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メル美葛の葉って、狐のお母さんが子どもと別れる話だよね。障子に歌を書いていくんでしょ。

プレ男その歌、なんて書いてあったの?
日本の妖怪、今回は葛の葉(くずのは)です。民俗学者・折口信夫の「信太妻(しのだづま)の話」(大正13年『三田評論』)、岡本綺堂の「妖怪漫談」(昭和3年)、楠山正雄の再話「葛の葉狐」を、青空文庫の本文で読みました。
プロフィール(折口信夫「信太妻の話」より)
| 名前 | 葛の葉(葛の葉狐) |
| 正体 | 信太(しのだ)の森(和泉国)の狐 |
| 姿 | 人の女性。夫は安倍安名(楠山正雄の再話では「阿倍保名(あべのやすな)」)、子は童子丸(どうじまる) |
| 正体がばれるとき | 本物の葛の葉姫が来たとき(『大内鑑』)、庭の乱菊を見て顔が狐になったとき(角太夫節) |
| 残した歌 | 「恋しくば たづね来て見よ 和泉なる 信太の森の うらみ葛の葉」 |
| よく知られた形 | 竹田出雲の浄瑠璃『蘆屋道満大内鑑(あしやどうまんおおうちかがみ)』の中ほどの部分 |

根付「狐が赤ん坊を抱き、筆を口にくわえる(歌舞伎『信太妻』葛の葉より)」19世紀、木彫。障子に歌を書く葛の葉の場面をかたどったもの。メトロポリタン美術館所蔵(10.211.2046、パブリックドメイン)
『蘆屋道満大内鑑』の葛の葉
- 折口は、今の人が信太妻について知っていることの中身は、ほとんどが竹田出雲の浄瑠璃『蘆屋道満大内鑑』の中ほどの部分だ、と書きます。その筋を折口はこうまとめています
- 恋人を亡くして心を乱した安倍安名が正気にもどったのは、信太の森。狩り出された古狐が逃げてきたのを、安名は救ってやった
- 亡き恋人の妹・葛の葉姫があらわれ、2人で幸せにひたっていると、石川悪右衛門という者があらわれて姫をうばう。安名が絶望して腹を切ろうとすると、さっきの狐が葛の葉姫に化けて止めに来た
- 安名は都へも帰れない身の上なので、摂津国の安倍野という村で夫婦として暮らし、子が生まれて5つくらいになるまで何事もなかった。子の名は童子丸
- そこへ、葛の葉姫の親が、本物の葛の葉を連れてやってくる。来てみると、自分の娘に似た女が布を織っている。話を聞くほどわからないことだらけで、今の女房がいかにも怪しい
- それを聞いた狐の葛の葉は、障子に歌を書き置いて逃げていきます
障子に書いた「恋しくば」の歌
- 恋しくば たづね来て見よ 和泉なる 信太の森の うらみ葛の葉
- 「恋しいなら、たずねて来てごらん。和泉の国の信太の森に」——折口は、この歌を「わかったようなわからぬような」名高い歌、「いかにも狐らしい歌」と書いています
- そのあと、童子丸があまりに母をしたうので、安名が信太の森へ連れていくと、葛の葉が出てきて、子に姿を見せる——という筋です

プレ男「恋しくば」って、自分から会いにおいでって言ってるんだね。切ない……。
もっと前の形:庭の乱菊で正体が出る
- 折口によると、『大内鑑』の前には、角太夫節(かくだゆうぶし)の正本「信太妻」があり、さらにその前に、同じ名の説経節の正本があったようだ、といいます
- 角太夫節の筋では、葛の葉の親などは出てこず、破局のきっかけがもっと自然です。ある秋の日、葛の葉が縁側に立って庭を見ていると、狐のとても好きな「乱菊」という花が咲いている。見ているうちに自然と本性があらわれ、顔が狐になってしまった
- そばで寝ていた童子が目をさまし、「お母さんが狐になった」とこわがって騒いだので、葛の葉は障子に「恋しくば」の歌を書いて去っていった
- 折口は、「子どもの無邪気な驚きが、やさしい母の破滅をみちびく」という形のほうが、古くて作為のまじらないものにちがいない、と書いています
室町のころには既にあった話
- 折口は、陰陽師の安倍晴明の母は人間ではなかった、狐の変化で、遊女になって諸国を流浪するうちにある人に引きとめられて3年住み、そのあいだに子ができたので、例の歌を残して去った——という話を紹介し、これは江戸より前、少なくとも室町のころには既にまとまっていたと見られる、と書いています
- 楠山正雄の子ども向けの再話「葛の葉狐」でも、母と別れた童子が、のちに安倍晴明と名のる筋になっています
中国から来た話?
- 岡本綺堂は「妖怪漫談」で、日本の怪談の多くは中国から入ってきたものだ、と書いています。そして、日本では葛の葉狐などがめずらしそうに伝えられているが、あんな話は中国には数えきれないほどある、もちろん中国から入ってきたものだ、と述べています
- 綺堂によると、中国では狐は人と獣のあいだにいる動物とされ、人に化けるどころか、修行して仙人にもなれると考えられていたそうです

折口信夫は、浄瑠璃『蘆屋道満大内鑑』より前の角太夫節では、葛の葉が庭の乱菊を見て顔が狐になり、それを見た子がこわがったので歌を残して去った、と紹介しています。折口は、子どもの無邪気な驚きが母の破滅をみちびくこの形のほうが古い、と考えました。
この妖怪の読みどころ
- こわい妖怪ではなく、かなしい母:葛の葉は人をだます狐ではなく、助けられた恩を返し、子を育て、正体を知られて去る母として描かれています
- 伝説は、作品で「固定」される:折口は、人気の浄瑠璃が出ると、それが伝説の「定本」と思われ、ほかの古い形はその異伝にくりこまれていく、と書いています。私たちが知っている葛の葉も、『大内鑑』の形です
- 人を化かす狐の話は『遠野物語』の「遠野の狐」、田中貢太郎の「狐と狸」、夜の野の「狐火」もどうぞ
まとめ
- 葛の葉は、信太の森の狐が人の女性の姿で安倍安名の妻となり、子を産んで去っていく物語の主人公
- よく知られた筋は、竹田出雲の浄瑠璃『蘆屋道満大内鑑』の中ほど。本物の葛の葉姫が来て、狐の葛の葉は去る
- 障子に残した歌は「恋しくば たづね来て見よ 和泉なる 信太の森の うらみ葛の葉」
- 前の角太夫節では、庭の乱菊を見て顔が狐になり、子がこわがったので去る。折口はこの形のほうが古いと考えた
- 晴明の母が狐だったという話は、少なくとも室町のころにはまとまっていたと折口は見た。岡本綺堂は、狐が人の妻になる話は中国にたくさんあると書いた
参考文献
- 折口信夫. 信太妻の話(初出『三田評論』大正13年4・6・7月). 青空文庫. https://www.aozora.gr.jp/cards/000933/card18402.html (閲覧日:2026年10月22日)
- 岡本綺堂. 妖怪漫談(初出『不同調』昭和3年12月号). 青空文庫. https://www.aozora.gr.jp/cards/000082/card49522.html (閲覧日:2026年10月22日)
- 楠山正雄. 葛の葉狐. 青空文庫. https://www.aozora.gr.jp/cards/000329/card18386.html (閲覧日:2026年10月22日)
- The Metropolitan Museum of Art. Netsuke of Fox Holding Baby and with Brush in Mouth from the Kabuki Play “Shinoda Zuma, Kuzonoha”, 19th century(10.211.2046、Open Access/パブリックドメイン). https://www.metmuseum.org/art/collection/search/59254 (閲覧日:2026年10月22日)
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