに、知らない学生を助けてくれたんだ。
夜の風呂場
- 西田さんにすすめられて、K君は長い廊下をわたって風呂場へ向かいます。夜露のひかる畑、きれぎれの虫の声
- 風呂場の戸のなかに、若い女の影が見えた気がしました。夜ふけに若い女の人が入浴しているところへ入るのはと、立ちどまっていると、どこかですすり泣くような声が聞こえます
- 思いきって戸をあけると、なかには誰もいません
- K君は、震災以来、神経が弱っているせいの幻覚だと考えます。西田さんの娘ふたり——姉は19、妹は16——の生死がわからないことが、頭にきざまれているからだ、と
- ところが、湯からあがって入口の戸をあけようとすると、足の爪さきに何かがさわります。それは、ダイヤ入りの金の指輪でした
裏に彫られた「みつ」
- 座敷にもどって西田さんに指輪を見せると、西田さんの顔色が急に変わりました。「どうも不思議だ、これはわたしの総領娘の物です」
- ありふれた形の指輪ですが、裏に「みつ」と平仮名で小さく彫ってある。それが確かな証拠だ、と西田さんは言いました
- 宿帳をしらべると、震災のあと泊まったのは、9月9日の夫婦連れだけでした。妻のほうが汽車で具合が悪くなって降りたという男女で、男は、大きなカバンに宝石や指輪をたくさん入れていたといいます
- 西田さんは、その男が、亡くなった人から指輪をうばったのではないか、と言いました
「娘のたましいが私たちをここへ呼んだのかも知れません」
- K君は考えます。自分が具合を悪くしなければ、西田さんはここに泊まらなかった。あの夫婦も、妻が具合を悪くしなければ泊まらなかった。偶然といえば偶然だが、その背後には、もっと深い力がひそんでいるのではないか
- 西田さんは言いました。「なんにしてもいいものが手に入りました。これが娘の形見です」「これはあなたのお蔭、もう一つには娘のたましいが私たちをここへ呼んだのかも知れません」
- 「そうかも知れません」——K君は、おごそかに答えました

メル美風呂場の泣き声は、お父さんに見つけてほしかったのかな…。
指輪一つ
- 10月のなかばごろ、西田さんがK君をたずねてきました。職人は3人までは見つかったが、ひとりはどうしてもわからない。元の場所にバラックを建てて、ようやく落ちついた、と
- 「それにしても、女の人たちはどうしました」とたずねると、西田さんは答えました。「わたしの手に戻って来たのは、あなたに見付けていただいた指輪一つだけです」

岡本綺堂の「指輪一つ」で、木曽の宿の風呂場に落ちていた指輪は、裏に「みつ」と彫られた、西田さんの総領娘のものでした。西田さんの手に戻ってきたのは、その指輪一つだけだったと物語は結ばれます。
まとめ
- 「指輪一つ」は岡本綺堂の怪談。初出は1925年8月の「講談倶樂部」
- 震災後の満員の汽車で出会った、家族8人の行くえがわからない本所の西田さん
- 具合の悪くなったK君を助けて降りた、木曽・奈良井の宿
- 夜の風呂場に若い女の影とすすり泣き。落ちていたのは、裏に「みつ」と彫られた指輪
- 「娘のたましいが私たちをここへ呼んだのかも知れません」
- 岡本綺堂の木曽の旅人、白髪鬼、『遠野物語』の幽霊の話もどうぞ
参考文献
- 岡本綺堂. 指輪一つ. 青空文庫. https://www.aozora.gr.jp/cards/000082/card43547.html (閲覧日:2026年10月12日)
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