
メル美子どものころ絵本で読んだ気がする。でも、こわい話だったっけ?

プレ男「文豪怪談傑作選」っていう怪談の本にも入ってるんだって。最後まで読むと、たしかにこわい…。
今回は、小川未明の「赤い蝋燭と人魚」です。青空文庫の本文(底本:『文豪怪談傑作選 小川未明集 幽霊船』ちくま文庫、2008年。底本の親本:『日本児童文学体系5』ほるぷ出版、1977年)で読みました。初出は『東京朝日新聞』1921年(大正10年)2月16日〜20日です。
どんな話?
| 題名 | 赤い蝋燭と人魚 |
| 作者 | 小川未明 |
| 初出 | 『東京朝日新聞』1921年(大正10年)2月16日〜20日 |
| 収録(今回の底本) | 『文豪怪談傑作選 小川未明集 幽霊船』ちくま文庫 |
| 舞台 | 北の海と、海辺の小さな町。山の上の海の神さまのお宮と、その下の蝋燭屋 |
| 主な人物 | 母の人魚/蝋燭屋の老夫婦/人魚の娘/南の国から来た香具師 |
北の海の人魚の願い
- 人魚は南の海にばかりいるのではなく、北の海にもいた、と話ははじまります。北の海の色は青く、月の光がさびしく波を照らしていました
- 岩の上で休む女の人魚は思います。自分たちは魚や獣よりずっと人間に心も姿も似ているのに、なぜ冷たく暗い海の中で暮らさなければならないのだろう
- 人間はこの世でいちばんやさしい、かわいそうな者や頼りない者をいじめたりしない、いちど手にとったら決して捨てない——そう聞いていました
- 人魚は身ごもっていました。二度とわが子の顔は見られなくても、せめて子どもだけは、明るくにぎやかな人間の町で育ってほしい。ある夜、人魚は、海岸の山の神社の灯りをめざして泳いでいきます
お宮の石段の下の赤ちゃん
- 海辺の町の、お宮のある山の下に、小さな蝋燭屋がありました。おじいさんが蝋燭を作り、おばあさんが店で売っています。町の人や漁師は、お参りの前にここで蝋燭を買っていきました
- 月のいい晩、お礼参りに山へのぼったおばあさんは、帰りの石段の下で泣いている赤ちゃんを見つけます。子どものない自分たちに、神さまがさずけてくださったのだ
- その子は女の子で、胴から下は魚の形をしていました。「人間の子じゃあないが……」とおじいさん。それでも二人は、神さまのおさずけ子として大事に育てます
- 娘は、黒い目の大きな、つやつやした髪の、おとなしくかしこい子になりました。けれど姿がちがうことを恥ずかしがって、人前には出ませんでした
白い蝋燭に描いた赤い絵
- 娘は思いつきで、白い蝋燭に、赤い絵の具で魚や貝や海草の絵を描きました。だれにも習っていないのに、見ればだれでもほしくなるような、ふしぎな力と美しさがこもっていました
- 絵のある蝋燭は評判になります。そして、うわさが立ちました。この蝋燭をお宮にあげて、その燃えさしを身につけて海に出ると、どんな大あらしでも船がしずんだりおぼれたりしない
- 遠くの船乗りや漁師までやって来て、お宮の灯は夜も昼も絶えなくなり、山は急に名高くなりました
- けれど、手の痛いのもがまんして一心に絵を描く娘のことを思う人は、だれもいませんでした。娘はときどき、月のいい夜に窓から顔を出して、遠い北の青い海を恋しがって、涙ぐんでいました

メル美みんな神さまにはお礼を言うのに、描いている娘のことはだれも気にかけないんだ…。
南の国の香具師
- ある日、珍しいものを南の国へ持っていってもうけようという香具師が、娘が人魚だと見ぬいて、大金を出すから売ってくれと、こっそり老夫婦のところへ来ます
- 老夫婦ははじめ、神さまのおさずけ子を売れるものかと断りました。けれど香具師は何度も来て、「昔から人魚は、不吉なものとしてある」と、まことしやかに言います
- 老夫婦はついにそれを信じ、大金に心をうばわれて、娘を売る約束をしてしまいました
- 娘は泣いて頼みます。「どんなにも働きますから、知らない南の国へ売られて行くことを許して下さいまし」。けれど、作品のことばで「鬼のような心持」になった老夫婦は、聞き入れませんでした
すべて赤くぬった蝋燭
- 月の明るい晩、娘はひとり波の音を聞きながら、遠くで自分を呼ぶ声がするような気がして、窓の外をのぞきます。見えるのは、青い海を照らす月の光だけでした
- その夜、香具師が娘を連れにきました。車にのせてきたのは、かつて虎や獅子や豹を入れた、鉄格子のはまった四角い箱です
- 「さあ、お前は行くのだ」。せきたてられて、娘は手にしていた蝋燭に絵を描くことができず、みんな赤くぬってしまいました。そして、悲しい思い出の形見に、その赤い蝋燭を2、3本残していきました
真夜中に戸をたたく女
- その晩、とん、とん、と戸をたたく者がいました。「どなた?」と聞いても答えはなく、また、とん、とん
- おばあさんが戸を細くあけると、色の白い女が立っていました。女の長い黒い髪は、びっしょりと水にぬれて、月の光にかがやいています
- 女は箱の中からまっ赤な蝋燭をとり、じっと見入ってから、お金をはらって帰っていきました。灯りの下で調べると、それはお金ではなく、貝殻でした
- その夜、空のようすが急にかわり、近ごろにない大あらしになりました。ちょうど香具師が、娘を檻に入れて船にのせ、南の国へ向かって沖にいたころです。その夜、難破した船は数えきれないほどでした

真夜中に赤い蝋燭を買っていった女の髪は、びっしょりと水にぬれていました。置いていったのはお金ではなく貝殻。その夜、娘をのせた船が沖にいたころ、大あらしになりました。
赤い蝋燭のともる山
- それからは、赤い蝋燭が山のお宮にともった晩は、どんなに天気がよくても、たちまち大あらしになりました。老夫婦は「神さまの罰が当った」と言って、蝋燭屋をやめてしまいます
- それでも、どこからともなく、だれがあげるのか、毎晩、赤い蝋燭がともりました。むかしは燃えさしを持てば海の災難にあわなかったのに、いまは赤い蝋燭を見ただけで、その者はきっと災難にあい、海におぼれて死にました
- だれもお宮に参らなくなり、むかしはあらたかだった神さまは、町の鬼門になってしまいます
- 星も見えない雨の夜、波の上から蝋燭の光がただよい、だんだん高くのぼって、山の上のお宮をさして、ちらちらと動いていくのを見た者がいます
- 幾年もたたないうちに、その下の町はほろびて、なくなってしまいました
読みどころ
- 「人間はやさしい」という願い:母の人魚は、人間がいちばんやさしく、いちど手にとったら決して捨てないと信じて、子どもを託しました。物語は、その願いがどう裏切られたかを、静かな語り口で最後まで書いていきます
- 赤の意味がかわる:はじめ、赤い絵の具の蝋燭は海の安全を守るものでした。娘が売られていく夜、絵を描けずにすべて赤くぬった蝋燭は、あらしを呼ぶものにかわります
- だれが蝋燭をあげるのか:髪のぬれた女の正体も、毎晩お宮にともる赤い蝋燭をだれがあげるのかも、作品は説明しません。雨の夜に海から山へのぼっていく光だけが書かれています
- 童話と怪談のあいだ:青空文庫には、『定本小川未明童話全集』を底本にした本文(表題は「赤いろうそくと人魚」)と、「文豪怪談傑作選」を底本にした本文の両方があります。今回は、怪談集のほうの本文で読みました
- 海に棲む人ならぬものの話は、鮫人(さめびと)の記事にも。人間ではない女が人間のそばで生きる話には、小泉八雲の「青柳のはなし」があります
まとめ
- 「赤い蝋燭と人魚」は小川未明の作品。初出は『東京朝日新聞』1921年2月
- 北の海の人魚は、人間はやさしいと信じて、子どもを海辺の町のお宮の石段の下に産みおとす
- 蝋燭屋の老夫婦に育てられた娘が、白い蝋燭に赤い絵を描くと、海の災難よけとして評判になる
- 老夫婦は香具師の「人魚は不吉」ということばと大金に負けて娘を売り、娘は最後に蝋燭をすべて赤くぬって残していく
- 真夜中、髪のぬれた女が赤い蝋燭を買っていき、その夜は大あらし。やがてお宮は鬼門となり、町はほろびた
参考文献
- 小川未明. 赤い蝋燭と人魚(底本:『文豪怪談傑作選 小川未明集 幽霊船』ちくま文庫、筑摩書房、2008年。底本の親本:『日本児童文学体系5』ほるぷ出版、1977年。初出:『東京朝日新聞』1921年2月16日〜20日). 青空文庫. https://www.aozora.gr.jp/cards/001475/card54372.html (閲覧日:2026年10月22日)
- 小川未明. 赤いろうそくと人魚(底本:『定本小川未明童話全集 1』講談社、1976年。初出時の表題は「赤い蝋燭と人魚」). 青空文庫. https://www.aozora.gr.jp/cards/001475/card51005.html (閲覧日:2026年10月22日)
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