
プレ男「仏法僧」って、鳥の名前なんだって。それがどうして怪談に?

メル美高野山で、その鳥の声を聞いた夜に、とんでもない人たちに出会っちゃう話なの。
今回は、上田秋成の『雨月物語』巻之三「仏法僧」(ぶっぽうそう)です。青空文庫の「現代語訳 雨月物語」(上田秋成著、鵜月洋訳。底本:角川文庫『改訂 雨月物語 現代語訳付き』)で読みました。本文中の「」の言葉は、この現代語訳からの引用です。
高野山で、宿がない
- 伊勢の国相可の里の拝志氏は、早くに家をゆずって出家し、夢然と名のって、諸国を旅するのを老後の楽しみにしていました
- 無骨な末っ子の作之治に都の風流を見せようと、京都に1か月あまり、吉野で桜を見て、夏のはじめに高野山へのぼります
- 壇場から諸堂、霊廟とすべて参拝し、宿坊に「泊めていただきたい」と声をかけますが、だれも出てきません。通りがかりの人は言います。「この山では、すべて旅人に一夜の宿をかすということはないのです」
- 日は暮れ、足も痛む。夢然は、「旅というものは、こういうことがあってこそまた趣がある」と言い、奥の院の大師廟の前の灯籠堂で、夜どおし念仏をとなえることにしました
「ブッパン、ブッパン」
- 寺から遠い灯籠堂のあたりは、陀羅尼の声も鈴の音も聞こえません。夢然は作之治に、弘法大師が唐から三鈷を投げ、それが落ちたのがこの山だという話をしてやります
- そのとき、大師廟のうしろの林から、「ブッパン、ブッパン」と鳴く鳥の声が、こだまになって聞こえてきました
- 「いま鳴いている鳥が仏法僧というのだろう」。清らかな地をえらんですむという鳥。この山にすむと聞いてはいたが、声を聞いたという人もいないのに——と夢然は喜び、大師の詩偈や古歌を思い出して、ふだんたしなむ俳諧を一句詠みます
鳥の音も秘密の山の茂みかな

プレ男めったに聞けない声を聞いて、一句。ここまでは、ありがたい夜の話だね。
真夜中の行列
- もう一声聞きたいと耳をすますと、遠く寺のほうから、先ばらいの声がいかめしく聞こえ、こちらへ近づいてきます
- 若侍が御廟橋をあらあらしく踏んでやってきて、「何者だ。殿下のおいでだぞ。はやく下へおりろ」。親子はあわてて縁をおり、地面にひれふしました
- 烏帽子・直衣の貴人が堂にあがり、武士たちが左右にならびます。「常陸介、その方はどうして遅くまいったのだ」。肴がならべられ、美しい若侍の「万作」が酌をして、酒宴がはじまりました
紹巴の講釈
- 貴人が「久しく紹巴のはなしを聞かないな。ここへよべ」と言うと、夢然のうしろから、顔のひらったい大柄な法師が進みでました
- 一人の武士がたずねます。弘法大師の歌に「わすれても汲みやしつらん旅人の高野の奥の玉川の水」とあり、玉川の水には毒があるのでいましめた歌だと聞く。大師ほどの方が、なぜ毒の流れを涸らさなかったのか
- 紹巴は答えます。毒のある流れに、どうして「玉」という言葉をかぶせることがあろうか。むやみに仏をありがたがって、歌のことにくらい人は、こういう歌の意味の取りちがえをいくらでもするものだ——と、問いを出した武士をほめたたえました
「関白秀次公でいらっしゃるのだ」
- そのとき、堂のうしろで、また「ブッパン、ブッパン」。貴人は杯をあげ、「紹巴、一句どうじゃ」
- 紹巴は、今夜ここにこもっている旅人が、さっき当世風の俳諧を口ずさんでいた、と言います。夢然は御前に呼びだされ、句を申しあげよとせまられて、たずねました。「殿下と仰せられますのはどなたでいらっしゃいますか」
- 紹巴は答えます。「殿下と申しあげるのは、関白秀次公でいらっしゃるのだ」。そして、ならぶ人々は木村常陸介、雀部淡路、白江備後、熊谷大膳……不破万作、自分は紹巴法橋である、と
- 夢然は、頭に髪があったなら一瞬で太くなるかと思うほどの恐怖にふるえながら、句を書いてさしだしました。秀次は「こざかしくも詠みおったな」と言い、家臣の山田三十郎が付句をつけます
芥子たき明すみじか夜の牀

メル美真夜中の高野山で、もうこの世にいない人たちと、俳諧の会をしていたんだ!
修羅の時刻
- 淡路とよばれた人が、急に顔色をかえて言います。「もはや修羅の時刻になったようです。阿修羅どもがお迎えにまいったと申しております」
- 一座の人々は、たちまち血をそそいだように顔を真っ赤にし、「さあ、石田、増田のやつばらに、今夜も一泡ふかせてやろう」と勇みたちます
- 秀次は木村に言いました。「つまらぬやつにわが姿を見せてしまったわい。あいつ等二人も一緒に修羅道へつれてまいれ」
- 老臣たちが間に入り、「まだ寿命のつきない者どもでございます。いつもの悪行をなさいますな」——その言葉も人々の姿も、遠く大空のかなたへ消えていきました
夜明け
- 親子は気を失い、明けていく空の下、梢から落ちる冷たい露で息をふきかえしました。それでも夜が明けきらないおそろしさに「南無大師遍照金剛」ととなえつづけ、日がのぼるのを見て急いで山をくだり、京都で薬や鍼の治療をうけます
- のちに夢然は、三条の橋を通るとき、瑞泉寺にある秀次の悪逆塚のことを思い出して、思わずそちらに目がひきよせられ、「白昼でも物すごいありさまでした」と都の人に話した——その話を聞いたままに書きしるした、と物語は結ばれます

「仏法僧」の夢然と作之治は、高野山の灯籠堂で、関白秀次とその家臣たちの酒宴に出会います。「修羅の時刻」が来ると、一座は「石田、増田」に一泡ふかせようと勇みたち、大空のかなたへ消えていきました。
まとめ
- 「仏法僧」は、上田秋成『雨月物語』巻之三の一編。舞台は高野山の奥の院
- 宿をことわられた夢然と作之治の親子が、大師廟前の灯籠堂で一夜を明かす
- 霊鳥仏法僧の「ブッパン、ブッパン」の声に、夢然は「鳥の音も秘密の山の茂みかな」
- 真夜中にあらわれた貴人の酒宴。連歌師紹巴が明かした名は「関白秀次公」
- 「修羅の時刻」に一座は消え、親子は気を失う
- 同じ『雨月物語』の白峯、夢応の鯉魚、青頭巾もどうぞ
参考文献
- 上田秋成(鵜月洋訳). 現代語訳 雨月物語(底本:角川文庫『改訂 雨月物語 現代語訳付き』KADOKAWA). 青空文庫. https://www.aozora.gr.jp/cards/001271/card60609.html (閲覧日:2026年10月12日)
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